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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第39講:収集改善活動で実施した住民啓発と職員啓発が活動の中で相互に影響しあう作用の解析

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

86 収集改善の活動内容

(1)収集活動の整理
 クリーンダッカ・プロジェクトでは,2007年から2017年までに約50か所のエリアで収集改善が行われた。2007年から2010年までは,10か所のエリアで,収集改善の活動を実施したが,次第に住民啓発活動と職員啓発活動は相互に影響しあい効果を上げている「自己組織化の存在」に気が付き,意識的に自己組織化を引き起こす構造を作り,廃棄物処理の改善活動を進めた。(表1)。
 自己組織化を引き起こすための構造は,活動,相互作用力,プロジェクトの環境,プロジェクトの駆動力という4つのコンポーネントを持たせることにある。
T.活動とは廃棄物収集改善に関係のある住民の啓発と職員の啓発を指す
U.相互作用力とは,プロジェクトを実施できる条件が整っているときに,相互作用を引き起こし,自己組織化が始まる状況を指す
V.プロジェクトの環境とは,プロジェクトが機能するためには,職員や住民,職員同士,住民同士の信頼力が必要で,それを民主的な地方自治という言葉で表している。しかし,廃棄物処理活動は都市問題なので,地方自治制度を作りながら実施することも可能である
W.プロジェクトの駆動力とは廃棄物の収集改善を指す。活動の目的をここに置く

表1 自己組織化を起こすモデルの構造






図1 活動のモデル化(活動の構成)

 図1は活動のモデル化の図である。介入には住民啓発,職員啓発がある。2つの介入により,内部で相互作用を起こし,活動の推進力を増している様子を示している。
 プロジェクトの環境整備は,介入の前提として社会の民主的な地方自治制度が必要だと考えるが,プロジェクトの環境整備はこのことを示している。

写真1 プロジェクトで実施した収集改善活動
@収集改善:住民参加による分別回収による収集改善の様子を示す



A職員啓発:各区には各々約100人清掃員が従事するが,3区まとめて約300人の清掃員を集めて啓発活動を実施した。内容は清掃業務,安全衛生,安全具の支給と安全具の装着,住民対応の指導である



B職員啓発;各清掃事務所で清掃員の啓発活動を行っている様子である



C住民説明会:地域住民に住民参加型清掃事業の説明を行っている様子。清掃事業に参画できるような,地域のコミュニティの組織化を指導している様子である



D収集改善:地域のコンテナ撤去の様子



E清掃事務所の建設:各区に清掃事業を実施するために清掃事務所を建設している



F収集実施:新しく紙袋による収集を実施している様子



G住民説明会:コンパククーと容器を使った収集を始めるときの住民説明会



H住民啓発:市役所が率先して行った住民啓発活動で,市長が自ら清掃を実施して見せるパフォーマンス



I市民によるラリー(行進):市民が市内を「清掃と美化」のキャンペーンの行進を行っている様子



Jごみ収集実施:コンパクターを使ってのごみ収集の様子



K清掃事務所建設:建設費用を市民の寄付で集め,清掃事務所を建設していた


(2)職員啓発の活動内容
 廃棄物収集の実施側のステイクホルダーである清掃職員の啓発は,持続可能な収集改善活動を担う。活動の項目は,
A)清掃監督員が清掃事務所長や管理者となって区の清掃事業の改善に取り組むことでの意識改革
B)清掃事務所長による住民へ指導,清掃員への指導
C)清掃監督員と清掃員の住民対応力育成
D)清掃監督員と区長と活動のための連絡会議実施
E)清掃監督員,清掃員への関連法の教育
F)職員への安全衛生教育
G)安全具支給と安全衛生作業励行の指導
H)作業マニュアル配布し通常の作業の改善指導
I)交通事故から身を守る作業方法の指導
J)安全衛生委員会の組織と定期開催
K)清掃監督員の区長との共同活動実施
L)清掃事業の説明,清掃事業指針の説明教育

