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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第43講:プロジェクトの活動を現象してとらえること,プロジェクトの暗黙知をとらえていくことの意味について

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

93 プロジェクトの活動や経験の認識のほとんど大部分を占める暗黙知について

 暗黙知という概念は,マイケル ポラニー「暗黙知の次元」(訳 高橋勇夫 筑摩書房 2011)に詳しいが,次のような分かり易い文があるので紹介したい。
「人間には言語の背後にあって言語化されていない知がある。「暗黙知」それは人間の日常的知覚・学習・行動を可能にするだけではない。暗黙知は生を更新し,知を更新する。それは創造性にあふれる科学的探究の源泉となり,新しい真実と倫理を探求するために原動力となる。隠された知のダイナミズム,潜在的可能性への投企,生きることが常に可能性に満ちているように,思考は常に新しいポテンシャルに満ちている。暗黙知によって開かれる思考が,新しい社会と倫理を展望する。」
 社会活動である廃棄物プロジェクトでは,活動を生み出す「介入」そのものを問題にするのでなく,介入から生み出される現象を理解しようするところに特徴がある。そして最終的には,現象を通してシステムの構築を理解することを目指している。頭は知らないが無意識や体はちゃんと知っているというような知識によって人は四六時中生きている。知ることの圧倒的な部分が暗黙的な知識にしたところで,大なり小なり暗黙的な了解を前提としているのではなかろうか。言語というものからして,そのものから説明しつくすことはできないだろう。最終的にはその意味が暗黙的にしか理解できないのではないだろうか。(蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2012)
 では,なぜ暗黙知を考えることは必要かについては,次のような状況下の説明を考えてほしい。「ある特定のタスクを暗黙知によって習得している個人がそれを自ら仕事を他の習熟していない外部の者に説明しなければならない場合。外部のものとは現場の管理部門のものであったり,同じ会社の他のセクションの人間であったり,…いろいろな状況での説明である。」(福島真人 暗黙知の解剖 金子書房 2001より引用)で示されているように様々な形で暗黙知が見つけ出されているが,経験や知識の大部分が暗黙知であるということから,社会活動である収集改善における暗黙知を見つけ出す方法を検討してみたい。暗黙知は固定的活動に多く根差した,ルーティン化された活動,制度化された活動,組織化された活動にあるようだが,ここで扱う廃棄物処理改善活動は,上記のような固定的な制度に根差さない活動に着目するのではなく,介入が廃棄物処理システムの入力によって生じる受け手が持つ変化(変容)が,多ければ多いほど,システムの変容が進むという変化に着目すると,それらの変化を見逃さないために,システムの変化,システムの構造の変化構造変化を誘発する創発に目を向ける。その近道が通常の日常の文章表現では表せない「現象として事象のとらえる視点(認識)に根差した暗黙知」に目を向けることになる。この考えを以下のようにまとめた。

 その1【変化をとらえる】
 現象とは活動の変化と見なせるので活動(事象)の変化を認識する。活動の中で介入したことに着目するのではなく,介入が及ぼす変化に着目する。また,介入がどのように伝わり作用するかについても人々の中で情報がどのように伝搬していくかを意識して考える。活動に影響するには媒体を特定し,暗黙知という知を通して,どのように作用するかまではわからないにしても,分析の可能性がある。
 電磁気学では作用するときに電磁場が媒介するが,社会活動ではその媒介を特定することは多分に感覚的になる。  筆者が知る限りでは,以下の言葉があるので追記する。
「複雑系の概念は分析が不十分であるにもかかわらず,現象からはなれているのは正常ではない。」(松下貢 キリンの斑論争と寺田寅彦 岩波書店 2012より引用)

 その2【新しい概念(周辺制御のような)を生み出す構造の認識】
 プロジェクトの活動や現象を捉えるには個々の事象の分析ではなく,全体の構造,関係を認識する。例としては,顔を構成する目,口,鼻などの各部分について,どれほど詳しい情報を持っていてもその人固有の顔つきはわからない。顔つきは要素自体には含まれていない配置から生まれる新しい性質がある。
 鉄の原子構造や原子間の相互作用についてはどれほど詳しい知識があっても,それだけでは鉄の原子集団がある温度以下で結晶化したり,磁気を帯びたりすることは構成要素間の緊密な相互作用から生まれる新たな性質がある。(蔵本由紀 非線形科学 集英社 2007より引用)
 また創発を生み出そうとしたときに,周辺制御(蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2012)という考え方をうみ出した研究者もいる。この新たな性質の存在を現在は見抜けないが,プロジェクト活動では,職員啓発と住民啓発を介入すると,新たな収集システムが生じて,発展していくことに相当するので,このことが暗黙知になると考える。

 その3【システム構造の変化をとらえる】
 現象は,全体の中の構造の変化であるので,プロジェクトの活動や事象の構造の変化の認識をする。プロジェクト活動では,職員啓発と住民啓発を介入すると活動の変化が起こる。しかし,プロジェクト活動では,原因と結果の単純な因果関係では捉えられなくなる。相互作用する状況では,過去の活動の軌跡が次期の活動に影響を及ぼすことになる。そこのことを逃さない記録ができるかどうかわからないが,これが暗黙知の記述に必要になる根拠である。

94 暗黙知である現象を捉える方法

 
表1 暗黙知である現象を捉える方法




変化をとらえる方法:職員の討議で意識が向上し,全職員への啓発につながる


変化をとらえる方法:収集改善が広がり40%から80%になっていった


周辺制御を見出す方法からとらえる方法:住民啓発が収集改善,そして行政の変革につながる


周辺制御を見出す方法からとらえる方法:収集の変化が廃棄物行政の変革を及ぼす


システムの構造変化の可能性を示す方法で捉える方法:職員啓発が,住民啓発を促し,収集事業を変革し,清掃事業を変革していく


システムの構造変化の可能性を示す方法で捉える方法:地域の廃棄物改善が清掃事業の仕組みを変え,清掃事業を変えていく

終わりに

 社会活動は,ルーティン化した活動,組織化した活動,制度化した活動など固定的活動に根差した暗黙知が多いと予測されるが,廃棄物収集改善での暗黙知は活動の変化に根差した活動が多いと,考えられる。
 そこで今回は活動の変化,システムの構造の変化,構造変化を創発する周辺盛業についての暗黙知をとらえる方法を示した。
 大きく分けて3つの方法がある。
@ 変化をとらえる方法
A 周辺制御を見出す方法からとらえる方法
B システムの構造変化の可能性を示す方法で捉える方法

 具体的例は今後議論したい。


参考文献
1.マイケル ポラニー 暗黙知の次元 訳 高橋勇夫 筑摩書房
2.蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2012
3.市川浩 身の構造 1984 講談社
4.福島真人 暗黙知の解剖 金子書房 2001



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括