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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第23講:プロジェクトは現地にどのように根付いていったか その2 クリーンダッカ・プロジェクトでの収集の事例(1)

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 プロジェクトが現地にどのように根付いていったかについて第13講で紹介した。本稿では,クリーンダッカ・プロジェクトでの収集の事例「導入時と導入後,社会状況に適応して変化して定着していく状況」を紹介したい。特にWBAを導入して,社会変化に収集形態が変容していく過程を具体的に紹介したい。周辺住民の生活や社会の状況変化,一次収集人の仕事の工夫や変化で,その時に実施している収集の方法が時間経過とともに変貌し,安定して持続可能な収集形態と変わっていく過程である。
 第18講:「プロジェクトの方向性を決めていくパイロットプロジェクトその2」ではダッカ市の各ワードで適正な収集方法を決め,そして導入した経緯を解介したが,この報告と比較してほしい。

69.プロジェクト活動を創発するWBAの考え方とWBAを育てる考え方について

(1)相互作用を創発するためのWBAの構成
 第22講で紹介したが,ダッカ市の廃棄物処理を90のワードで分散処理をする収集組織を作ることが目的だが,相互作用を生み出すためにプロジェクトの活動の必要な要因としては,
@ 活動
A 活動間の相互作用を作る活動
B プロジェクトの環境整備
C プロジェクトの推進力
である。
 「クリーンダッカ・プロジェクト」でWBAを作る活動は,以下の4つの要因として説明することができる。
@ 活動:清掃員の意識啓発と教育(WBA2),住民参加による住民啓発(WBA3)
A 活動間の相互作用力:廃棄物管理事務所のコーディネーションにより活動間の相互作用を発生させ,相乗効果を生み出す活動(WBAl)
B プロジェクトの環境の準備:民主的な地方自治ができていない都市での清掃事業の実施は困難なので,廃棄物問題(都市問題)と相互に補完しながら活動を作り上げ活動を進めていくので,民主的な地方自治行われていることが環境になる
C プロジェクトの推進力:地域文化,地域慣習に適合した住民参加型の容器による定時収集の実施を推進力にする(WBA4)
(2)WBAとして組み合わせた4つの活動が成長し,適応するために,適応変化がはじまり,変化を増幅させていくための活動
 WBAを作り,その後WBAを進めていくためにプロジェクトの創発を引き起こすように,クリーンダッカ・プロジェクトでは・以下のような接し方をしてきた。
 そのエッセンス7のまとめは前回にも紹介した。
(再掲)
「プロジェクトに接する考え方」
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●「上位からの指令」での「全体管理」はしないようにしている。トップダウンでは様々な変化に対して内的に組織構造を変化することができない。上手にこの考え方を現場に浸透させることにした。
● 活動に多少「混沌状態」が生じても容認するようにする。ほんの小さな変化が条件によって大きな変革になる場合がある。
● やがて秩序を生み出す可能性があるので,多少「不安定感」が生じてもとりこむようにする。社会のゆらぎのようなもので,方向性を持ち,システムの構造を変える可能性があるとみなす。
● それぞれの活動に「新たな活動」がはじまってもプロジェクトとしては」包括していくようにする。各々の挑戦を重視する。役割を流動化する。
 組織にどのように影響するかもじっくり見届ける。
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表1 プロジェクト終了後の変化のまとめ

70.ダッカ市の地域ごとの収集形態の変遷

 ダッカ市では,2007年にWBAを利用して住民と市役所で各地域の適正な収集頻度,収集形態を検討し,地域にあったごみ収集方法を導入した。導入時の活動は相互作用を誘発するようにWBAを構成して,その後はプロジェクトの「変化」や「ゆらぎ」を重視し自発性を重視するような活動を行い,収集形態は変化していった。
 しばらくして,社会の変化,住民の意識変化により,それまでの収集の形態を自らの力で適応し変容していった。この変化の記録について本稿と次回の2回に分けて紹介したい。

スラムエリアでの住民集会の様子


夜間収集の導入のための実験の様子


容器による定時収集導入の様子


現地で活動していたNGOがダストビンを花壇に改造した.


狭い道路専門にごみを回収していた一次収集車


12個のコンテナを撤去する前の様子


清掃事務所の収集機材管理改善の様子


集合住宅の収集の様子(収集場所を決めた)


貧困地域での紙袋収集の実験


小型コンテナの開発

本稿のまとめ

 クリーンダッカ・プロジェクトで,WBAという形で2007年にダッカ市役所,住民,プロジェクトで各地域の収集形態を作った。その後,社会の状況の変化に適応して地域の自らの力で収集形態を変貌させた様子をまとめた。
 まとめてみると各ワード(地域)では,それぞれに導入したままの収集形態では,社会変化に対応できなかったことが分かる。つまり,2007年から2017年までの収集の形を変貌させて適応し,更に発展させていた記録である。
 これを安定性の側面,持続可能性という側面からみると非常に高い持続可能性を保持するための活動であることが分かる。2007年にWBAを導入してすでに13年が経つが,2007年には14のWBAワードが現在は50ワード近くに拡大している。


参考文献
1.独立行政法人 国際協力機構 バングラデシュ国南北ダッカ市廃棄物管理強化プロジェクト(延長)業務完了報告書 2013年
2.石井明男 口頭発表:自己組織化を用いた廃棄物処理プロジェクト持続可能性向上に関する研究 廃棄物資源循環学会関東支部 研究発表会 2021.3
3.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリィ)佐伯印刷 2017
4.P.Glandorff,I.Prigqjin Thermo−dymanic theory of structure,stability and fluctuations Wily Inter−Science London 1971
5.アンリ・ベルグソン 創造的進化(真方敬道訳 岩波文庫1979「創発」の考え方の原型がある。
6.石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第18講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその2(ダッカの場合) Vol.51,No.1 2021
7.Steven Johnson,Emergence The Connected Lives of Ants,Brains,Cities,and Software. Scriber,imprint of Simon & Schuster,Inc.2001
8.石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第20講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその2 Vol.51,No.3 2021
9.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源循環分野における国際協力の近年の動向 2021,4
10.石井明男 口頭発表:地域住民の慣習,民間収集業者の業務と協調しながらのダッカ市の廃棄物処理改善の取り組みについて 第22回廃棄物資源循環学会研究発表会 2011
11.石井明男 口頭発表:ダッカ市を構成する行政区単位で改善するダッカ市の廃棄物処理改善 第19回廃棄物資源循環学会研究発表会 2008


※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程