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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第45講:社会活動である廃棄物処理改善について考える

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

97 廃棄物処理改善プロジェクトの数理工学的アプローチ

 一つのプロジェクトが完結すると,その結果や過程から活動を分析し,帰納的に学習する場合と演繹的に学習する場合がある。
 帰納的論理は確率的な可能性に根差すので,Aが起こればBが起こる必然性はなく因果的知識に起因する科学的知識について懐疑的になるケースが生ずる。しかし(自然)科学は経験科学である以上 数学や論理学のような形式科学のように演繹的検証に頼ることはできない。また,帰納的正当化の問題は成功していない。そして,K.ホパーのように科学にとって帰納法は,無用の長物であると主張する哲学者さえもいる。
 因果関係は,歴史的には,あるいは哲学の分野において多くの根本的批判によって揺らいできたが,最終的には普遍妥当性については現在も自然科学の基礎となっているように思える。ヒュームの因果律批判を経てニュートン物理学は確立され,物理現象のモデルになっていることからも言えるのではないか。
 しかし,非線形であり,複雑な組織や構造を持つ生命体や社会組織,複雑な振る舞いをする社会活動のモデルには因果関係では十分に説明できないうえ,使えないことも明らかになっているように思える。
 物理現象モデルでも,負帰還(フィードバック)を持つサイバネティックスモデルや非線形的な自己組織化モデルは,これまでの線形的な因果関係を持つモデルでは対応が困難な状態である。そこで,様々な新たな挑戦が始まってきている。

98 数理工学的な視点で見ると非線形構造を持つ海外技術協力で実施する廃棄物処理改善活動(プロジェクト)についての評価について考える

 通常,廃棄物処理活動を評価するときに,廃棄物収集量,廃棄物収集率,コストなどを用いている。条件や場合を考えると事業結果の評価の道具として有用な場合もある。しかし,今回は活動(プロジェクト)の経緯を含めた活動の評価を考えてみたい。
 クロード・シャノンの提唱した情報理論(参考文献 Mathematical theory of communications1948)の当初の目的は,「価値ある情報を正確に高速に伝えられる通信システムをどのように作るか」を考えていたが,その情報理論の中で,情報の価値は情報の貴重さと解釈し,確率を用いて「情報エントロピー」で表現した。情報エントロピーの表現は情報の期待値に相当する。情報エントロピーが大きいと情報が貴重であるので価値が大きいということになる。情報エントロピーにより通信の質や利得を表現することができている。情報の中の雑音により低下する通信の品質がどの程度保たれるかをエントロピーの概念を用いた情報理論を用いた。
 通信文が伝送とともに秩序を失うという考え方が生まれ,その後,1970年代にはその考え方が拡張し,低エントロピーを生みだす生産活動,絶えずエントロピーを増大している生命系が負のエントロピーを吸収し.低エントロピーを保持する新しい捉え方を示した。情報エントロピーの考え方は,社会科学にも適用できる可能性を大いに含んでいる。その後,環境問題やエネルギー問題への考察に使用されて広義の情報理論に拡大され,社会活動の捉え方,考え方も変わってきた。
 また,もう一つ社会活動に利用できる.N.ウィナーの提唱した「サイバネティックス」がある。副題が−動物と機械における制御と通信−(1961)とあるように,従来の制御と違った様々な制御の形態を数理工学的に解析する糸口を示してしている。このサイバネティックで提示された事象のとらえ方を用いて,社会科学に数理工学が適用できる可能性を示している。

終わりに

 国際協力機構での技術協力プロジェクトを体験して最も強く感じることは,現地の職員とともに触れ合いながら活動を実施し,進めていけることである。活動を行いながら,文章では説明できない暗黙知についても技術協力プロジェクトでは現地職員や住民に伝えることができるという大きな利点がある。暗黙知は実際の活動の90%を占めるともいわれる。言い換えるとほとんどは文字化(表現化)できない活動になる。
 97で説明したように,社会活動をモデル化すると,ほとんどが非線形の構造になってしまう。仮に非線形モデルでないモデルを作って解析しようとすると,社会活動独特の挙動が明確に表れないで,有益な解析にならない可能性がある。


ダッカ大学とダッカ市役所が共同で主催し,住民対象の清掃事業公開セミナーを実施している様子

ダッカ市役所,清掃事務所と共同主催で実施した住民との意見交換会議

地域の清掃事業を中心的に推進するために建設された清掃事務所。
清掃事務所は90ある区のうち53か所で建設されている。
清掃監督員が清掃事務所長となり地域の清掃事業を運営している

地域に新しい収集方法の導入をするために地域の清掃事務所長が中心になり,住民説明会を実施している様子。
新しい収集方式は50地域で導入されたが,現在は定着している。
新しい収集方式はコンパクターを使った容器収集である

参考文献
1.N.ウィナー サイバネティックス 動物と機械における制御と通信 岩波書店 2017 訳 池原,彌永,室賀,戸田
2.クロード・シャノン 通信の数学的理論 筑摩書房 2012



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括