(3)住民啓発の活動内容
 住民啓発活動の主な狙いは,コミュニティを組織し,清掃事業に参画できるようにすることである。そこでAからJは住民自身がコミュニティを組織できるようにするための活動である。
 活動の項目は
A)住民啓発を実施するWBAワード(区)選定
B)ワードのキーパーソンと合意形成
C)現況調査(地元地元組織,地元収集状況の調査)
D)キックオフ会議(この会議で地域の収集改善活動開始をする)
E)対象地域選定
F)参加型廃棄物処理をするための住民の組織化(CUWG)
G)CUWGメンバーへの研修
H)住民活動計画(Community Action Plan(CAP))作成
I)住民活動計画(CAP)実施
J)モニタリング
K)住民と清掃監督員との定例会議実施
L)清掃事業の説明,清掃事業指針の説明教育
M)清掃事務所長の区長との共同活動実施
N)清掃事業の仕組みの説明,清掃事業実施細目の説明・教育

87 住民啓発と職員啓発の相互作用の解析

 図1ではプロジェクトの実施環境を整えて,活動を実施すると相互作用を引き起こす構造を説明している。また表2では,介入(活動)の職員啓発と住民啓発の各活動を実施するとどの程度の相互作用が引き起こされるかを示している。
 表からわかることは,
レ 強力な相互作用(●)が引き起こされるケースは64/168=38%,
レ 通常の相互作用(◎)が起こるケースは41/168=24%,
レ 相互作用は起こさずに直接出力への作用(○)場合は49/168=29%,
レ 出力に影響がなく効果が薄い活動(▲)は12/168=7%であった。この結果,62%が職員啓発と住民啓発の相互作用を引き起こしている。
 表からわかることは,
レ 清掃監督員がワード清掃事務所長になっての,職員啓発と住民啓発の活動は相互作用を起こす効果が大きい
レ 対象ワードに指定されることで,住民啓発は大きな効果がある
レ 啓発活動が定着し,相互作用が生じやすい活動は体験型活動である
レ 講義やセミナーは,すぐには効果が表れない。
レ 地域のリーダーが中心になった住民啓発活動は相互作用が生じやすい
 ということもわかる。

表2 職員啓発と住民啓発の相互作用関係表
●:職貞啓発と住民啓発の相互作用で新たな活動になった、◎:相互作用により活動が発展した、
○:活動に相互作用はなく直接出力へ作用した、▲:効果が薄い活動だった


本稿の終わりに

 従来の調査では,多くの社会現象や社会活動を関係者のインタビューやアンケートを実施し,その結果をルーブリック法などで解析してきた。解析にはそれらのデータをもとに実施するので,基礎となる調査結果は,多少属人的で感覚的であることは否めないが,正しいとの暗黙の了解のもとで調査をした。
 住民啓発と職員啓発は,適切に組み合わせて行うと相互件用で効果が高いこともわかる。


参考文献
1.石井明男:廃棄物プロジェクトにおける「創発」がプロジェクトの自己組織化に及ぼす影響についての研究 廃棄物資源循環学会研究発表会第32回 2021
2.石井明男 技術協力における廃棄物処理プロジェクトに自己組織化の及ぼす影響の研究−情報エントロピーによるプロジェクトの評価− 廃棄物資源循環学会研究発表会第33回 2022
3.石井明男,眞田明子 クリーンダッカプロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯印刷 2017(H30廃棄物資源循環学会著作賞受賞)
4.John A.Pelesko,Self−Assembly−The science Of things that put themselves together−2007 Tayler and Francis Group,LLC
5.石井明男 スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業強化の経験 廃棄物資源循環学会学会誌 Vol.31 No2 2020
6.岡本純子,石井明男 居住地単位のコミュニティという概念がほとんどないダッカ市での住民参加型廃棄物管理の導入について 廃棄物資源循環学会研究発表会第22回 2011
7.石井明男,荒井隆俊 地域住民の慣習,民間収集業者の業務と協調しながらのダッカ市の収集改善の取り組みについて 廃棄物資源循環学会研究発表会第22回 2011
8.バングラデシュ国ダッカ市廃棄物管理能力強化プロジェクト プロジェクト完了報告書(延長)2013 JICA(国際協力事業団)
9.スーダン共和国JICA環境管理門家報告書2013 JICA(国際協力事業団)
10.スーダン共和国 ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト プロジェクト完了報告書 2017



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括