読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第31講:廃棄物プロジェクトの特性について
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
ODAのプロジェクトにかかわっていて「何を以って成功」とする活動かを考える。現地の廃棄物プロジェクト(活動)は,実施していくなかで,社会の変化から影響を受け,そのたびに社会変化に合う形への変貌を余儀なくされる。ここでは,プロジェクトが変貌しながら進んで目的を達成し成功に向ってゆく,廃棄物プロジェクトの特性について考えてみたい。
80.廃棄物プロジェクトの実施で考えること,廃棄物プロジェクトの特性について考えることは
ODAのプロジェクトにかかわっていて,「何を以って成功とする活動か,何を以って失敗する活動か」について考える。現地の廃棄物プロジェクト活動は外部の変化 特に社会面変化 法や制度が変わることなどで,少しずつ変貌して「成功」という目的に向かう。時としては,現地に介入して現地の都市にあった持続可能な活動に誘導することもある。そして,プロジェクトで始めた活動が,その後,何年も社会の変化に適応しながら持続し,定着し,発展していくようにする。
持続可能な活動にするために,廃棄物プロジェクトの特徴について考えてみたい。まず,
@ プロジェクトを実施してみてわかるのだが,プロジェクト側(行政側)でできることは限られているので,住民との協力は重要であり,どのような仕組みで協力関係を築くかについて考える必要がある。行政サービスは市民のために行うので,第一段階として,住民に行政の情報をどのように正確に伝え住民に理解してもらうかは,日本でも発展途上国でも悩みは同じであると思う。次に,住民の意見を正確にどのように吸い上げるかということである。最後に,どのような形で行政側は住民と合意形成(あるいは理解)をとるかが重要である。セミナーという形式では不十分で,住民啓発と合意形成の仕組みが必要である。
そのための仕組みの一つが,本稿でも何度か記述をした「ダッカで導入したWBAシステム」である。
A 途上国で廃棄物の収集改善を例にあげると,収集システムの導入ではプロジェクトからの指導で導入する(ア)収集システム及び収集システムを支えるための活動,(イ)清掃職員の職員啓発,(ウ)関係する住民の住民啓発,があるが,特に,プロジェクトでは,職員啓発,住民啓発を実施して全体の収集システムの構築と活動の推進を図る。(図1活動のモデル化参考)
収集システムを改善するときに,住民啓発と職員啓発を強化し,操作して,収集システムを作り上げるのだが,期待通りの結果にならないことが多い。活動の因果関係が分かりにくい(成り立たちにくい)構造になってしまうことである。様々な入力の変化を試みるのだが,人間の活動なので因果律が成り立ちにくいことを頭に入れておく必要がある。
B 導入するシステムが,社会の変化に対して柔軟に対応しながら形を変えてでも社会に適応しなければならないことが常時あることも特徴である。ODAの廃棄物プロジェクトは入力が決まれば,結果が決まるものではない。そのためには社会の特性や住民,文化の特性を知ることを重視してきた。しかし,その手法がわかりにくいことも考えなければならないことである。
C インプットに対して周囲の状況でシステムの構造が変わり,様々な結果になってしまうこともある。
D 途上国では,現場の職員を軽視しがちであるが,豊富な現場の経験にもとづいた現場の知見や知恵で対応してきたことも日本では多い。特に,現場の英知を重視する仕組みを作るにはどうしたらよいかを考える必要がある。
E プロジェクト活動は一度にゴールに結びつけず,経験上,段階的に進めないと不確実な動きになり,違った結果になることもあるので,プロジェクトの推進には注意が必要である。
F 非常に驚くことであるが,実施活動が期待以上の結果になることがある。パワフルになる可能性があることはなぜか? また,実際にそのような活動は散見することがある。
G また,組織の変更に伴う,現場への権限委譲が重要であるが,権限の委譲には受ける側の資質が大切で,職員啓発の方法が重要である。
住民説明会。(住民啓発には住民が小さなグループを作って実施する小規模な住民啓発の方法から大規模な住民啓発の方法がある)
地域でのごみの排出の実践指導
図1 活動のモデル化
スラムでのごみ収集の話し合いを行った一種の住民啓発の活動
地域での収集指導の実施
ダッカの廃棄物管理局が主催した「清掃事業,行政指針」を清掃職員に説明し,議論をした様子
地域の代表と清掃監督員が共同で清掃事務所を建設している様子
本稿の終わりに
本稿では,廃棄物プロジェクトが持つ特性を考えてみた。
次回からは,実施側がプロジェクトを実施するときに,この特性にどのように対応してきたかについて考えてみたい。
ダッカ市の廃棄物管理プロジェクトに関する評論が書かれた日経新聞記事,日本政府発行の政府広報誌 WE are Tomodachi でダッカの廃奉物プロジェクトについての紹介と論評がされている。WE are Tomodachi は全世界に配布されている。Webで見ることができる。
1途上国支援,現地の意識変革カギ 北野尚宏氏:日本経済新聞(nikkei.com)2018.6.15
2 ダッカのマイルストーンプロジェクト/日本政府−ジャパンゴフ−(japan.go.jp)A Milestone project in Dhaka
※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括