屎尿・下水研究会

TOP

屎尿・下水研究会の概要

お知らせ

発表タイトル

特別企画

企画図書類

更新履歴


読み物シリーズ


シリーズ ヨモヤモバナシ



廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第22講:クリーンダッカ・プロジェクトの知見を利用したスーダン国ハルツームの廃棄物管理事業強化 その2

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

 ハルツーム州廃棄物管理強化プロジェクトの特徴は,「複数の活動を計画的に組み合わせて相互作用で新たな機能を生みだし,安定して持続可能な活動になるようにした」ことである。
 この手法はクリーンダッカ・プロジェクトで既に50例ほど進めている。クリーンダッカ・プロジェクトでの具体的な活動の説明は次回に紹介したい。
 本稿ではスーダン国ハルツーム州廃棄物管理強化プロジェクトで実施した活動を紹介する。

66.パイロットプロジェクト実施でわかったこと 3 9

 前回のパイロットプロジェクトに説明を続ける。
 3回のパイロットプロジェクトを実施して分かってきたことは 9
------------------------------------------------------------------------------------------------------
@ 住民啓発について効果を上げるためには,計画的に実施する必要があることがわかった
A 住民は第一回のパイロットプロジェクトから積極的な受け入れの意識を持ち,容器使用の定時収集を止めたくないということであった
B 利害関係者は住民だけでなく,宗教的指導者,地元の有力者,有価物を回収する業者などいることが分かった
C プラスチック容器を使った定時収集の導入により,現状の収集システムを混乱させることはなく,むしろ効率も向上し,収集が衛生的になることも分かった
D それまで清掃員には教育も訓練もしていなかったが,パイロットプロジェクトの中で職員啓発の活動を実施した。それにより,清掃員の業務に対する意欲も向上し職員には高い評価を受けた
E 容器をつかった定時収集が続けられるような自治体の実施組織はなかったが,既存の組織の改善で対応できそうなことがわかった
F 収集車両の準備,燃料の準備,収集員の準備が可能か自治体と話し合う必要があった
G 地域により,社会の変化があっても柔軟に対応できる可能性があるので,持続可能性が向上することが分かった
H 新しい収集方法の導入は,民主的な地方自治の土台を整えることで導入の環境が整えられることも分かった
------------------------------------------------------------------------------------------------------

67.ハルツーム廃棄物管理強化プロジェクトで実施した活動

 スーダン廃棄物管理強化プロジェクトは,スーダン側の判断と自力で進めてきた特徴がある。
(A)廃棄物管理の組織については,
@ 連邦環境省の中に廃棄物管理ユニット及び環境教育,住民啓発の部門が設立された。
A ハルツーム州廃棄物事業局(KCC)が設立された。
B 埋立地,中継所の管理を郡からハルツーム州廃棄物管理事業局に移管した。
C ごみ収集管理を郡からハルツーム州に移管し,ごみ収集の実務を最小行政区(AU)に移管した。

(B)職員啓発と市民の意識啓発
@ バハリ中継所内に職員研修所が作られた。
  スーダン側で職員及び住民啓発のプログラムを作り実行した。
A 職員に安全研修を行い,安全具とユニフォームを貸与した。
B 住民啓発推進のためのバスツアー,公開セミナー,大学講義を実施した。

68.活動を組み合わせて相互作用を生み出す活動手法 5 6 8を使った廃棄物管理強化プロジェクトの活動

(1)持続可能にするために,相互作用の引き起こす活動の組み合わせを作ること
 プロジェクトの活動を確実に推進するために,「プロジェクトの活動同士が相互に影響しあうための「相互作用力」を生み出す必要があること,プロジェクトが実施できる「環境」が整うこと,そしてその組み合わさった活動を駆動する「推進力」が必要であることをプロジェクトでは備えるとした。

 活動の要素の例をまとめると
@ 活動として,清掃員の意識啓発のための研修,住民啓発を行う
A 各活動の間の相乗効果が生まれるよう,廃棄物事業局を作るためのコーディネーションの活動を利用する
B 民主的な地方自治ができていないと清掃事業の実施は困難なので,民主的な地方自治行われている環境が重要になる
C 地域文化,地域慣習に適合した住民参加型の容器による定時収集の常時進めていく活動をプロジェクトの推進力にする

 活動の多くは,行政側の活動と住民啓発を組み合わせて共同で行った場合が多い。例えば,定時定点収集は州側が決まった時間に,決まった場所に収集車を配車するが,その決まった場所に住民がごみを運ぶことで成り立つ。

