読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第17講:廃棄物行政の方向を決めてゆくパイロットプロジェクトの活動その1
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
廃棄物の開発調査で事業の実施可能性や,現地政府の能力を調べたり,時として現地の文化や慣習を探るときにパイロットプロジェクトを利用する。パイロットプロジェクトの実施目的を整理すると,それを通して,現地の情報を探るだけでなく
@ 廃棄物行政の方向性を決めたり,
A 清掃事業の在り方や取り組み方を職員や住民に示したりすることがある。
今回は2010年からスーダン国で実施した「ごみの収集」のパイロットプロジェクトについて,そして次回は,バングラデシュの「クリーンダッカプロジェクト」で実施したパイロットプロジェクトについて,そして最後に日本の例であるが,容器包装リサイクル法実施のために東京都清掃局で実施した「資源回収モデル事業」の事例を紹介したい。
56.ハルツーム州で実施したパイロットプロジェクト
2010年JICA専門家としてスーダン国ハルツーム州で現地の状況を探る目的で,収集のパイロットプロジェクトを実施した。収集方法は住民参加型である定時定点収集方式を予定していた。
通常パイロットプロジェクト実施には,最低3か所か,多くて5か所を実施する。今回のパイロットプロジェクトの実施の目的は
@ 定時定点収集システムがハルツーム州で導入が可能か,
それに対して
A 住民の受け入れ等の意識はどうか,
B システム導入にはどのような利害関係者が存在するか,
定時定点収集をするには
C 現地の自治体の実施組織はどのような体勢になるか
D 現地の自治体は収集車両,収集車両を稼働させる燃料の準備,収集員の準備が可能か,
E 現地慣習に合致しているか
F パイロットプロジェクトを通して,清掃員にユニフォームを貸与し,清掃のイメージを変えることができるか
G 廃棄物行政の方向性を決めることができそうかなどをパイロットプロジェクト実施を通して調査することにした。しかし,実施期間が短いので別の目的も担わせることにした。
つまり,今回は情報収集のほかに,
@ パイロットプロジェクトを通じて,定時定点収集を住民へ周知させること,
A 現地定着の下地を作ること,
B 定時定点収集を拡大させるための下地を作ることも併せもたせることにした。
州に7つある市の市長と清掃担当者に対して事業の説明会を実施した。実施に同意する条件として収集車両の準備,収集車両の稼働のための燃料の準備,清掃員の準備ができるかを検討してもらい,最終的には実施箇所は住宅地6か所,マーケット4か所となった。
パイロットプロジェクトサイトの選定時に以下のような議論がなされた。
@ 自治体には予算的に収集車両を準備する余裕はない
A 今まで実施してきた収集方法を簡単に変えることはできない
B 住宅まで集めに来るのが市役所の役割なのに,住民に収集点までごみを持ってきてもらうことはできない
C 効率がいいというが,時間通りに収集車両を配車することは難しい
D 住民が時間通りにごみを収集点まで持ってくることは不可能である
実施のため行われた活動のステップを以下表1に示す。
前述したように第1回目はマーケット4か所,住宅地6か所の合計10か所を選び,コンパクターと100リットルのプラスチック容器を使った定時定点収集を実施した。
(1)収集の試行実験
@ 第1回 2010年12月から2011年2月:10か所で実施,規模は各地域100軒から200軒とした
A 第2回 2011年9月から2011年11月:5か所に絞り各地域で実施規模を4.5倍,400軒から500軒に拡大した
B 第3回 2015年3月から現在まで継続:2か所に絞り,各地域で1,000軒に拡大した
57.パイロットプロジェクトの結果
@ 現地側から収集車,作業員,燃料代など負担があるにもかかわらず,積極的に実験に参加した
A プラスチック容器を使った定時定点収集方式は今後も行いたいという意向であった
B マーケットは組合長がリーダーとなり推進するので成功率が高かった
C 住宅地は住民集会が開きにくい文化的背景があり成功率が低かった
D 2014年以降,定時定点収集エリアを2,000軒に拡大しているが手順を踏んで,地域を選べば成功することがわかった
定時定点収集説明のリーフレット
AU事務所の中でおこなわれた住民会議
AU清掃事務所
パイロットプロジェクトでのユニフォームを着て作業する収集員
パイロットプロジェクトで実施した定時定点収集
ハルツーム州の車両を使ってのパイロットプロジェクト
収集のパイロットプロジェクトの様子1
収集のパイロットプロジェクトの様子2
収集の説明会
収集現場の中心的役割を果たしたAU事務所
日本の無償供与の車両を使ってのパイロットプロジェクト2
夜間の住民会議2
活動のまとめ
パイロットプロジェクトの実施場所には,州の要人が頻繁に訪問するようになった。やがて,
@ ハルツーム州は定時定点収集を州全体に広めていくことを閣議決定した
A ハルツーム州で21か所に定時定点収集実施の計画を策定した
また,
B 連邦環境省の決定で州のAU(最小行政単位)で収集を実施することになった
C 各AUには廃棄物収集のために清掃事務所が設置していくことになった
D ハルツーム州は清掃事業を各AU単位で進めてゆく方針にした
(次号に続く)
参考文献
1,石井明男 スーダン国ハルツームにおける廃棄物管理事業強化の経験 廃棄物資源循環学会 学会誌 Vol.31,No2,pp118-124 2020
2,石井明男 拠点事務所を活用しながら展開したスーダン国ハルツーム州廃棄物改善プロジェクト 第28回廃棄物資源循環学会研究発表会 2017
3,石井明男,眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクトJICAプロジェクトヒストリィ 佐伯印刷 2017
4,JICAスーダン共和国ハルツーム州廃棄物管理強化プロジェクト 業務完了報告書 2017
※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーダン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,現東洋大学大学院博士後期課程