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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第30講:プロジェクトは現地にどのように根付いていったが その5      南スーダン国ジュバ市の廃棄物処理事業の立ち上げ その3

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 清掃事業の実施組織や収集車両など収集機材もなく,清掃事業の実施予算や人材もなかったところから始まった,清掃事業を立ち上げたプロジェクトの事例

77.プロジェクトを進めることが困難であるときに導入する段階的整備

 2012年4月に始まった南スーダン国ジュバ市の廃棄物管理強化事業は収集機材もなく,清掃事業の実施予算もなく,清掃行政,清掃事業の実施組織もなく,人材もなかったところからプロジェクトを始めた。どこから手を付けてよいかわからない状況であったが,このようなときに威力を発揮する段階的整備という手法はJICA専門家として,インドネシア国公共事業省で従事していた時に実施された「インドネシア国ウジュンパンダン環境衛生整備下水・廃棄物処理計画調査」(JICA1994年)の中で,下水道整備計画で提案された。
 一般的には,下水管渠,下水処理場を含む下水道施設の建設は,完成して処理の効果が出るまでには非常に長い時間や予算も掛かるため,途上国にはハードルの高い事業になってしまう。そこで,少しずつ段階的に整備しながら建設し,最後に下水道施設として完成するという下水道施設の建設の手法である。考え方はわかるのだが,実際に進めていくと様々な困難にぶつかる。 老え方としては,個別トイレから始めて,複数の個別トイレの排水を1か所に集め処理するコミュナルセプティックタンクで処理することが次の段階の取り組みになる。そして複数のコミュナルセブティックタンクを連結し,大型セプティックタンク(コミュニティプラント)に集めて処理する。そして最後に下水道幹線にすべて接続して下水道施設として完成するというものである。この計画の考え方は正しく,東京都の下水道事業もこの段階的整備になぞらえ進んできたともいえる。しかし,実際に計画に落とすには,まだまだ考えなければならないことが多い。東京都の下水道もそれぞれに時期を分解して考えると,高度成長期を背景にしたり,技術革新を背景にして推進したり,バブルがはじけての下水道事業の推進など様々な社会背景の変化に対応しながら推進してきた。
 インドネシア国ウジュンパンダンの段階的整備による下水道整備は必ずしもスムーズに実現しなかったように記憶をしている。当時から多くの議論を呼び教訓を残した概念だった。当時,廃棄物管理にも応用しようとしたが準備ができなかった。
 廃棄物処理についても自分なりに段階的整備を考えると,実現まで下水道敷設建設とは別の困難さがあったように思う。その後,現在まで20年近くかけて廃棄物処理の段階的整備に取り組み,どのように応用しようかと少しずつ部分的に取り組んできた。廃棄物分野では,技術的な段階だけではなく,その技術の進展に加え,社会的変化の対応や,経済状況の変化,住民啓発,行政広報を交えて行うことも考え,いろいろ試し,20年近くたった2010年にスーダンのJICA専門家の活動時に段階的整備の考え方を試みた。その結果を利用して,南スーダン国ジュバ市の廃棄物改善に利用できる感触を得たので,ジュバ市の廃棄物処理強化プロジェクトに利用した。
 特にジュバ市の廃棄物管理強化プロジェクトでは,技術的な段階的整備の展開だけでなく,社会的背景の変化に対応した技術の展開,予算的措置が強化されたことを背景に進め,技術的進展を行政広報や住民啓発に利用して進展させ,職員啓発の進展などが推進力になったなどの複数の活動を含めた総合的な段階的整備のアプローチを実施した。段階的整備の優れた点は実施する主体が相手政府,現地市民になることであり,オーナーシップが明確に相手政府,現地市民になることである。

78.組織ができて,予算が確保された時期的に活動の整理をすると以下のようになっていった。

 第28講で紹介したが,巨大マーケット900商店があるジェベルマーケット,400店舗があるジュバマーケットのごみ収集はプロジェクト開始後4か月には開始した。住宅地の収集については6か月後に収集を開始した。埋立地の運用,ジュバ廃棄物管理グループを設立し組織を作ることで活動を支えた活動について,開始したのはプロジェクト開始後,その12か月後であった。
 本稿では,これらのマーケットのごみ収集,住宅地のごみ収集,そして埋立地の建設と運用,人材育成のために組織した,ジュバ廃棄物管理グループを設立し活動を支えた活動について紹介する。

プロジェクトの活動の整理

79. マーケットのごみ収集,住宅地のごみ収集,埋立地の運用,ジュバ廃棄物管理グループの活動を支えた活動




ジュバマーケットでの収集開始の説明会
住宅地でのごみ収集の様子(1)
ジュバ市役所で実施したごみに関する学生絵画コンテストの様子
埋立をしない時期はごみを集めるとその場で火をつけ燃やしていた
住民と住宅地のごみ収集点を決めている様子
ジェベルマーケットのごみ収集の説明会
住宅地軸劫収集の様子(2)
住宅地でのごみ収集の様子(3)
収集に使ったトラック
住宅地でのごみ収集の様子

終わりに

 1993年からJICAでインドネシア国ウジュンパンダン市の廃棄物処理と下水道のマスタープランを策定した。インドネシア国ウジュンパンダン環境衛生整備下水・廃棄物処理計画調査事前調査報告書(JICA1994年)の中で提唱された下水道施設の段階的整備は,下水道整備の手法として計画されたが,示唆に富んでいる。廃棄物分野の改善の手法としても最大限利用したのは南スーダン国ジュバ市の廃棄物強化プロジェクトである。詳細は次回から説明する。


参考文献(さらに理解を深めるために参考にできる資料,文献)
1.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリィ)佐伯印刷 2017
2.大宮直明(製作,監督)アブバとヤーバ,スーダン(南スーダン)と日本で暮らす人々の記録映画 2011年のレファレンダム
3.Steven Johnson,Emergence The Connected Lives of Ants,Brains,Cities,and Software.Scriber,imprint of Simon & Schuster,Inc.2001
4.石井明男 南スーダンで行われた廃棄物事業 平成27年7月号 生活と環境
5.JICA インドネシア国ウジュンパンダン環境衛生整備下水・廃棄物処理計画調査報告書 CA1994年
6.横山源之助 日本の下層社会1949 岩波文庫
7.紀田順一郎 東京の下層社会1990 新潮社
8.石井,小谷 廃棄物プロジェクトをとおして見えてきた希望 2018,7 生活と環境
9.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源循環分野における国際協力の近年の動向



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括