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廃棄物分野の海外技術協力である「クリーンダッカ・プロジェクト」に携わって
第14講:プロジェクトの安定性と継続性を目指した活動

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

 ODAでのダッカ市の廃棄物処理プロジェクトに携わっていて,またかつて都に従事した体験から,公共(行政)サービスが備える要件は安定したサービスを継続的に続けてゆくことであると考えていた。行政体は安定性と継続性を保つ組織を作り,法制度を定め,構造や仕組みを備え,社会情勢や経済の変貌,住民の意識の変化に対応してきている。ODAプロジェクトも行政体への支援が多く,プロジェクト終了後も安定性や継続性の視点からの活動が問われる。クリーンダッカプロジェトも安定,継続をどのように備えてゆくか検討した。勿論WBAもその重要な活動の一つだが,これから説明する「ダッカ清掃事業指針」の策定も安定,継続を支える一つの活動である。

50. プロジェクトの安定性と継続性

 2003年当時クリーンダッカプロジェクトも安定や継続の視点からみると欠点を持っていた。その第一が廃棄物管理局長のポストは外部組織からのポスト化されたポジションだった。局長が変わるたびに廃棄物事業の方針も変わっていた。そのうえ職員の人事異動は頻繁で,しかも引継ぎという習慣がなく,事業の進め方は後任者に伝わっていなかった。「クリーンダッカマスタープラン」は2005年市が承認したにも関わらず,気が付くと,ダッカ市の廃棄物事業はマスタープランとは違った収集方式をすすめようとしていたし,せっかく始めた住民参加型廃棄物処理も否定されていた。
 マスタープランというのも一種の事業の継続性や安定性を支えるものではあるが,廃棄物管理局職員全体がマスタープランを理解して事業を進めるというわけでないので,わかりやすい事業の方向性を示す指針のようなものを媒介に職員の理解を進めることが必要であった。そこで,外部から学識経験者(民間人)を招聘し,市民参加の形で4−5年ごとに清掃事業の方向性を示す「清掃事業指針」の策定を考え,実現を図ることを考えた。
 かつて東京都清掃局では外部有識者を招き,清掃事業の将来を審議した「東京都清掃審議会」という組織があり,東京都の清掃行政の方向性を示し,清掃行政をリードしてきた制度があったことを考え,ダッカの清掃事業指針を構想するときの参考にした。
 ダッカの清掃事業指針による事業推進も既に2007年の開始から2度の改訂を経て,すでに13年を経過した。実施までの経緯とその後の効果を検討したい。

51 クリーンダッカ・プロジェクト清掃事業指針

 クリーンダッカ・プロジェクトではダッカ市清掃事業指針を実現するために以下の枠組みで策定してゆくことを決めた。
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   清掃事業指針の作り方について
@清掃事業指針はダッカ市廃棄物管理事業の政策,事業の方向性を示すことにした。
A清掃事業指針作成プロセスは,市長が清掃事業の方向性を審議会(委員会)に問い,委員会は議論を重ね,議事結果を報告書にまとめ市長に提出する。市長は報告書を承認し,市の正式な清掃事業の政策と方針とする。
B社会の変貌,経済の変容への対応するために4−5年に一度作りなおす。
C事業指針を検討する委員会のメンバーは外部の有識者5人程度と市の職員で構成する。
D清掃事業指針を通じてダッカ市職員及び住民にダッカ市の廃棄物政策と廃棄物事業の理解を促し,市民の協力得て廃棄物処理事業を推進する。
E清掃事業指針はマスコミを通じて広く公報する。

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 特徴の一つは,清掃事業指針は法律でもなく,また,マスタープランとも違う事業の方向性を指し示す役割を背負っている。また,社会変化に対応するように4−5年毎に策定してゆくことである。

プロジェクトから必要性の説明

 第1回の清掃事業指針は2007年に策定されたが,新しい試みでもあり,庁内でも理解に時間がかかった。最期まで市長の承認は得られなかった。
 そこで,内容を冊子にまとめ,新聞記事で市民への広報も試みた。第1回清掃事業指針を策定するための検討項目はプロジェクトチームで用意した。委員会はその諮問を受けて,2回の会議で答申を作成した。清掃事業指針に挙げられら項目は,廃棄物管理の全分野にわたり網羅的になっている。2010年頃には雑誌の論説に使われたり住民会議での説明に使われたりし,市民への浸透がすすんできた。

議論の様子
DCC,住民,JET,大学教授,NGOが参加
南ダッカ市理事参加
事業指針作成に市民が意見を述べる

 第2回清掃事業指針は2012年に作られた。市長が廃棄物管理局と相談して諮問の項目を決めた。審議はダッカ市が選んだ外部有識者(バングラデイシュ工科大学の教授2名,NGOの代表3名)を招いて策定し,確定後に審議会に委員が実施のモニタリングを行うことになった。2回の審議で答申がまとめられ市長に提出した。廃棄物管理局長の承認,市の助役(副市長)の承認,そして最後には市長の承認が得られた。多くの事業が実現されている。第2回の事業指針では,社会情勢の変化に対応してPPPでの事業実施,新しい廃棄物処理システムといったキーワードが盛り込まれている。承認後新聞に掲載され,市長はメディアを通じてコメントを出した。そして,この答申内容に従い,各項目の事業化予算が準備された。
 今回が3度目の事業指針の策定になる。南ダッカ市は2019年に市長に承認されている。清掃事業指針策定の議論は,南北ダッカ市職員とワード区長で構成される委員会でおこなわれた。答申の内容はマスタープランに準拠している。

廃棄物事業指針(2007年)の内容と取組結果
改訂版廃棄物事業指針(2012年)の内容

52. 東京都清掃審議会について

 参考までに,東京都清掃審議会について述べる。昭和37年(1967年)3月に「東京都清掃審議会条例を発布して,知事の付属機関として発足した。清掃審議会の設置目的は「汚物の衛生的処理及び清掃施設の整備等清掃事業の近代化を促進するため」であった。清掃審議会の審議の対象地域は23区の清掃事業,清掃審議会のメンバーは当初は学識経験者10人以内,東京都職員も参加したが次第に審議内容に応じてメンバーを増やしてきている。
 清掃審議会は都知事が清掃審議会に諮問し,答申(報告書)を知事に提出し,知事は内容を承認する。清掃局はその答申に従って事業を進めてゆく。そのシステムは昭和37年(1967年)から,清掃事業が区移管された平成12年(2000年)ませ継続された。この東京都清掃審議会は,東京都の外部の学識経験者の英知で清掃事業の将来を議諭し,答申を決めていることが大きな特徴である。
 清掃事審議会答申内容を表にまとめたのでご覧いただきたい。議論する内容は条例では「ごみ作業の合理化について,清掃施設整備について」と決められていたが,1990年を境に一転して「清掃事業の今後のあり方について」のように清掃行政や清掃事業全体に言及している。

東京都清掃審議会答申の概要





参加者の議論の様子
職員への説明会
北ダッカ市から意見を述べる

(次号に続く)
参考文献
1,JICAダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト(延長)完了報告書 2013
2,東京都清掃局 東京都清掃事業百年史 2000

※八千代エンジニヤリング