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第30回 し尿研究会の報告

世界のトイレ博物館を巡って

関野 勉 氏

日時 ; 平成16年10月22日(金)18時30分より
場所 ; セントラルプラザ 10階 A会議室
講話者; 関野 勉 氏(本会会員)
演題 ; 「世界のトイレ博物館を巡って」
内容 ; ドイツ・ミュンヘンの「おまるの博物館」、オーストリア・ラウフィンの「トイレ博物館」それにインド・ニューデリーの「スラブ・トイレ博物館」を見学した際に撮影したビデオや写真、入手した図書を紹介するものである。




「世界のトイレ博物館を巡って」

 平成16年10月22日(金)、東京・飯田橋の東京ボランティア・市民活動センターで「世界のトイレ博物館を巡って」と題して、屎尿研究会例会が行われました。講話者の関野勉さん自らが見学してきた三つのトイレ博物館の展示物について、ビデオや写真やパンフレット・刊行図書を駆使しての立体的な紹介でした。以下はそのほんのさわりです。

ドイツ・ミュンヘンの「おまるの博物館」

 見学したのは1989年で、一般のアパートの一階にありました。「おまる」を収集したのは、館長でもある弁護士のマンフレット・クラウダ氏です。1984年頃にオークションで手に入れたのがきっかけとか。私が行った時には57000個を収蔵していると言っていました。目玉は、「マリー・アントワネットのものといわれている「おまる」です。現在は、ミュンヘン市役所の近くの「おもちゃの博物館」と同じ建物に移転しており、収蔵物も1万個に増えているそうです。

オーストリア・ザルツブルグ郊外クムンデンのラウフ工ン・サニタリーミュジアム

 見学したのは1992年のことです。衛生陶器メーカーが運営しており、展示物は、新しい製品を売ると同時に古い製品を引き取るという手法で収集したそうです。雑然と陳列されているという印象を受けました。INAXから刊行された「ヨーロッパ・トイレ博物誌」に、ここの展示物の写真がたくさん載っています。

インド・ニューデリーのスラブトイレ博物館

 訪問したのは2002年と2004年の二回です。展示物の大半は、ラウフェン・サニタリーミュジアムから分けてもらったもののようです。ここは単なる博物館ではなく、むしろ、カーストの最下層の人たちを新たな職業に就かせるための教育と、糞尿の再利用を目指した(たとえば、嫌気発酵して得たメタンガスをガス灯や燃料に利用)トイレの普及をPRすることを主な目的としたところです。この背景には、糞尿の汲取りや運搬をこのカーストの人たちが親子代々行ってきた、ということがあります。館内のビデオ撮影も自由に許してくれました。入館料の代わりに寄付金を置いてきました。

(地田 修一 記)




「世界のトイレ博物館を巡って」

関野 勉
1.ドイツ・ミュンヘンの「おまるの博物館」
2.オーストリア・ザルツブルグ郊外クムンデンのラウフェンサニタリーミュージアム
3.インド・ニューデリーのスラブトイレ博物館
4.博物館見学の心構え

 世界には変わった小さな博物館がたくさんあります。また、それらの博物館を紹介する書物も最近は出ています。私が訪問した外国のトイレ博物館と、日本にいて世界中のトイレを見学できる場所を紹介したいと思います。

1.ドイツ・ミュンヘンの「おまるの博物館」

 私が訪問したのは1989年5月のことで、日本トイレ協会主催の第1回「ヨーロッパトイレ事情調査団」に参加した時でした。場所は、ドイツ・ミュンヘン市の中心から離れた住宅街の中にあり、アパートの1室を陳列室に使用していました。最近は、いつ移転したのかまでは分かりませんが、ミュンヘン市の中心、市役所の近くの「オモチャの博物館」のある建物に同居しているとのことです。
 「おまる」を収集したのは、弁護士のマンフレッド・クラウド氏で1984年頃にオークションで入札したのが初めで、収蔵品は、私が訪問した時には5,000個と言っていましたが、最近は10,000個に増えているようです。この博物館の目玉は、マリー・アントワネットの「おまる」と言われるもので、「世界まるごとHOWマッチ」(KKベストセラーズ刊・ワニの本。同名のテレビ番組で放送された記録)に詳しく書かれており、160万円だそうです。私が訪問した時は放送済みだったようですが、私も含めて皆知りませんでした。また、この博物館のことは、「排泄全書」(原書房刊)の92〜93頁に詳しく載っています。

