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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第56講:日本型開発協力とソーシャルイノベーション −知識創造が世界を変える− 野中郁次郎 編著について

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

1 はじめに

 日本型開発協力とソーシャルイノベーション野中郁次郎 編著(千倉書房)について,本の詳しい説明をせずに,第53講,第54講,第55講で,本の内容について記述した。
 本稿では多少書評のようになるが,以下に本書の説明をしたい。

2 日本型開発協力とソーシャルイノベーション 野中郁次郎 編著(千倉書房)について

 日本は発展途上国への技術協力プロジェクトで,自助努力,自立発展を支援して,開発援助では大きな成果を上げてきている。近代化を進める過程での試行錯誤を繰り返した多くの経験を背景に,各々の現場の工夫と努力で効果を上げてきた特徴がある。廃棄物処理改善の分野の支援においても,日本では,清掃事業の組織改善などの技術協力プロジェクト,収集量の向上のための収集車両の機材無償供与,処分場の建設などを借款(ローン)で実施するスキームなど様々な支援形態も用意されている。また,支援の対象国はアジア全域,中東,アフリカ全域, 中部アメリカ,南アメリカに及ぶ。支援の内容は国によって異なり巧みなソフトパワーを使って,政策立案支援,組織改革,人材育成,環境教育,収集の有料化,収集の民営化,収集システムの改善,廃棄物中継所の建設,埋立地建設,機材や埋立地の維持管理の改善など,ほぼ廃棄物処理事業をカバーしている。
 本書において,記述されている研究では,技術協力プロジェクトにおいて,全く異なる知識創造理論の視点から,活動がどのように成果に結び付けられたかについて,野中郁次郎一橋大学名誉教授を中心とした研究プロジェクトチームがつくられて日本型開発協力とソーシャルイノベーションとしてまとめた研究書である。
 本書の特徴は,知識創造理論分野の専門家が技術協力プロジェクトについて知識創造理論の視点から海外という文化も制度も異なる国で行われた活動について研究に取り組んだことである。野中郁次郎一橋大学名誉教授は中小企業大学校校長をされ,海外の大学からの表彰もあり,知識創造理論の世界的権威である。著書には「失敗の本質」,「ソーシャルイノベーションの実践知」等多数がある。研究チームは国際協力機構(JICA),大学教授,国際協力関係の業務に関わる7名で構成される。
 この本は,代表的な7つのODAプロジェクトを取り上げ,各々の活動の成功事例の仕組みを知識創造理論の視点から解析し,そこからソーシャルイノベーションが起動する仕組みを紹介している。
 本書の研究の中で廃棄物関係のプロジェクトである「クリーンダッカ・プロジェクト」を一例として挙げる。
 クリーンダッカ・プロジェクトはバングラデシュの首都ダッカ市の廃棄物問題解決に取り組み,解決に至ったプロジェクトである。ダッカ市は東京23区の約5分の1で,人口は,1,700万人,東京都より多い。世界有数の人口過密都市である。
 近年の技術協力プロジェクトは,ソフトパワーを発揮させガバナンスに取り組むが,クリーンダッカ・プロジェクトでも,ダッカ市役所の中に廃棄物管理局(清掃局)を設立,市に90ある区に廃棄物管理事務所を建設,職員啓発による事務所長の育成,地域分散管理を実現し,ごみ収集は住民啓発を実施し,住民の積極的参加による定時定点収集を実施した。活動すべてはダッカ市職員と住民の能力を引き出し,協働で推進され,いまも自立発展している。
 本書の研究では,ダッカ市の清掃事業の利害関係者(市役所職員,道路清掃員,収集車運転手,地域住民,商店主,学校関係者,ホテル職員等)が協働で清掃事業を進めて,社会全体に事業が広がった仕組みと,その原因を解析している。また多くの利害関係者が相互に影響しあい新たな活動を創発し,発展させてきた構造解析を行っている。さらに研究では各々の利害関係者の持つ潜在能力(暗黙知)を把握し,活動にとりいれる手法が示されている。  そのためには清掃事業の活動を分析的ではなく,活動を活動としてとらえること(現象を現象としてとらえること)の重要性を示している。
 その他本書で取り上げられた研究対象プロジェクトは
・奇跡を導いたリーダーシップを支えた戦略的取組「カンボジアプノンペン水道事業」
・日本のソフトパワーとしての共感と信頼の関係「ミンダナオ平和構築」
・日本の経験と現地のすり合わせ「ネパール震災復興事業」
・アフリカ売れるものをつくる農業
・セネガルみんなの学校プロジェクト
・顧みられない熱帯病克服「中米シャーガス病対策」

3 本稿の終わりに

 本書ではODAの技術協力プロジェクトの取り組みについて,知識創造理論の視点での研究結果をまとめている。
 複数の利害関係者が協働で活動し,相互に影響しあい,活動そのものが無数の複雑で新たな知見を創造し,自立発展をしていく取り組みになっていくことを示している。7つのプロジェクトの事例は参考になると思う。
 机上で計画し,演繹的に,あるいは帰納的に作られる活動では到達できないゴールを新たな視点で見られることを示している。
 次回より本書の視点を筆者の解釈で記述する。



※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括