読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第44講:暗黙知を意識して,現象として活動認識をしたデータの取得例
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
95 物理学の守備範囲の現状と自然学の再考
物理学の守備範囲を考えるとわかることはおそろしいほどわかるが,わからないことは,皆目わからないということが現代科学の素顔―中略―いびつな知がもたらす危険性に対して私たちはひどく鈍感になっている。―中略―(非線形科学)には近代科学から現代科学を貫くある特有の姿勢に対して反省を促す新しい考え方が芽生えているからである。(蔵本由紀 新しい自然学 集英社 2016)
科学論文(著名な学術誌)について,従来型のニュートリノの質量などに並んで,身近な複雑現象についての論文が市民権を得てきている。さらに大脳生理学,生態学,発生学などの生命科学の問題を数理科学で論ずる研究もこの学術誌の紙面を飾る。物理学ではなく,自然学と呼べる分野であり,いわゆる(物理学の)基本法則を単に応用する科学ではなく,自然や社会の基本的なあり方の探求であり,純粋物理学のその根本態度と一致する。なにを基本とみるかは伝統的な,古典的な物理学とは相当異なる視点とアプローチを持つことに注意を要する。
この新しい自然学は開放系,非線形,複雑系の研究が支えてきているように思える。さらにこの傘下の自己組織化やカオスがこの潮流や範疇に入る。しかしこの自己組織化やカオスの研究は物理学が寄与するところも多い。錯綜する世界を織りなしている。(蔵本由紀 新しい自然学 集英社2016 より抜粋)
物理学の潮流と偏見,基本原理と基本法則についても,20世紀に相対性理論と量子力学の発見で,人間の感覚とはかけ離れ物理学が真の物理学という考えが支配してきた。地上の錯雑な現象に関しては純粋物理学に比べると価値が劣っているとみられ,基礎はもう分かっているのであとはもう応用しかないという流れができてきた。
物理学の世界ではミクロの基本法則がわかれば物理学の世界では原理的には解決しているという偏見がある。地上の自然現象の99.9%の自然現象にはもはや探求すべき原理はないという物理学者は多い。(蔵本由紀 新しい自然学 集英社 2016より抜粋)
1.複雑系の世界の表現
複雑多様な生ける現実の世界(生命や社会現象)の科学描写の可能性をどう考えたらよいか。自然の科学的認識を考察するのに,日常生活から遠く離れた相対論や量子論の世界まで毎度わざわざ出かけなくても良い。遠くまで出かけないと深みのある問題に出会えないとは思えない。複雑世界の科学をいわゆる応用科学の領域としてそこには科学的世界描写に関する本質的な問題はないとする考えがいつの間にか私たちの体に染みついてしまったかのようである。―中略― M.ポラニーによるいわゆる創発概念,あるいはそれに密接に関係した周辺制御の原理という概念である。現代科学は相当にバランスを失した人々のせいか実感から遠いものになっている。(蔵本由紀 新しい自然学 集英社 2016)
2.科学的に知ること
科学的に知るというのは知ることは全体の一部でしかない。科学的知識であるから明確な言語で表現されるのであるが
,一方では言語化することが甚だ困難なしかし,それなしでは人間がとうてい生きられない重要な知識がある。M.ポラニーはこれを暗黙知と呼ぶ。知ることの圧倒的知識はこの暗黙知かも知れない
。
純粋物理学の記述論文を注意深くたどれば端々にこのような無意識的意図に基づいた表現も見いだせる。(蔵本由紀 新しい自然学 集英社 2016)
96 暗黙知をとらえる試み
前節「95物理学の守備範囲の現状と自然学の再考」を背景に地域の調査や観察,パイロットプロジェクトなどで得られた地域の特徴と地区ごとのヒアリングによる活動の変化のデータ,暗黙知についての例をまとめてみた。
終わりに
暗黙知のデータのまとめ方は様々ある。一例を記載した。
―この情報に基づいたプロジェクト終了後の変化のまとめ―
参考文献
1.マイケル ポラニー 暗黙知の次元 訳 高橋勇夫 筑摩書房
2.蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2016
3.市川浩 身の構造 講談社 1984
4.福島真人 暗黙知の解剖 金子書房 2001
※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括