2.オーストリア・ザルツブルグ郊外クムンデンのラウフェンサニタリーミュージアム

( 私が訪問したのは1992年5月のことで、日本トイレ協会主催の第2回「ヨーロッパトイレ文化調査団」に参加した時でした。
 訪問の前の1988年にINAXのショールームにこの博物館の便器が陳列されたことがあり、製品はINAXが提携して販売していました。そして、館長のフリッツ・リシュカ氏が来日して講演もし、また日本経済新聞の1988年10月7日の文化欄に寄稿しています。さらに、INAXが刊行した「ヨーロッパ・トイレ博物館」に館長の収集来歴が詳しく載っています。また、写真もたくさん掲載されています。
 私はこの博物館で、1850年頃使用されていたといわれるトイレットペーパーの復刻品を一冊頂きました。このトイレットペーパーは文庫本より一回り大きい本型で、左側にミシン目があり、破いて使用するようになっており、本にはトイレに関することが印刷されています。
 また、この時の訪問ではフランス・パリで下水道博物館も見学しました。下水道建設の過程、掃除などに関するパネルや現物が展示されていて、1週間に1度だけ見学できるようです。

3.インド・ニューデリーのスラブトイレ博物館

 私が訪問したのは、最初は2002年でインド・インダス文明ドーラービーラ遺跡の観光の途中、ヒンズー教とイスラム教の暴動に巻き込まれて観光できずにドーラービーラーの遺跡を前に引き返した時に、一日余裕ができたので1人で訪問しました。
 2回目は、2004年2月でドーラービーラー遺跡見学の最後の日の自由時間を利用しての訪問でした。
 場所はニューデリーのインデラガンジー空港から西方にタクシーで30分ほどの所にあります。スラブトイレ博物館を知ったのは、1993年頃に開催された香港でのアジア・太平洋トイレシンポジユムでパンフレットを手に入れたときでした。その後、2,000年11月3日の朝日新聞にこのスラブトイレ博物館に関する記事が載りまして、インドに出かける時には是非訪問したいと思っていました。v  ここの特徴は、野外展示物として様々なタイプのインドに合ったトイレを陳列していることです。公衆トイレで発生する糞尿から、メタンガスを取り出して利用する方法も展示しておりました。展示物の中には、ラウフェンから買い取ったと思われる物がいくつかありました。インドのカースト制度について考えさせられることが多々ありました。

4.博物館見学の心構え

 博物館を目的を持って見学する場合は、前もって資料があれば読み、頭に入れて見学すれば、折角の見学を充実させることができるでしょう。私は資料もなしに出かけることが多く、帰ってきてからあれもこれももっと見てくれば良かったと思うことが、多々あります。しかし、その資料を見つけるのが至難の技なのです。普段からの気配りが必要で大事です。
 日本でも世界中のトイレを見学できる場所があります。東京からでも日帰りが可能ですので、是非一度出かけてみてください。それは、名鉄が経営している「リトルワールド」です。ここには、アイヌ、韓国、フランス、インド、タイなど10数ヶ国以上のトイレが展示されています。目立たない所もありますから、気をつけて見学してください。
 トイレについては、最近は、以前からの書物ばかりでなく、テレビでもよく放送されるようになりましたので、目に入り耳に聞こえるようになってきました。こまめに集めますと、思わぬ所から知りたい情報が得られることがあります。
 普通の博物館は、写真撮影もビデオ撮影も許されないのですが、トイレ博物館は、絵画と違い、光を当てても痛む可能性のない展示物が多いからなのか、また、訪れる人も少なく一般に公開していないせいもあってか、あるいは団体で訪問したからなのか、私は全て自由に写真撮影ができました。
 観光旅行で出かけても、思わぬ場所に珍しいトイレがあるものです。私が出会ったのは、1つのブースに3種類の便器があるトイレでした。「3個も設置するならブースを3ヶ所にすれば良いのに」と思うのは私だけでしょうか。それは、インドのあるレストランでのことでした。トルコ式便器、洋便器、朝顔型の3種類が1つのブースの中にありました。それらは左から並んでいて、洋便器の前に入り口があり1人しか入れませんでした。しかも、トイレはここ1ヶ所ですから、多人数の場合は時間がかかりました。