読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第48講:廃棄物収集活動を表現するモデルの作成及び同調圧力強度,選択傾向
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
1 廃棄物収集改善活動の解析のためのモデル化
ダッカ市に新しい廃棄物収集形態の定時定点収集を導入するとき検討したことを記述したい。
担当職員,地域住民は定時定点収集方式を全く知らないため,チームが繰り返し説明した。当初は,職員も住民も少数の積極的導入派と大多数の消極派に分かれていた。プロジェクトチームは,さらに理解を深めてもらうために説明を繰り返し,パイロットプロジェクト実験の様子を見せたところ,積極派が次第に増加し,消極派が減少した。つまり積極派を増やす同調圧力強化により状態が変化していく。さらに,両グループは互いに意見交換し,時間とともに,積極派と消極派の人数が一定の割合で安定していく。このような社会活動をモデル化できないかと考えてみた。
クリーンダッカプロジェクトで取り組んだ実際の例を挙げる。ダッカでは無償資金協力で収集車(コンパクター車)を導入した。 コンパクターと定時定点収集活動の同時導入を試みたが,前述したように導入当初,積極派と消極派が生じた。まず導入積極派が,消極派の説得を試みた。この行動を同調圧力と呼ぶが,廃棄物収集改善活動モデルでは,同調圧力強度が強いときには,一方の消極派が応じる(選択傾向が変化する)。また,同調圧力強度がさらに増し,状況が安定していく。
このようなモデルを考えた時の変数を整理すると同調圧力強度,同調圧力強度に応じた選択傾向(好み),積極派から消極派に遷移する確率,あるいは消極派から積極派に遷移する確率,が考えられる。
2 同調圧力強度と選択傾向について
2−1 同調圧力強度が増す活動
(a)同調圧力強度について
同調圧力の強度というものは,活動の周辺の状況,周辺の活動との関係,実施するタイミングなどにより微妙に変わるので,一概に評価することは難しい。ダッカ市の収集改善活動で行われた同調圧力の活動の評価例を第33講と第35講で示したが,同調圧力の活動についての是非を問うことはさらに難しい。
そこで,ここではダッカ市の収集改善活動で行われた職員の意識改革,啓発のための同調圧力の活動を示す。
表1 職員の意識改革,啓発改革の同調圧力活動
表2 同調圧力強度としての住民啓発
廃棄物管理局職員と住民との共同で,計画,実施したラリーの様子。 数時間地域を行進する
定時定点収集を導入する地域での,積極派と消極派の住民が話し合う会議
定時定点収集を導入するに当たり,法的背景を検討するため,清掃事業実施細目を改定する必要があるか職員が住民に説明する
清掃職員が廃棄物管理事務所に集まり,清掃事業について議論し説明する様子
地域住民が定時定点収集を開始するキックオフ会議,収集運搬ルートの決定,収集点を決めていく
地域住民と廃棄物管理局によるダッカ市の清掃事業指針策定の様子
3 本稿の終わりに
第46講では,考えられる5種類のモデルについて論じたが,@線形モデル,A非線形モデルは社会システムのモデルには適さないことも話題にした。また,B自己組織化が内蔵する仕組みは,これから社会でも研究する必要がある。自己組織化の構造内包のモデル化は現状では難しい。本稿では社会システムの構造を表せる可能性を残している,C自己組織化の原因がゆらぎであるような,モデルの可能性を示した。
この結果は確率統計力学を応用したモデルで,重要な変数である同調圧力強度と選択傾向があるが,積極派の同調圧力強度が強く,消極派が説得に応じて積極派のグループに移っていくことがうまく表せることが期待される。
興味のある方はご連絡をお願いします。
参考文献
1 石井明男 第33講 廃棄物プロジェクトの特性についての対応 その2 職員啓発内容と効果,評価 都市と廃棄物 Vol,52,No.5 2022
2 石井明男 第34講 廃棄物プロジェクトの特性についての対応 その3 住民啓発内容と効果,評価 都市と廃棄物 Vol,52,No.7 2022
※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括