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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第52講:廃棄物収集を数理工学的アプローチで解析するということは内部牽制,自己統制及び自浄作用その3

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

3 行政の施策の軌道修正の原動力となっていった内部けん制,自己統制及び自浄作用

 今回は内部けん制,自己統制及び自浄作用を通じた息の長い取り組みを行った活動について記述したい。プロジェクト内部で話し合ったことがあるが,メンバーの中にそんなことをやる必要があるのかといった異論もあるほど,効果が分かりにくい試みであった。取り組みを始めた当初から成功したのか失敗したのか,その成果が分からなかった。
 しかし今回ダッカに訪問し,職員の意識改革,変化が随所で感じることができ,成功したのではないかと考えている。分かりにくいので具体例を以下に示す。
 例@ 職員が清掃事業の推進の仕組み,道具としてWBAを独自に解釈し,推進してきた。たとえばWBAの活動をダッカ市でも評価し,条例化が行なわれ,2013年にプロジェクトが終了した時点でWBAの活動に指標となる廃棄物管理事務所は12か所建設されていたが,今回調査した北ダッカ市では34か所,南ダッカ市で30か所の廃棄物管理事務所が建設され,運営されていた。2013年から2024年にダッカ市独自で52の廃棄物管理事務所を建設し,運営していたことになる。
 例A 清掃監督員の努力が実り,ダッカ市でも清掃監督員の活動を高く評価し,清掃監督員のダッカ市役所の中での行政的な職制の位置づけが上がっていた。清掃監督員であった職員が,北ダッカ市,南ダッカ市で廃棄物管理副局長になっていた。
 例B 清掃監督員は後継者を育成するために,新任研修を企画していた。

表3 ダッカが廃棄物管理改善で利用した内部けん制,自己統制,自浄作用の例その3




清掃監督員から南ダッカ市廃棄物管理副局長(上)及び北ダッカ市廃棄物管理副局長(下)に昇格した (撮影2024年4月)

本稿の終わりに

 今回の取り組みは,結果的にプロジェクトの活動が,清掃監督員の価値観にまで触れる活動となり,しかも長い活動の中で,次第に変化していくことを示しているのではないかとも思える。清掃監督員,あるいは廃棄物管理局職員には影響があったように思う。
 筆者はプロジェクトを一緒にやってきたので,この成果を誇りに思っている。
 手元に2024年4月に出版された一橋大学の野中郁次郎名誉教授が書かれた「日本型開発計画とソーシャルイノベーション(千倉書房)」がある。この本の第一章では「クリーンダッカ・プロジェクト」が取り上げられ,研究成果が書かれている(P17−P55)。研究について次回報告したいが,通常はプロジェクトの成果のみが話題になるところが,この本ではどのようなアプローチで行い,どのように結果が表れていったかについて詳細に記述されていた。
 本連載でも読者にお伝えしたいことは,とかく見逃されがちな新たな知見,考察,清掃の技術,その他あらゆる技術(ここでは行政も技術と考えているが),野中郁次郎名誉教授の研究グループは,表現は違うが哲学的背景.どのような考え方を選択しアプローチし,行っているかを記述して下さっている。


※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括