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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第42講:プロジェクトの活動を現象としてとらえたのち,どのよう記述で記録,蓄積していくのか

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

90 組織管理の分類についてする

 海外での技術協力で廃棄物関連プロジェクトを実施するときに,通常の報告書ではその活動を記述する。伝えきれないときもあるが,できるだけ分かり易くなるように工夫をする。しかし,その実施のプロセスをどこまでも詳細に記述しても,その実施した活動が伝わっていないという経験をすることが多々ある。
 例えば2006年から実施したパレスチナ,ジェリコ市を中心とした17の遊牧民で構成する17の各自治体で実施していた清掃事業を一つにまとめた清掃組合(JcSPD)を設立したことがある。パレスチナ自身でも同じような市町村合併の組織化を何度も試みたが,うまくできない困難で複雑な組織化の活動であった。我々のプロジェクトでは,日本の平成の市町村合併を実際に体験したメンバーがいたので,その経験を生かし行政の組織作りのノウハウを駆使して2010年に完成し,今でもその活動は継続されている。
 この活動を時系列的にまとめて説明してほしいとの要望をパレスチナ側から受け,できるだけ細かな年表にしたが,その記録は活動のプロセスを記録しただけなので相手国に伝わることはなかった。
 数年経ってパレスチナで2014年に再び同じような,さらに大規模な5都市(各都市は各々およそ50の遊牧民自治体で構成されていた)の清掃組合(JcSPD)の設立を行い,その活動記録をまとめたが,活動プロセスの記録をした資料はどれだけ詳細に書いても十分に伝わることはなかった。このようなことはバングラデシュ国のダッカ市の約50か所の地域の収集改善を含む廃棄物改善の記録にも言えた。

92 暗黙知の存在について

 そこで,伝わる活動の記録を行うために
第1に行ったことは,
@ 第38講で記述したが,プロジェクトの活動を分析的ではなく,活動を少しでも現状をとらえるために「現象としてみるにはどのようにとらえるか」について以前の経験をもとに記述した。
第2に行うことは,
A 現象として捉えた事象をどのような形で記録していくかの検討である。
 現実の活動や経験は,受け取る側ではおそらく,ほとんどが直感的で,その一部だけが通常使う日常的な言語やその分野の専門用語を用いて第三者に伝えることができるように思える。あるいは共通の認識を引き出すキーワードや確実と思われる共通の言語や,うまくすれば数理工学的方法でも少しは蓄積することができるかもしれない。
 唐突かも知れないが,数理モデルで有名な神経回路網の数理工学的アプローチなどは,神経回路網を生物学的に解明する神経モデルを作り,生物学的解明のアプローチに大きな示唆をしていることもあるようである。これは数理工学的表現がうまくいっている例かもしれない。
 しかし,それでも現実に科学技術的表現(数理工学的)で表される記述においてさえも数理工学的に表現するためにバイアスが働き,曖昧さを含んでしまうのは仕方がないことである。日常言語ではさらに多くの曖昧さを含んでしまう。

      
 図1 経験の認識のイメージ
(「マイケル ポラニー著 暗黙知の次元」をもとに筆者作成)


 現実の現象や経験で日常言語や科学的表現で表せない暗黙の情報をここでは仮に「暗黙知」と呼ぶことにして,プロジェクト活動の記録にその暗黙知まで取り込む方法を考えてみたい。
 暗黙知についての研究書,マイケル ポラニー「暗黙知の次元」(訳 高橋勇夫 筑摩書房 2011)では,心理実験の結果により,暗黙知の存在を説明しているが,今回は割愛する。しかし,暗黙知が存在するとして話を進める。



組合結成のために職員間で多くの話し合いがなされ,話し合いで個々のイメージが次第に形成されて固まっていったのではないかと想像される様子(パレスチナ)


住民の間で話し合いが持たれ,住民同士がこの話題について個別に話し合い,共通の認識ができていったのではないかと想像できる様子(パレスチナ)


収集システムを住民に啓蒙し,袋を使った収集システムを住民で作り上げていった事例の様子(ダッカ市)


収集を啓発した50地域で様々な収集スタイルが試みられて,次第に各地域で適合する収集がが行われていった様子(ダッカ市)


住民啓発で次第に衛生的で効率的収集システムができ,最終的には定時定点収集になっていった様子(ダッカ市)


住民啓発で次第に住民による多くの話し合いで住民参加型清掃システムが形成されていった様子(ダッカ市)

「科学的に知るということは「知ること」全体の中の一部でしかない。そもそも科学的知識であるからには明確な言語や表現される必要があるが,一方では言語化することがはなはだ困難な,しかしそれなしでは人間がとうてい生きられない知識がある。マイケル ポラニー「暗黙知」とよぶものはこのような知を代表している。(中略)知ることの圧倒的な部分が暗黙的な知識かもしれない。しかし,非言語的な知識というものを安易に考えすぎないようにしたい。実際,言語を全く超えた,通常の言語というものでは表現しきれない知識というものをわたしは知らない。言語的に表現する知識にしたところで,大なり小なり暗黙の了解を前提にしているのではなかろうか。」(蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2012 より抜粋)
 また,同書には具体的な例が示されている。
 例1 人問が顔を認識するには,顔を構成する細部の情報はもちろん重要だが,それだけでは表現しがたいなにかが顔を認識している
 例2 体温などの医療情報のほかに熟練した医師の画像診断から得るなにかで診断を下している
 例3 長年の経験により蓄積された職人の名人芸のなにかが職人の技術を支えている
 例4 スポーツ選手の筋肉の動きのほかのなにか
 確かに暗黙知が活躍しそうである。

終わりに

 参考文献にあげた「新しい自然学」は,非線形科学についての多くの考察が述べられているが,様々な自然科学について非線形科学からの視点からの考察がなされている。海外の廃棄物プロジェクをモデル化をするときに大変多くの示唆をいただいける名著である。また暗黙知についての研究書である「暗黙知の次元」も認識するということについて参考にさせていただいた。
 次回は暗黙知の考え方を入れた,プロジェクトの記録,情報の蓄積の方法について考えてみたい。


参考文献
1 蔵本由紀 新しい自然学 筑摩書房 2012
2 マイケル ポラニー「暗黙知の次元」訳 高橋勇夫 筑摩書房 2011



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括