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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第19講:廃棄物行政の方向性を決めていくパイロットプロジェクトその3 東京都で実施した資源ごみ回収モデルプロジェクト

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

 ODAにおいてもアジアやアフリカの大都市の廃棄物問題に取り組むことがある。そこで,人口1千万人を擁する東京都の廃棄物処理事業の経験からの実施過程を見ると多くの示唆を含んでいるように見える。その例として,循環型社会形成推進基本法や容器包装リサイクル法の大筋の流れの中で行われ,現在の収集体制を作った「資源回収事業」実現の過程を紹介したい。

 最近の東京都の収集改善の変化をたどると,
@ 昭和36年(1961)ごみ容器による定時収集の導入。同時に,厨芥,雑芥に分ける分別収集をやめ,有機ごみを含む全てのごみを分別せずに集める「混合収集」に変えている。
A 昭和44年(1969)には過3回の収集を始め,昭和46年に全区で実施している。
B 昭和44年(1969)不燃ごみと焼却不適ごみを「不燃ごみ」とし,残りを「可燃ごみ」とした分別収集を実施している。
 今回は,その後に実施した収集改善である「資源回収事業」を紹介する。
 パイロットプロジェクト的に平成9年(1997)*iに開始し,その資源回収モデル事業の結果を検証して,東京23区全域に展開した。重要なことは本部(本局)と現場の清掃事務所が一体となって事業を推進していったことで,実施過程は学ぶところが多い。ダッカで実施したWBAの活動にも参考にできることが多々ある。
 この資源回収モデル事業は東京ルールI(後述)に基づいて実施している。

59 東京都はごみ問題を解決するための政策として「東京ルール」を策定した

 平成7年に東京都で抱えるごみ問題を解決するために,都民からも委員を公募して「ごみ減量のための東京ルール」懇談会を設置し,平成8年に懇談会は最終のまとめで以下のような基本方針を提言した。
@ 資源回収の徹底
A 事業者による自己回収の促進
B ペットボトルの回収
 そこで,基本方針に基づき,「ごみ減量のための東京ルール」を以下のように定めた。

 東京ルールI:行政による資源回収の徹底
  週1回の資源回収の日を決めて都民参加型リサイクルシステムを構築する。この場合,可燃ごみの収集日を一日減らし,この資源ごみの回収に充てるなど効果的なリサイクルのシステムを作る。

 東京ルールU:事業者による望ましい自己回収システムの確立
  びん,缶,ペットボトル,紙パック,トレイなどについて製造から販売者まで自己回収の仕組みを確立する。
@ 都民は分別に協力
A 販売事業者は回収ボックスを設置,管理し回収,資源化計画を作成
B 販売事業者以外の事業者は回収,資源化計画の作成に参加
C 全事業者は回収,資源化計画に基づき適切な分担,協力のもと,容器等の自己回収,資源化を実施
D 行政はその仕組みづくりにおいてリーダー役を務める

 東京ルールV:ペットボトルの店頭回収システム
  ペットボトルは,行政が店頭の回収拠点から中間処理施設までの運搬を行い,販売事業者及び容器内容物メーカーの自主的な体制づくりに発展させるということになった。

役割分担については
@ 都民は分別を徹底し,回収に協力
A 販売事業者は回収ボックス設置,管理,回収品の保管
B 容器,内容物メーカーは圧縮,梱包等の中間処理と商品化
C 行政が店頭の回収拠点から中間処理施設までの運搬
ということにした。

60 東京ルールIの具体化のための資源回収事業

(1)資源回収事業実施のために「資源回収モデル事業」の実施
(ア)モデル事業の実施
 資源回収を含めたごみ収集体制の変更にあたり都民に意識調査を実施し,事業の有効性を検証したうえで実施することにした。
 モデル事業は各区と協議して,6区(港区,品川区,渋谷区,練馬区,足立区,江戸川区)で平成9年から実施している。モデル事業では「古紙,ビン,缶」3品目を回収した。そのうちビン,缶についてはコンテナによる収集や,袋による収集など複数の方法を検証している。

回収の方法について


実施地域の設定

(イ)資源回収モデル事業の検証
 パイロットプロジェクトとして行った資源回収モデル事業の検証結果を以下に示す。
@ 週一回の資源回収日の設定については,都民の理解と支持を得られた。
A ごみの減量効果は,実施前と比較するとごみの量で12%減,ごみに含まれる資源の量は21%から9%まで減少するなどモデル事業による効果は検証された。
B 可燃ごみ収集を過3回から2回にすることは賛否相反する結果となった。
C ビン,缶回収については「コンテナは排出,回収を基本として各区の事情を鑑みて,袋収集も併用できる」とした。
D モデル事業は集団回収に18%程度影響を与えた。
E ビン,缶の民間収集とのコスト比較では,民間収集は有利であり,民間活用を図ることは可能である。
F 清掃事業全体でのごみの分別,排出指導,苦情対応は清掃事務所が日常的に対応することとした。

