読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第26講:プロジェクトは現地にどのように根付いていったか その4
パレスチナで清掃組合を組織した事例と教訓 その2
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
73.住民啓発により世論が次第に形成された活動
この地区では,住民も市役所も廃棄物処理には関心が薄かったので,廃棄物処理事業の優先順位は決して高くはなかった。この状況下で,清掃事業を行う「清掃組合の設立」には,ましてや,有料で行う清掃事業に遍く住民が参画するまでには道のりがあった。本稿で住民啓発により住民が清掃事業実施の必要性を認識し,世論が次第に変わっていった事例を紹介したい。
活動のポイントはどのような住民啓発の活動をするか,そして,住民の意識が少しずつ変化し,地域のごみ処理に対する雰囲気が変わり,次第に社会的な圧力(Peer pressure)になっていき,事業展開ができるようになった。十分な分析はできていないが,この経緯を本稿で紹介したい。
定性的に言えば,住民との一層の強い絆と信頼関係の構築が必要であるということで,そのためのアプローチはコミュニティミーティング(住民会議)の実施が良いのではないかということになった。コミュニティミーティングを実施し,住民との距離をなくす活動から入った。またコミュニティミーティングを実施すれば,市民の意見も生で知ることができる。
コミュニティミーティングを計画的に実施して,世論の流れができることを期待した。住民の啓蒙をして,組合の組織を件っていく方向に活動をすすめた。
コミュニティミーティングには説明用の環境教育のDVD,清掃事業の説明用のDVDを作成した。アラビア語で日本の清掃事業を説明するDVDも作成した。料金徴収のTVスポットも作成し,利用した。Facebookも活用した。DVDはローカルのTV局の番組にもつかわれた。次第にラジオ放送番組も製作され,清掃事業に市民は興味を持ってくれるようになった。組合にはA市役所から応援で広報担当職員が派遣された。
A清掃組合の設立にはコミュニティミーティングを約200回実施した。B,C,D,E,F清掃組合の設立や,立て直しにもそれぞれ30回から40回のコミュニティミーティングを実施している。
コミュニティミーティングのテーマ,実施方法についての表2に一覧表を作成した。回数が多いが,組織の設立や変革には重要な役割を果たした。
行政広報には啓蒙用の作成したリーフレット,冊子,DVD映像はコミュニティミーティングだけでなく,その後も,組合の開く住民集会等にも活用されている。
表1にコミュニティミーティングの骨子を示した。
表2に示したコミュニティミーティングは,レクチャー(講義)の形式ではなく,討論でコミュニケーションをとりながらすすめてゆく。
表1 コミュニティミーティング(住民会議),職員研修の実施検討事項
表2 コミュニティミーティング(住民会議).職員研修の内容
住民啓発,政府職員啓発,ビジネス界の啓発のために作成したビデオ(DVD),リーフレット,資料用冊子などの例を紹介したい。活動を始めてみると,地域の廃棄物管理に対する優先度は低く,住民の廃棄物処理に関する知識も乏しかった。活動を始めるにあたり,基本的知識の付与も重要であるので,廃棄物関係の冊子(32ページ程度のものであるが)が,地域で勉強会をする上で重要な役割を果たした。DVDも同様である。資料は清掃組合の立ち上げ時だけでなく,組合が設立された後も長く使用した。
表3 住民啓発,政府職員啓発,ビジネス界の啓発のために作成した資料,機材等
難民キャンプでのコミュニティミーティング
学校での環境教育の授業
地域のコミュニティミーティングの様子
大規模なコミュニティミーティング
地域の地域コミュニティミーティングの様子
ボランティア活動の支援
新しく建設した埋立地の開所式
バナー件成
本稿に終わりに
A清掃組合設立のためにコミュニティミーティングを約200回実施したが,実施回数はそれほど必要ないと実感した。そこでB,C,D,E,F組合設立には30回から40回程度にした。ここまでの経験では社会的圧力が生じるにはプロセスがあって@ 最初は対象なる地域の市民の約5%〜10%程度に広く啓蒙啓発活動を実施することで十分だった
A その後テーマを絞った啓発活動をすすめた。
B その後は実際に収集を行い,実践を踏まえた参加型の啓発活動に切り替えることにした。
C 最後は,市民同士が話し合えるような時間を設けたコミュニティミーティングにした。
日本でも約1700ある自治体で,おそらく,ごみの収集料金だけで清掃事業を遂行している自治体はないと思われるが,以上のような一連の活動で,清掃事業についての意識が変わり,有料で廃棄物処理を行うことができた。
参考文献(清掃組合を設立するためにさらに理解を深めるために参考にできる文献)
1.W.リップマン,世論(上・下)岩波文庫
2.山本七平,空気の研究 文春文庫1983
3.石井明男 現地政府,自治体,住民との合意形成をしながら進めたプロジェクト −行政広報の効果− 廃棄物資源循環学会 ごみ文化研究部会講演,2006.6
4.冷泉彰彦,「関係の空気」,「場の空気」講談社現代新書 2006
5.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯印刷 2017
6.辻田幹真佐憲,たのしいプロパガンダ イースト・プレス 2015
7.佐々木信夫 市町村合併 筑摩書房 2002
8.東京都 広域行政論の変遷に関する調査 東京都1991
9.吉村弘 最適都市規模と市町村合併 東洋経済新報社1999
10.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源循環分野における国際協力の近年の動向 2021,4
11.小林よしのり 世論という悪夢 小学館 2006.6
※元東京都清掃局,元ダッカ廉棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括.現東洋大学大学院博士後期課程