読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第21講:クリーンダッカプロジェクトの知見を利用したスーダン国ハルツームの廃棄物管理事業強化 その1
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
JICA専門家の活動,技術協力プロジェクトで実施したスーダン廃棄物管理強化事業の活動についての報告は,2020年3月廃棄物資源循環学会誌に掲載されたが3),活動の背景,活動の進めかたを本稿で追加の報告をしたい。
2010年10月から2013年まで筆者は廃棄物改善でJICA専門家として,また2014年から2017年まで技術協力プロジェクト,ほぼ同時期に無償資金協力プロジェクトに従事した。派遣期間中の2011年1月には,南部の独立の是非を問う国民投票が行われ,同年7月に南部は南スーダン共和国としてスーダン国から独立した。
まずJICA専門家の活動で,ハルツーム州の収集改善に取りかかったが,現地調査を進めていくとハルツーム州で収集が行われていた地域は中心部のみで,中心のハルツーム郡以外の他の6つの郡は収集が行われているように見えなかった。清掃事業を実施する組織体制の改善が必要に思えた。先行していた「クリーンダッカプロジェクト」の知見をハルツーム廃棄物管理強化プロジェクトに利用できるのではないか検討した。
JICA専門家業務,技術協力プロジェクト,無償資金協力が終わった2017年にはハルツーム州政府内に廃棄物管理事業局が設立され,現場での収集は108ある小規模地域管理区(AU)が担うことになり,廃棄物管理事業実施体制が構築され,また連邦環境省には,国の廃棄物管理を行う「廃棄物管理ユニット」が設立された。マスタープランの策定も行われ,その後スーダン側ではマスタープランに則ったごみ中継所の建設,故障車両整備も自力で行い,収集体制が整備されてきた。
本稿ではスーダンの廃棄物管理の活動の背景と活動を支えた手法について2回に分けて紹介したい。
1.スーダン国の廃棄物分野の状況
(1)スーダン国の状況
スーダン国はアフリカ北東部に位置し,広さは日本の5倍,人口は約3,400万人,宗教はイスラム教である。
2011年のスーダン国の状況を表1に示した。
表1 スーダン国の基礎情報
(2)ハルツーム州への廃棄物分野の支援の歴史
スーダン国ハルツーム州には日本は2010年から2013年までJICA専門家が派遣され,2013年から2016年まで無償資金協力,2014年から2017年まで技術協力プロジェクトの支援している。
廃棄物分野の日本からハルツーム州への支援の歴史を図1に示した。
図1 ハルツーム州への廃棄物分野のJICA支援の歴史
(3)ハルツーム州の廃棄物処理の状況
当時のハルツーム州の廃棄物処理の状況を図2に示す。ハルツーム州から発生するごみ量は3,400t/日,ハルツーム州にはごみの中継所が3か所,最終処分が3か所ある。
図2 ハルツーム州のごみのフロー
2.2011年頃のハルツーム州のごみ収集の状況
(1)ハルツーム州及びハルツーム郡における収集状況について
ハルツーム州及びハルツーム郡における収集についてまとめた。
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● ハルツーム州には多数の貧しい人たちが居住する地域,スラム地区,難民居住地域,中心部の商業地区,富裕層が居住する地区などが混在していた。
● ハルツーム州では収集サービスは全域には行き渡っていなかった。
● 清掃作業員の大半は臨時の雇用職員で,職員には特に決まった作業服はなく,Tシャツ,サンダル履きで作業していた。
● ハルツーム郡では
早朝:郡のごみ収集員が路上に落ちているごみを手で拾い集める。
昼:収集車両が住宅の前の路上に出したごみ袋を収集する。
● 収集日時は不定期であった。
● ハルツーム郡以外の6つの郡では収集サービスは十分に行われていない地域が散在した。収集サービスの事業主体はっきりしていなかった。
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(2)廃棄物管理事業実施体制について
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@ 連邦政府(中央政府)には廃棄物処理を扱う部署はなかった。
A 国全体の廃棄物管理の方針は決まっていなかった。
B ハルツーム州政府水資源省で州の廃棄物管理を所掌していたが,具体的な実務は行っていなかった。
C 収集作業はハルツーム州の7つのローカリティ(郡)の「ごみ収集担当部署(クリーニングプロジェクト)」が所掌していた。
D 最初に考えなければならないことは,廃棄物処理を行う組織をどうするかであった。当時は20人くらいのハルツーム州の外郭団体であるKCP(ハルツームクリーニングプロジェクト)が各部に収集,中継所,埋立地維持管理の助言をしていた。
E ハルツーム州政府の中に清掃事業を総合的に管理する組織に育て上げることが必要だった。
F ハルツーム州全域の収集サービスをカバーするため,現場で収集作業を所管する末端組織の検討が必要であった。
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3.ハルツームの廃棄物処理の目指すことは
