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シリーズ ヨモヤモバナシ



廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
 第33講:廃棄物プロジェクトの特性についての対応その2 職員啓発内容と効果,評価

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 第31講で,廃棄物プロジェクト(システム)が持つ特性や仕組みを考察した。
 また,第32講では第31講を踏まえて,プロジェクトを実施するときに,この廃棄物プロジェクト(システム)が持つ難しい特性に対して,どのように対応してきたかについてのさわりを報告した。
 前回の議論を土台に,収集改善をするために,職員啓発と住民啓発を操作できる活動として行ってきたことを説明したが,今回はどのような職員啓発を行ってきたのか,また,その効果について報告する。また次況の変化に職員啓発をどのようにして行うことが適切かについても考察したい。

83 職員啓発活動の分析について

 2005年から2013年にバングラデシュ国ダッカ市役所廃棄物管理局で実施してきた廃棄物改善活動の収集改善のために職員啓発がどのような役割を果たしたかについて,実績に基づきまとめてみたい。
 ダッカ市では「コンパクターを使っての70gの容器を用いた定時定点収集を導入」して収集改善に取り組んだが,システム導入4)には, @職員啓発とA住民啓発を操作し,収集改善の定着と収集率の向上を目指した。
 現地で実施しているときには,以下に記述するデータと経験により様々な職員啓発活動を行ってきた。
 実施した職員啓発活動の全体像と活動内容をできるだけ具体的に表1にまとめた。
 表1では
(1)活動の実態については,
 @啓発活動の期間/1回活動の実施時間/実施頻度
 A啓発の内容,効果が出る時期
 B啓発の規模/職員啓発の対象を記述
(2)啓発活動で職員がどのような啓発をされたかについて,職員自身がどのように評価しているかについての5段階評価分析をした結果を記述した。(5:非常に高い,4:高い,3:普通,2:あまり高くない,1:影響なし。)
 啓発の評価の項目についてループリック法を参考にし,
 @関心度・取り組み姿勢・意欲
 A思考形態の育成・判断力育成
 B導入・獲得・実施した技術
 C知識育成・理解度育成
 としている。評価結果は2021年現地ダッカ市役所での清掃監督員5人からのヒアリング調査結果による。
(3)職員啓発の効果についても,2021年現地ダッカ市役所での清掃監督員5人と任意に選んだ住民5人からのヒアリング調査結果による。
(4)職員啓発の活動が住民啓発活動への影響を与えるがその効果について記述した。
(5)収集改善への貢献度,システムの成功への貢献度を示している。

表1職員啓発の効果と分析結果(2005年から2013年の実績による)

