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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第28講 プロジェクトは現地にどのように根付いていったか その5 南スーダン国ジュバ市の廃棄物処理事業の立ち上げ その1

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 ―――清掃を実施する組織もなく,収集車などの収集機材もなく,収集機材など購入や収集するための予算もなく,清掃事業を実施する担当職員も人材もいなかったところから始まった南スーダン国ジュバ市清掃事業を立ち上げたプロジェクトの事例の紹介―――

 2014年に始まった南スーダン国ジュバ市の「廃棄物処理事業の立ち上げ」について紹介したい。ジュバ市は収集機材,予算,清掃の組織もなく,人材もなかったが,そこから清掃事業を始めたプロジェクト支援の事例についての紹介である。
 更にジュバ市の廃棄物処理事業への2つ目の支援活動は,同市の廃棄物管理の15年間の長期計画を作成するために,ごみ量,収集率,予算,組織などの基礎データを収集した2018年からの経験についても紹介したい。
 2018年当時の南スーダンは内紛状態で,調査団がジュバ市に乗り込むことができなかった。情報を収集するために自分の目で確かめることが確実なのだが,現地入りすることができなかったので,ジュバ市から廃棄物関係者十数人をスーダンのハルツームに数回招聘し,そのメンバーに廃棄物関係の情報を取得してきてもらい,ハルツームでその正確さなど確認しながら整理する予定であった。その経験も紹介したい。

75.南スーダンで廃棄物処理事業

 南スーダン共和国は2011年1月に独立の是非を問う国民投票が行われ,2011年7月にスーダン国から独立した。独立はしたものの,南北包括和平合意のうち石油を産出するアビエイの帰属問題が未解決,国境の2割が未確定,南コルドァン州,青ナイル州の統治問題の不明瞭な状態のままの独立であった。面積は64km2,人口は826万人,首都はジュバ市である。
 今回の廃棄物処理を行うジュバ市の当時の人口は,急激な周辺の人口の流入で100万人とも150万人(推定)ともいわれた。巨大なマーケットが存在したが,そこはごみであふれかえり,広場に,空地に,道路にと,まちのいたる所にとごみが捨てられ,あるいは山になり,車両が通行ができない状態だった。ごみの収集は急務だった。しかし,それまでごみ収集は行っていないので,収集機材もなく,予算もなく,清掃の組織もなく,人材もいなかった。南スーダンは独立前まではスーダン国の一部でありながら,行政サービスが行き届いておらず,また中央官庁の支庁のような行政組織はなかった。廃棄物処理だけでなく,公共の電気も水道もなく,その他の行政サービスの提供もなかった。一例をあげると独立後の道路の舗装率は10%以下であったので,雨が降ると道路がぬかるみ,たちまち車は走行できない状態になった。
 スーダンのJICAの専門家をしていた2012年当時の情報では,南スーダンには様々な省庁ができ始め,特に廃棄物を所掌する環境省がつくられたこと,ジュバ市役所が設立されたこと,スーダンのレンタカー会社が収集車両のレンタルの準備をしていること,スーダンの建設会社がジュバの進出を検討しているということであった。
 また筆者は東京都清掃局に在籍していたので,東京都清掃局の収集の歴史を調べたことがあったが,戦後収集車両がほとんどないにもかかわらず,民間の力を借りて収集をしてきた歴史や,特に戦前,戦中,戦後すぐの清掃事業を進めた組織の形態,人材育成など参考になる活動も多く,困難ではあるがジュバ市で清掃事業を始めるヒントも東京都の清掃事業の歴史から得られることもあった。
 本稿と次号とで当時ジュバで清掃の組織もなく,収集機材もなく,予算もなく,職員も人材もいなかったところからどのように清掃事業が始められたかを紐解いてみたい。

図1,2



マーケットでのごみ収集の様子1


マーケットでのごみ収集の様子2


埋立地建設の様子


住宅地でのごみ収集の様子


ごみ収集が終わったマーケットの様子


マーケット管理組合でごみ収集打ち合わせの様子


市民参加の埋立地見学会の様子


マーケットでのごみ出し点を示すサインボード


埋立地のごみの投棄点を示すサインボード


集めたごみを燃やしてしまう習慣があった

本稿の終わりに

 今回は特に,マーケットの清掃とごみ収集,住宅地のごみ収集,埋立地の建設と維持管理について紹介した。
 住民啓発,行政広報,人材育成,第3国研修,本邦研修,市役所の中に清掃局のを設立,修理工場の設立,マーケットの料金徴収,住宅地の料金徴収,リサイクルの導入,予算制度の導入,ジュバ大学の講座設立指導,その他の活動の紹介と各活動間の関係についての説明は次回に譲る。

参考文献
1.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした 社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯印刷 2017
2.大宮直明(製作,監督)アブバとヤーバ,スーダン(南スーダン)と日本で暮らす人々の記録映画 2011年のレファレンダム
3.Steven Johnson,Emergence The Connected Lives of Ants,Brains,Cities,and Software.Scriber,imprint of Simon & Schuster,Inc. 2001
4.石井明男 南スーダンで行われた廃棄物事業 平成27年7月号 生活と環境
5.横山源之助 日本の下層社会1949 岩波文庫
6.紀田順一郎 東京の下層社会1990 新潮社
7.石井,小谷 廃棄物プロジェクトをとおして見えてきた希望 2018,7 生活と環境
8.石井,小谷 トイレヨモヤモバナシ 第5講 ワードペーストアプローチで行った収集改善 Vol.49,No.2 2019 都市と廃棄物
9.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物
 管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源 循環分野における国際協力の近年の動向



※元東京都清掃局.元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュパ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括