ハルツーム州の収集の状況を調査した結果,廃棄物管理が目指すことを2011年当時以下のように整理した。
@ スラム地区,難民居住地区,商業地区など混在しているが,遍く収集のサービスがカバーできる体制,仕組みの構築を目指すこと
● ハルツーム州政府内に廃棄物管理事業を遂行する組織を設立すること
● 収集は約10万〜15万人単位の現場の小規模の行政区で実施すること検討すること
A 廃棄物管理に従事する職員の意識啓発を行い,職員の意見が清掃事業に反映できる仕組みを検討すること
B 住民との信頼関係を強化して住民参加型の廃棄物管理を築くこと
C プロジェクトの構造を安定した持続可能な取り組みにしていくこと
D 清掃事業実施の財源の目途をつけること
65.廃棄物問題を解決するための前提
清掃事業のような都市間題を解決する事業は,民主的な地方自治を作って,その民主的な自治を土台として行うことが望ましいが,民主的な地方自治ができてない場合は都市問題(ここでは廃棄物管理)を解決しながら実施するか,どちらが先ということはなく,時としてはお互いに補完しながら作り上げていくことで廃棄物管理事業のシステムが導入されやすくなり,また持続可能性が高められていく必要がある。
1.政策と都市間題を相互に補完して取り組む必要性
廃棄物管理事業は,ごみを排出する住民の理解や協力が必要であり,ごみを収集する職員の理解や協力も重要である。そこで住民とのコミュニケーションをとる仕組み,清掃職員の経験や意見を交わせるシステムが必要である。またマスメディアとの良好な関係の構築も必要であり,住民参加や職員参加を進めるためには,それぞれの権利や権限の理解が重要である。つまり廃棄物管理事業の実施は,民主的な地方自治が前提になっている。
その民主的な地方自治の状況を調査するために,パイロットプロジェクトの実施は有効である。
東京都の歴史の中にも地方自治を作り上げようとした苦労の歴史があった。あるいは民主的な地方自治と清掃事業を同時に作り上げた時期もあった。クリーンダッカプロジェクトでも廃棄物管理事業を進めながら地方自治を作りあげていく取組みを行ってきた。
かつてのダッカ市では民主的な地方自治ができていない部分が多く,住民参加を目指す廃棄物管理事業の実施は当時非常に困難であることが分かり,以下の表に示した活動を行ってきた。
ダッカ市の廃棄物管理強化で行った民主的な地方自治の仕組み作りの支援の例
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例えばクリーンダッカプロジェクで行った,民主的な地方自治をすすめるために手助けした活動の一例を挙げると,
● 住民と意見を交換し,住民の合意形成を行える仕組みを作ったこと(WBA3)
● 現場からの意見を反映する仕組みを作ったこと(WBA2)
● 廃棄物事業に関して清掃従事者の権限,権利を「清掃事業実施細目」を作り周知したこと
● 市役所側と住民が共同で廃棄物管理事業の政策「清掃事業指針」を策定し,実施する仕組みを作ったこと
● 住民参加型廃棄物管理の取り組みを行ったこと(WBA3)
● 市民に情報を提供する仕組みを作ったこと(WBA3)
● マスコミと良い関係構築するため,本局に広報部署を作ったこと
● 本局の権限を現場に委譲するための受け皿としてのWBA活動を推進したこと(WBA)
などである
プロジェクトで使用したリーフレット
(住民への容器による定時収集の説明及び清掃員にユニフォーム着用と作業方法についての説明)
2.民主的な地方自治とハルツーム州
容器による定時定点収集の実施可能性調査のためのパイロットプロジェクトを実施したときに,「住民説明会」を開催しようとした。2010年12月当時,ハルツーム州では,住民集会の開催は禁止されていた。すべての集会は政治集会と考えられていたためであり,「住民と話し合って廃棄物管理事業を形作る」という発想はなかった。州政府に掛け合い,集会を開いたが,政府職員も州政府職員も住民集会には参加しなかった。住民と意見を交換して,合意形成を行うまでには時間がかかった。
清掃事業パイロットプロジェクトに関する忌憚のない住民の意見の収集を郡政府に頼んだが,住民の自由な意見を吸い上げる仕組みがどうもなかったようであった。もう一つ,清掃事業の活動や実施内容について同じく郡政府を通じて現場からの意見を拾い上げるように頼んだが,そのルートもなかった。
ハルツーム州での民主化のための活動は,ダッカ市の廃棄物管理強化で行った民主的地方自治の仕組み件りの支援活動と同じような活動を進めた。
3.パイロットプロジェクトで可能性を探る
収集のパイロットプロジェクトは3回実施した。
パイロットプロジェクトの目的は,定時定点収集システム導入が可能かを調査することである。
@住民が受け入れるかどうかの意識調査
Aどのような利害関係者がいるかの調査
B自治体の実施組織の現状調査
C収集車両,収集車両を稼働させる燃料の準備,収集員の準備が可能かの調査
D現地慣習に合致しているかの調査
州に7つある郡の郡長と清掃担当者に対して事業の説明会を実施した。各部で実施に同意するときは清掃車両の準備,収集車両の稼働のための燃料の準備,清掃員の準備ができるかを検討してもらった。パイロットプロジェクト3)は
● 第1回2010年12月から2011年2月10か所で実施