(2)組み合わせた活動を成長させるための活動としては
 相互作用で新しい機能を生み出し,活動が強化されるが,その後新しい活動(ここでは「ゆらぎ」と呼ぶ)が形成される場合,普通はシステムを元の状態に戻そうとする動きが生じる。しかし,「ゆらぎ」を生かし増幅させ,安定性と持続可能性の向上に結び付けるために,スーダン廃棄物管理能力強化プロジェクトでは,さらに以下の進め方を取りいれた。
 そのエッセンス7は以下の「プロジェクトに接する考え方」にまとめた。
プロジェクトに接する考え方
------------------------------------------------------------------------------------------------------
●「上位からの指令」での「全体管理」はしないようにしている。トップダウンでは様々な変化に対し,内的な組織構造の変化があらわれない。上手にこの考え方を現場に浸透させることにした
● 活動に多少「混沌状態」が生じても容認するようにする。ほんの小さな変化が条件によって大きな変革になる場合がある
● やがて秩序を生み出す可能性があるので,多少「不安定感」が生じても取り込むようにする。
 社会のゆらぎのようなもので,方向性を持ち,システムの構造を変える可能性があるとみなす
● それぞれの活動に「新たな活動」が始まってもプロジェクトとしては包括してゆくようにする。各々の挑戦を重視し,役割を流動化する。
組織にどのような影響するかもじっくり見届ける
------------------------------------------------------------------------------------------------------
(3)終わりに
 活動は相乗効果が生まれるように計画し,実施した。
 一連の活動によって連邦環境省,ハルツーム州,そしてAUにおける廃棄物処理を実施する組織が作り上げられ,併せてスーダン側の力で廃棄物分野の住民啓発も始められた。
 ハルツーム州の廃棄物処理は連邦環境省の中に廃棄物管理ユニット,ハルツーム州に廃棄物管理事業局,ローカリティ(郡),そしてAUで収集実施という体系化できた。
 ごみ収集も軌道に乗ってきた時に,モロッコとトルコの民間会社が収集事業を受託して収集の民営化が行われ始めた。

住民会議
パイロットプロジェクト(収集の様子)
定時収集のパイロットプロジェクト開始式
定時収集のパイロットプロジェクトの様子
最終処分場管理事務所建設
バスツアー説明会の様子(中学生)
市民,職員研修所
バスツアーの様子
市民対象の公開セミナー
大学講義の様子

参考文献
1.独立行政法人 国際協力機構 スーダン共和国 ハルツーム州廃棄物管理強化プロジェクト業務完了報告書 平成29年2月
2.石井明男 口頭発表:拠点事務所を活用しながら展開したスーダン国ハルツーム州廃棄事業改善プロジェクト 第28回廃棄物資源循環学会研究発表会 2017
3.石井明男学会誌掲載:スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験 廃棄物資源循環学会誌 Vol.31No.2,PP112−124 2020
4.独立行政法人国際協力機構 バングラデシュ国南北ダッカ市廃棄物管理強化プロジェクト業務完了報告書 2013
5.石井明男 口頭発表:自己組織化を用いた廃棄物処理プロジェクト持続可能性向上に関する研究 廃棄物資源循環学会関東支部 研究発表会 2021.3
6.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト ゴミ問題への取り組みがもたらした社会変容の記録(JICA プロジェクトヒストリイ)佐伯印刷 2017
7.P.Glandorff,I.Prigojin Thermo−dymanic theory of structure,Stability and fluctuations Wily Inter−Science London 1971
8.アンリ・ベルグソン 創造的進化(真方敬道訳 岩波文庫1979「創発」の考え方の原型がある。
9.独立行政法人 国際協力機構 スーダン共和国JICA環境管理専門家業務完了報告書(2011年版,2012年版,2013年版)
10.石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第18講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその2(ダッカの場合) Vol.51,No.1 2021
11.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第11講 廃棄物行政と行政の民主化 Vol.50,No.6 2020
12.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第7講 大都市行政への挑戦 Vol.50,No.2 2020
13.Steven Johnson Emergence The Connected Lives of Ants,Brains,Cities,and Software.Scriber,imprint of Simon & Schuster,Inc.2001
14.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第9講 組織改革と権限の委譲 Vol.50,No.4 2020
15.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第5講 ワードペーストアプローチで行った収集改善 Vol.49,No.2 2019
16.石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第13講 清掃現場の労働安全衛生の改善向上に向けて Vol.50,No.8 2020
17.石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第17講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその1(スーダンの場合) Vol.50,No.12 2020
18.石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第20講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその2 Vol.51,No.3 2021
19.石井明男(廃棄物資源循環学会企画セミナー講師)スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験と実施手法 廃棄物資源循環分野における国際協力の近年の動向 2021,4

※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程