読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第15講:プロジェクトの安定性と継続性をささえる法令が果たす役割
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
90の区(ワード)毎に清掃事業を分散管理するダッカ市のWBAシステムは2008年に開始された(第4講参照)。1年あまりが経過した2009年に「WBAはダッカ市の清掃事業の正式な業務である。」という通知が発出され条例化の手続きが始まった。そこで,この分散管理システムの改革を支える法整備が必要になってきた。特にワード事務所長である清掃監督員は現場の清掃(行政)サービスを進めるために,慣習的ではない法律に基づいた事業実施の必要性が求められるようになってきた。
2009年当時,清掃業務関連の条例,通知,通達,慣習法などが数多く存在した。ダッカ市で存在していた廃棄物関連法令通達,通知の内容を整理すると,@制度,組織関連,A規制と罰則関連,B職員の権利・権限関連,C業務の手続き関連,D業務の方向性を示す部分に分けることができた。一冊にまとめた清掃関係法規集(法令集)を作成し,法令の逐条解釈をした文書をワード清掃事務所に配布することも検討した。
しかし,現場の清掃監督員がWBAを支えるためには業務に身近な「職員の権利・権限・業務の手続集の作成が必要である」という大まかな方向性をダッカ市職員と決めた。
52.職員が法令等遵守を促すための新しい取り組み
WBAを実施に関係のある法令で権限,権利,手続きをどのような形で,文書化して行くか検討し以下のような方向性を決めた。文書名を,「清掃事業実施細目」とした。2010年1月のことである。
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「清掃事業実施細目」の作成の取り組みについて
@ 清掃監督員の権限,権利,実施業務の手続きについての項目を選び出す。
A 既存の法令,規則,通達,慣習法を整理する。
B WBAを遂行するためにまだ決められてない法令や規則は何か検討する。
C @−Bでまとめられた手続集を「清掃事業実施細目」としてまとめる。
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事業実施細目を作成するために法律の整理を行い2012年に2度の法律セミナーと2度のフォーカスグループ会議を実施した。
(1)法律セミナーの内容
法律セミナーの内容は
・廃棄物管理局の責務,各部署の責務についての説明
・廃棄物管理部長,清掃監督員の業務の根拠についての説明
・廃棄物管理事業の罰則について現状の法令の説明となぜ実施されないかについての説明
ダッカ市関係部署法律検討会の様子
(2)フォーカスグループ会議の内容
対象:廃棄物管理部長,清掃監督員
議論内容
・ワード清掃事務所の業務の具体的な内容
・職員の労働環境改善で実施すべきこと
・住民参加型廃棄物管理の取り組みの具体的な内容
・職員の処遇改善(昇格,昇給,各種手当等)について
法律セミナーとフォーカスグループ会議で議論されたことをまとめると,
@処遇に対しては昇進の制度が無いのではないか
A呼び出されれば休日の残業もなく出勤し休日手当も残業手当もないこと
Bワード清掃事務所の業務について
廃棄物管理局内事業実施細目検討会
法律検討会の様子
C労働環境改善について
その結果を業務実施細目として以下のようにま
とめた。
表 事業実施細目検討項目
53.清掃事業実施細目の利用について
ワード清掃事務所は住民が日常的にコンタクトするダッカ市役所の窓口である。
住民が苦情を言いに来ること,清掃監督員は清掃事業の方針を住民に説明すること,清掃事業方針について議論することなど様々なコンタクトが行われるであろう。その時に清掃監督員が誠実に住民への説明ができないと行政への信頼関係が築けなくなる。
清掃事務所が開設して間もない2009年頃,大学教授や会社経営者など有識者が多く住むダッカ市中心部,「ララマティア地区」でコミュニティミーティングが開催された。コミュニティミーティングに参加した住民は清掃事業の方針について,廃棄物に関する住民の役割,住民からの要求,要望などが議論されたものの,清掃監督員は満足した回答ができなかった。参加した住民は落胆し,主催したワード清掃事務所長(清掃監督員)は自信を失った。
問題は住民の苦情や質問や要求にワード事務所長が何もかも答えられる権限があるわけではないことである。権限についての理解が必要であり,具体的な行政的な手続きの理解が必要なのである。このような住民と清掃事務所長と意見が噛み合わないことが各地のコミュニティ会議で発生していた。原因が清掃事務所長側にあり前述した「清掃事業実施細目」の必要性が高まり,作成は一挙に進展して,2012年に完成した。
廃棄物管理局長,技監,清掃部長,清掃監督員を対象に清掃事業実施細目の講習会を実施し,内容の了承がえられた。
事業実施細目(英文名Administrative procedure book)は2012年12月に試験的の10のワード事務所で使ってみることになった。その後,ダッカ市では事業実施細目(Administrative procedure book)を公文とする手続きをすることが始まったところで技プロ(延長)は終了した。
法令浸透のため清掃監督員が業務に使うために法律等からWBA業務を支える「権限,権利,手続き」を抜き出し具体的なフローでまとめた業務実施細目の作成・実施という新しい取り組みは開始から10年を経過している。現在もダッカ市の手で,この事業実施細目は改定が続けられ,現場の事務所で勉強会を実施し法律を業務に浸透させる努力が続けられている。
(次号に続く)
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【参考文献】
1.国際協力機構 ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト(延長)完了報告書2013
2.DNCC Administrative procedure book 2012
3.JICA Project Report of law expert 2012
4.東京都清掃局 清掃事業決定実施細目 平成10年(1998年)
※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,現東洋大学大学院博士後期課程