各実地地区100軒程度(市場4か所,住宅地6か所)
● 第2回2011年9月から2011年12月 5か所で規模を拡大して実施
各実地地区400−500軒程度(市場3か所,住宅地2か所)
● 第3回2015年3月から継続
各実地地区1,000軒程度(住宅地2か所)更に規模を拡大して実施
次回はこの調査を元に活動のコンポーネントを選び,その活動を組み合わせ相互作用を生み出し,活動を発展させたプロセスを紹介する。
参考文献
1.独立行政法人 国際協力機構 スーダン共和国 ハルツーム州廃棄物管理強化プロジェクト業務完了報告書 平成29年2月
2.石井明男 口頭発表:拠点事務所を活用しながら展開したスーダン国ハルツーム州廃棄事業改善プロジェクト 第28回廃棄物資源循環学会研究発表会 2017
3.石井明男 学会誌掲載:スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業における経験 廃棄物資源循環学会誌 Vol.31No.2,PP112−124 2020
4.石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト(JICAプロジェクトヒストリイシリーズ)佐伯印刷 2017
5.石井明男 生活と環境 スーダン国ハルツーム州での廃棄物管理改善への挑戦 Vol.63,No.12,2018
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第7講 大都市行政への挑戦 Vol.50,No.2 2020 の記述を参照
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第11講 廃棄物行政と行政の民主化Vol.50,No.6 2020の記述を参照
@石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第8講ダッカ市で実践した行政広報 Vol.50,No.3 2020の記述及び,
A石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第11講 廃棄物行政と行政の民主化Vol.50,No.6 2020の38,住民参加型廃棄物管理の記述を参照
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第11講 廃棄物行政と行政の民主化Vol.50,No.6 2020 39.現場主義と民主化,40.「政策決定のいかされる現場の知恵」に記述を参照
石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第14講 プロジェクトの安定性と継続性を支える法令の役割 Vol.50,No.10 2020 参照,「清掃事業実施細目」についての記述参照
石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第14講 プロジェクトの安定性と継続性を目指した活動Vol.50,No.9 2020 参照,「清掃事業指針」についての記述参照
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第8講ダッカ市で実践した行政広報 Vol.50,No.3 2020の 「居住地単位のコミュニティという概念がほとんどない ダッカでの住民参加型廃棄物管理の導入について」の記述参照
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第8講ダッカ市で実践した行政広報 Vol.50,No.3 2020の「市民に情報を提供する仕組み」の関連の記述参考。
石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第9講 組織改革と権限の委譲 Vol.50,No.4 2020の記述を参照
@石井,小谷 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第5講 ワードペーストアプローチで行った収集改善 Vol.49,No2 2019の記述参照,
A石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ第17溝 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその1(スーダンの場合)vol.50,No.12 2020には詳細なハルツームのパイロットプロジェクトの記述,
B石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第20講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその3 Vol.51,No.2 2021の東京都の資源ごみ回収のパイロットプロジェクトの事例の記述,
C石井明男 都市と廃棄物 トイレヨモヤモバナシ 第18講 廃棄物行政を決めてゆくパイロットプロジェクトその2 Vol.51,No.1 2021の「ダッカのパイッロットプロジェクトの事例の記述を参照
※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程