読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第25講:プロジェクトは現地にどのように根付いていったか
パレスチナで清掃組合を組織した事例と教訓 その1
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
パレスチナとイスラエルという複雑な歴史が生み出している政治的文化的背景を抱えながら,廃棄物管理(収集,埋め立て処分,住民啓発などの事業)実施のために廃棄物管理組合を組織化したプロジェクトは,自己組織化 1)の手法を行いながら組み立てていった。 パレスチナのように外部からは全容がわかりにくく,歴史や文化的背景が分からなければ実施が難しいプロジェクトには,「自己組織化の持っている,能力を育てながら実施していく」活動は適している。準備には時間がかかるが,清掃組合の組織ができつつある状況で自己組織化の機能を発揮させていくわけである。試行錯誤を繰り返すが形ができてきたら,自らの力で組合の組織を作って完成させていった。 最初にこの手法で2006年にA清掃組合を組織化した。2014年に再訪したときには,A清掃組合の組織は成熟し一層の発展をしていた。2014年に,3つの清掃組合の立て直しと2つの清掃組合を作る方法は2006年に組織したA清掃組合のやり方になぞらえた。 廃棄物管理のプロジェクトは行政の仕組みや組織ができている方が,自立した活動もできるし,社会変化に対応できる可能性も示すことができた。
72.2006年にA清掃組合を組織化した方法について
(1)プロジェクトの概要
A清掃組合は17の自治体(LGU)が集まり1つの清掃組合を組織し,17の自治体全域の清掃事業を一括で行うことを目指した。2005年11月に組織づくりの活動を開始し,2006年8月に基本計画策定,12月に19人の職員雇用,2007年1月に収集サービスを開始した。料金徴収率は当初の60%が,2009年には90%以上になっていた。住民に理解してもらうためにコミュニティミイーテイングは2006年8月から2010年2月までにあわせて200回実施した。しかし計画的に行えば半分以下にすることも可能だった。議会や委員会が設置され,事業の方針を議決していく仕組みは,機能するまで1年以上かかっている。
組合の組織化で得られた廃棄物管理組合設立の知見は,2008年8月に全国セミナーで11清掃組合の設置に大きな貢献をした。2014年にはさらにB,Cの2組合の設立,D,E,Fの3組合の立て直しを行った。
(2)清掃組合を作る難しさとは
清掃組合を作るということば,一つの小さな自治体を作るということで,組合の業務は一つの自治体を運営していく業務である。
最初の問題は,組合のエグゼクティブダイレクター(組合管理者)が清掃行政,清掃事業運営をしていくことの困難さを認識ができないことがネックになった。エグゼクティブダイレクターには素養がいる。しかしこのような素養を持ったエグゼクティブダイレクターを見つけること自体,非常に困難なことである。さらに人選後,エグゼクティブダイレクター育成をほとんど毎日かかりっきりで行政の手法を伝えた。組合の委員会を構成する委員も行政の委員会という役割を認識できず,委員会の育成にも時間がかかる。清掃組合と委員会,議会での内部でけん制できるようになるまでには時間を要さなければならなかった。委員会の育成のガイドライン 2)を作成して,説明しながら育成した。
組合が住民の満足する収集体制を組みあげることは,時間がかかることではなかった。清掃員に清掃サービスの担い手であるという自覚を持ってもらうこと,住民が清掃事業の重要性を認識し,行政サービスを理解することがこのシステムの重要なポイントであるので,時間をかけた。そのためにコミュニティミーティングを200回以上実施した。
(3)清掃組合を件るための全体の関連組織と役割についての育成について
清掃組合を設立するときに組織を作るだけでなく,中央政府の支援,清掃組合を支える委員会や議会の支えなども必要である。そして,清掃組合の成長とともに中央政府の成長も必要であり,委員会や議会の成長も必要である。
住民や傘下の自治体の成長も必要である。関係機関もそろって切磋琢磨しながら,全体のレベルが上がっていく。
関係組織と機能を列記した。
表1 清掃組合を作るための関連組織について
(4)清掃組合の役割
清掃組合の役割を表2にまとめた。
表2 清掃組合の役割
(6)組合を設立するときの手順
組合を設立するときに,自治体からの機材や人員,権限の委譲の順番,設立の順番には注意を払う必要がある。
当初参考にしたのは,日本の市町村合併で行われたプロセス,東京都清掃局が区に移管されたときに行われた順番である。
表3 組合を設立する手順,移管の手順
A清掃組合議会(総会)の様子
A清棉組合サービス地域
車両維持管理を市役所のワークショップに依頼
埋め立て地に屎尿を受け入れ
A清掃組合長(A市長)
委員会の議論の様子
A清掃組合メンバー
住民会議
エルサレム嘆きの壁
A清掃組合の組合事務所(一階の一部屋をレンタルした。)
A清掃組合設立会譲に政府高官も参加
A清掃組合設立会議に17首長参加
一次収集人
17都市の市民の現場視察
本稿の終わりに
本稿の清掃組合設立は,ばらばらだったパレスチナの遊牧民集落が集まり共同で清掃事業を実施する「清掃組合を設立し,運営した」活動の記録である。
結果として地方自治体制が作られている。パレスチナ地方自治庁では,集落を合併(マージング)して地方自治体制を作っていくことを試みたがうまくいかなかった。そこで,事業を決めて「組合組織を作ることが試みられた。A組合は2007年設立してすでに14年経過し,定着している。今回の2清掃組合の設立,3清掃組合の改善を含め現在では全部で12清掃組合が活動している。
参考文献(清掃組合を設立するためにさらに理解を深めるために参考にできる文献)
1.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯印刷 2017
2.P.Glandorff,I.Prigojin,Thermo−dynamic theory of structure,stability and fluctuations Wily Inter−science London 1971
3.佐々木信夫 自治体をどう変えるか 筑摩書房 2006
4.佐々木信夫 市町村合併 筑摩書房 2002
5.東京都 広域行政論の変遷に関する調査 東京都1991
6.吉村弘 最適都市規模と市町村合併 東洋経済新報社 1999
7.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第11講 廃棄物行政と行政の民主化 Vol.50,No.6 2020
8.Steven Johnson,Emergence The Connected Lives of Ants,Brains,Cities,and Software.Scriber,imprint of Simon
9.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源循環分野における国際協力の近年の動向 2021,4
10.都区協議会 都区制度改革のまとめ 都区制度改革推進委員会 平成6年度
11.佐々木信夫 地方分権と地方自治 勁草書房 1999
1)自己組織化とはこの場合は組織活動が外部環境に適応しながら適切な組織体形を形成してゆくこと。
2)委員会を運営するための指導書,予算案の承認には,@組合が事業計画に基づき予算説明をする。A事業の必要性について委員会は質問する,といった委員会や,議会の運営について記述している。
※元東京都清掃局,元ダッカ廉棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括.元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括.現東洋大学大学院博士後期課程