<<
屎尿・下水研究会

TOP

屎尿・下水研究会の概要

お知らせ

発表タイトル

特別企画

企画図書類

更新履歴


読み物シリーズ


シリーズ ヨモヤモバナシ



バングラデシュダッカ市で開催された「バングラデシュ廃棄物セミナー」について
 第63講:バングラデッシュの制度や社会に適応しながら,プロジェクトの自助努力によって自立発展の支援の記録 その5

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 ダッカ廃棄物処理改善技術協力プロジェクトが完了し,その後10年間の活動として制度改革の実施や,実施に伴う市役所の慣習変化,市民や社会慣習の変化について,実際に体験したダッカ市職員に感じたままを今回のセミナーで発表してもらった。

 プロジェクト実施中に,もう一つ重視していたことは,プロジェクト活動を通じて
@ ダッカの清掃事業を清掃監督員及び清掃員に理解してもらうこと
 つまり,清掃監督員及び清掃員にヒアリングすると,2007年当事は清掃監督員及び清掃員は,集めたごみを埋立地で処理することすら知らなかったため,清掃事業の基礎知識を付与することであった。そこで清掃監督員及び清掃員に基礎的知識を教育することを検討した。清掃監督員は全部で90名,清掃員は全部で8,000名だったので,チーム内では実現性を懸念したが最終的には5,000名に対し,2008年から2012年まで20回に分けて実施した。清掃監督員及び清掃員への清掃事業の基礎教育,安全作業教育などはダッカ市役所廃棄物管理医局職員と話し合ったが当時の廃棄物管理局長は海軍からの出向で理解を示さなかった。清掃監督員に意見を聞くと廃棄物管理局長に忖度していて意見が聞けなかったため,清掃組合の幹部に意見を聞いたが「ダッカ市では清掃員の教育はできない。多くの道路清掃員は字が読めないし,事実の認識が彼らの常識で判断するので我々とは全くことなる。」
 何とかJICAプロジェクト側でできないかという強い意見であったことから,清掃事業の基礎知識や安全衛生作業の教育の必要性からプロジェクト側で実施した。当初,清掃員は2,3時間の研修を受けたことがなかったので,研修中に私語は当たり前,研修中に離籍してうろうろ歩くなど実施に困難なこともあったが次第に研修の形態に慣れていった。

A 活動で起こった清掃事業の変化 事実を「正確に現場に伝える」ことをどのようにするか。
 清掃事業を取り巻く多種多様の利害関係者にどのように何を伝えるかが問題であった。ここでも多くの道路清掃員は字が読めないし,事実の認識を彼らの常識で判断するため,我々の認識とは全く異なるので,どのように伝えるか工夫を要した。
 ニュースレター発刊前に清掃監督員と意見交換をしたが,「清掃監督員は今まで清掃事業全体のことを考えたこともない」というし,仮にニュースレターのような紙媒体で事実を伝えるにしても清掃監督員全員が英語を読めないので,ベンガル語版のニュースレターの希望が多かった。チームのメンバーの中でも現場の何も知らない道路清掃員にニュースレターを配布しても読まないし,どうせ分からないと主張する団員もいた。
 安全衛生委員会を開催しても清掃員が議論などできるのかという団員の意見にも苦しめられた。広報については団内でなかなか意見がまとまらなかった。道路清掃員の清掃作業マニュアルは,絵本のようなものとし,ニュースレターは最終的にはベンガル語版も作成し定期的に発行した。
 業務説明のためにWBA小冊子tも英語版とベンガル版を作成した。
 さらに視覚に訴えるためにプロジェクトを説明するDVDを3種類作成した。

 しばらくはプロジェクト活動を説明するニュースレターを定期的に発行したが,「利害関係者が活動を理解するということ」は,単に活動を数値で説明するだけのニュースレターだけではプロジェクトの説明になっていない。自立発展させるためには不十分な知識で,多くの利害関係者が清掃事業の活動の方針,清掃事業を支える法制度のしくみなどもできるだけ提供することが必要だと気が付いた。

1「清掃事業業務指針」の作成に取り組み

 そこで,この連載でご説明した清掃事業のこれからの方向性を示した「清掃事業業務指針」の作成に取り組んだ。つまり,これからのダッカ市の清掃事業の方向性を分かり易く説明した資料の作成である。

2 清掃事業実施細目の作成

 清掃事業という公共事業を支える法律を清掃監督員に理解してもらう必要があった。特に廃棄物管理事務所長になった清掃監督員は公共サービスを担う公務員であるので清掃事業を組み立てている廃棄物管理法令,条例,事務規則,不文律だが慣習法のようなことまで裳までもまとめる必要があった。
 これを本連載でも説明した「清掃事業実施細目」としてまとめた。

表1 清掃事業業務指針,清掃事業実施細目,ニュースレター,WBA小冊子tの内容

本稿の終わりに

 結局,清掃事業の実態を正確に現場に伝える方法には,まず,清掃員への清掃事業の基礎知識を付与する研修,安全作業の教育,健康管理の教育を実施しながら,同時に以下の広報と研修の道具を活用した。


1 経験による研修(第62講参考)
2 ニュースレター 英語版,ベンガリ語版の活用)
3 清掃事業指針,英語版ベンガル語版(2007年版,2012年版,2016年版)
4 清掃事業実施細目英語版(2007年版,2012年版,2016年版)
5 DVD(ダッカ市廃棄物管理,WBA,埋立地管理)
6 WBA Booklet英語版,ベンガリ語版(2008年版,2013年版)
7 清掃作業マニュアル,ベンガリ語版
そして
8 現場での説明会
によった。


※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括