終わりに

 清掃監督員が清掃事務所長になり,管理者となって区の清掃事業の改善に取り組むことでの「意識改革という職員啓発」は効果が高いことが分かる。つまり,かつては清掃員の代表者であった清掃監督員は,清掃事務所長になり,地域の清掃事業の代表者になったことで,意識改革が図られたことになる。清掃事務所長になった清掃監督員は,熱心に業務に取り組んでいたが,一方で,業務が増えて不満をもつ清掃監督員もいた。清掃監督員の給与が上がり,待遇も改善してきて外部から清掃監督員になりたいとの希望も多くなっていった。清掃事務所長の一部だが,一層自身を高めるために夜間大学に通い始めたということもきいた。
 清掃事務所長(清掃監督員)の住民へ指導,清掃員への指導力育成は清掃事務所長となっての清掃員や住民の指導は新たな業務になったが,指導が重要な業務に位置付けられて,理解された後は意欲的に取り組んでいたことが分かる。住民参加型廃棄物処理を作り上げて,収集改善にも効果が上がっていったことも分かる。プロジェクトへの貢献も大きくなっていった。
 清掃従事者である清掃監督員と清掃員は,「住民と協力して事業を行う」ことに対して,当初は後ろ向きだったが,しだいに自覚が芽生え,住民対応力育成を行うようになっていった。理解が進み,効果が上がるまでには時間がかかったが,最終的には収集改善に効果を上げる要素になっていった。
 清掃監督員が,清掃事務所長となって社会的な地位が向上し,区長も事業のパートナーとして認めるようになっていった。清掃事務所長は地域の清掃事業の推進者のパートナーと認められて,区長と定期的な会議を持つまでになった。地域の清掃事業にとっては大きな進歩であった。清掃事業は公共サービスであるのだが,それまでは清掃員はただ道路の清掃をする人ぐらいの扱いだったが,清掃監督員,清掃員も行政マンとして清掃業務を実施するうえで法律の理解が重要であることから,法律の理解が必要になっていった。しかし,法律そのものを理解しても実用にはならないので,プロジェクトで関連法の解釈と解説本8)を作り,職員に配布した。この解説本の「清掃事業実施細目」で関連法を理解する教育を行ったが,今までと業務の考え方が違うので定着には時間がかかっている。
 職員への安全衛生教育8)については,清掃事務所長が清掃員への安全衛生講習を毎週のように行うことになる。衛生教育は衛生局から医師や講師を招聘して指導を行ってもらった。衛生教育には健康管理,衛生管理なども行った。
 @業務上の事故が発生したときのけが人の処置や連絡対応について,
 A道路清掃時には事故が発生しやすいので,事故防止のために4人作業の励行,
 B健康管理をして病気にならないような生活,
 C手を洗うなどの衛生管理の指導,
 D市役所の廃棄物管理局が,年1回定期検診を無料で行っているので受診するように指導などを行っているが,これも今までとは違う考えなので定着には時間がかかっていた。清掃作業は,不衛生なごみを扱うので直接手で触れないように手袋やマスクを着用するなどの指導を行っていた。また,排水清掃員には長靴を支給した。排水清掃作業には排水路の清掃用具の開発を行い,安全で衛生的な作業ができるようにした。職員には安全作業のための作業マニュアルを配布し,マニュアルに従って作業する指導を行った。
 交通事故から身を守る4人で作業する清掃作業方法の指導も毎日行ったが,定着には時間がかかった。
 ゾーン事務所の部長,清掃事務所長,住民代表,清掃員代表と月一回,安全衛生委員会の定期開催をした。事故原因の解明,事故を未然に防ぐために安全点検を実施した。しかし意味が分からずこれも定着には時間がかかった。清掃監督員の区長との共同活動では住民も参加して清掃イベントの実施,清掃キャンペーン,ラリーの実施も行った。
 住民への清掃事業の説明用に現在進めている清掃事業の方向を示した「清掃事業指針」を作成し,各清掃事務所で直接住民へ説明と住民教育に使用したが残念ながら今のところ効果が薄かったことが分かる。


参考文献
1 バングラデシュ国ダッカ市廃棄物管理能力強化プロジェクト プロジェクト完了報告書 2012 JICA(国際協力事業団)ダッカ
2 バングラデシュ国ダッカ市廃棄物管理能力強化プロジェクト プロジェクト完了報告書(延長)2013 JICA(国際協力事業団)
3 石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯コミュニケーションズ 2017
4 トイレヨモヤモバナシ 第137回,第18講 都市と廃棄物Vol.51.No.1(2021):収集件業のこと
5 トイレヨモヤモバナシ 第134回,第15講 都市と廃棄物Vol.50.No.10(2020):清掃事業実施細目
6 トイレヨモヤモバナシ 第133回,第14講 都市と廃棄物Vol.50.No.9(2020):清掃事業指針
7 トイレヨモヤモバナシ 第127回,第8講 都市と廃棄物Vol.50.No.3(2020):行政広報と住民啓発
8 トイレヨモヤモバナシ 第132回,第13講 都市と廃棄物Vol.50.No.8(2020):労働安全衛生


2021年現地ダッカ市役所での清掃監督員5名住民代表5名へのヒアリング調査を実施した結果による
2021年現地住民代表10名及びダッカ市役所での清掃監督員5名へのヒアリング調査を実施した結果による



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括