資源回収の掲示板

ビン・缶別に各々のコンテナに入れて排出する方法

ビン・缶を混合で袋に入れて排出する方法


モデル事業の検証の方法,結果について

 資源回収モデル事業の検証方法と結果を以下に示す。
(ウ)各清掃事務所で行った活動
 現場の清掃事務所は資源回収モデルプロジェクトでは重要な役割を担った。以下に示す。

  清掃事務所で実施した作業
@ 資源回収モデル事業の対象エリアの決定
A 収集車両の容量を考慮して,可燃ごみ,不燃ごみ,資源ごみの収集エリアの境界の決定
B 清掃事務所長,収集を取りまとめる作業長が町会に情報提供実施,説明実施
C 清掃事務所職員による広報チラシの全戸配布(集合住宅も個別に行う)
D 住民説明会(主に夜実施)
E 集積所の掲示板の設置,あるいは交換
F 広報(区の広報誌に収集の変更の記事掲載,ケーブルTVで公告,町会ポスター,小学校PTA連絡,ふれあい指導*ii)
G 清掃事務所では収集ごとにごみ量の計測実施
H 定期的にごみ分析実施
  以上を通常の収集作業を終えてから実施した。
(エ)23区全域への資源回収事業の展開
 都はごみ減量,リサイクルの促進を図るために,平成11年度未までに,資源ごみ回収を週1回,可燃ごみ収集を週2回に変更した。実施に当たっては
 @ 集団回収や区が行う行政回収,拠点回収と連携,併存
 A 資源回収業界との連携
 B 回収した資源の需要拡大を促進するために,再生品利用拡大の推進をはかることとした。
 平成10年10月に初めて品川区全域で実施,次に11年2月に足立区全域,4月にさらに2区,6月にさらに2区と順次実施していった。11年度未には豊島区を除く22区で資源回収事業を実施した。

終わりに

 資源回収事業は平成9年(1997)にモデル事業として開始して,平成11年(1999)度末には23区全域にしている。わずか3年で事業は完遂している。
 事業の進め方は,本部で政策を策定し,方向性を決めたが,事業の推進役が清掃事務所と清掃事務所員の活動であった。東京都清掃局全局で取り組んだ活動であった。
 当時清掃事務所員の作業を担う所員の昇格などの処遇の改善なされ,また,清掃事務所は主体的に「ふれあい指導」などの現場が主導する活動も積極的に行っていた。この一連の活動の骨組みは「クリーンダッカ・プロジェクト」,「スーダン国廃棄物改善プロジェクトの収集改善」,「パレスチナ廃棄物管理強化プロジェクトでの収集改善」に利用している。
  (次号に続く)

参考文献
1,東京都清掃局 東京都清掃百年史 財団法人 東京都環境公社 2000
2,東京都清掃局 資源回収モデル事業最終のまとめ 平成9年
3,東京都清掃局平成10年度清掃事業概要
4,JICA バングラデシュ国南北ダッカ市廃棄物能力強化プロジェクト 2013 5,石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト(JICAプロジェクトヒストリイ)佐 伯印刷 2017
6,石井明男他 ダッカ市を構成する行政区単位で改善するダッカ市の廃棄物処理改善 第19回 廃棄物資源循環学会研究発表会 2008
7,石井明男他 地域住民の慣習,民間収集業者の業務と協調しながらのダッカ市の廃棄物処理改善の取り組みについて 第22回廃棄物資源循環学会研究発表会 2011
8.石井明男 スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業強化の経験 廃棄物資源循環学会学会誌 Vol.31 No.2 2020
9.石井明男 特殊な状況下での廃棄物処理〈パレスチナ〉 生活と環境 日本環境衛生センター Vol.64,NO.2 2019

*i 東京都は,平成12年(2000)に清掃事業の区移管を実施したので,この資源回収が東京都区部全体を扱う最後 の事業になった。
*ii ふれあい指導:平成10年4月に開始した。ごみの適正処理,事業系ごみの有料化の定着,分別の徹底を図るために都民,事業者との対話を中心とし,きめ細かなふれあいを大切にして指導を行った。

※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括