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シリーズ ヨモヤモバナシ



番外編:マンホールのヨモヤモ 子供向けの玩具とは思えませんね

講話者:石井英俊*

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 伝統産業にも通じるものがあるのですが,各地方に伝わる伝統玩具がマンホールの絵柄にも登場します。マンホールでその美しさ・面白さに接した後,土産物店で実物を見てまた気持ちを新たにすることもしばしばです。皆さんのふる里の玩具は登場するでしょうか?

2.まずは代表的な「こけし」です

 宮城県北西部の温泉の町鳴子町,鳴子温泉郷と鬼首温泉郷とがあります。マンホールにはこけしと「いでゆとこけしの里」と書かれていました(写真−1)。まずは駅前の足湯で足湯を楽しみました。かなり熱かったです。次にこけしは鳴子峡へ行く途中のこけし館で製作実演を拝見,その後に「こけしのお雛様」を見つけました。カミさんが「孫にいいかしら」なんて言ったけど,結局買えませんでした。2006.3.31古川市他と合併し大崎市になっています。

写真−1

 青森県中央部の津軽平野東部にある黒石市のマンホールにも「こけし」が登場します(写真−2)。リンゴと稲も描かれていますが,「黒石米」と津軽リンゴの産地としても知られています。自転車で黒石市に入ったとたん土砂降りの雨,雨宿りをした黒石駅の前でカラーマンホールを見つけました。黒石のこけしはマンホールの絵ではわかりませんが,裾広の胸の膨らんだ形が特徴だそうです。B級グルメで有名になった「つゆ焼そば」を食べそこないました。

写真−2

 吉岡町は群馬県中央部にある農業の町です。思わぬところで「こけし」を見つけました。町役場の玄関に展示してあったのは「吉岡こけし」とブドウの房の描かれたマンホールふたでした(写真−3)。鳴子・黒石は古くからこけしを作っていましたが,こちらは「近代こけし」を製造,絵柄にある女の子もこけしのように見えますね。ブドウやモモの生産も増えているそうです。

 写真−3

3.意外と多いのが「てまり」でした

 「御殿てまり」がマンホールの絵柄になっているのが和歌山市です(写真−4)。紀州徳川家の御膝元,童謡「てんてんてまり」にも歌われている「てまり」です。このふたは和歌山城内で見つけたカラーのマンホールですが,駅前で見つけたものは同じてまりを描いていましたが,ちょっと違った絵柄でした。お城にあった方が色もついて可愛らしく,「御殿てまり」らしかったです。

写真−4

 本荘市は秋田県南西部の子吉川河口にありました。埼玉県にも「本庄市」がありますが,字が違います。写真−5のマンホールに描かれているのも伝統工芸品の「ごてんてまり」と市の花のハナショウブです。本荘の「ごてんてまり」の特徴は三方に房が下がっていることで,ここだけだそうです。本荘市では毎年11月には「全国ごてんてまりコンクール」も開催されます。真冬の本荘駅前で撮ったこの写真は,ふたの上にあった雪を足でどかして撮ったものです。まだ残っていましたね。農業集落排水のふたにも違うデザインで「てまり」が描かれていました。2005.3.22矢島町他と合併して由利本荘市になりました。

 写真−5

 新潟県の栃尾市は「栃尾紬」で知られたところですが,その染めと織りの技術を生かして伝わるのが写真−6のマンホールに描かれている「栃尾てまり」です。こちらの房は1本です。手かがりの糸で織りだされる色とりどりの鮮やかな模様が見る人の目を楽しませてくれます。といっても私には「栃尾揚げ」と「越の景虎」のほうがなじみ深いものがありますが。

写真−6

 松本市は松本盆地の中心都市です。市内には国宝の松本城があるのでマンホールの絵柄にもなっているんじゃないかと期待しましたが,駅近くの交差点で見つけたのはきれいな手毬の描かれたカラーの蓋でした(写真−7)。再度松本を訪れた際には市内を回ってみましたが,いくつもの手毬が描かれた雨水桝や,手毬の色を変えた蓋などもあり,お城や開智学校の校舎などとともに市内の散策を楽しむことができました。

写真−7

 写真−8は松本駅で自転車を畳み,トイレを拝借したときに見つけたマンホールです。手毬で遊ぶ女の子が描かれていました。それもカラーで。街中の歩道できれいな手毬のマンホールを見つけて十分満足していたのですが,油断はできませんね。この時はこのまま帰路についたのですが,その後松本を訪れた際に市内を見て回り,この蓋を探したのですが,他には見つかりませんでした。

写真−8

 写真−9は滋賀県の愛知川町のマンホールです。小さめの蓋でしたので汚水桝かもしれません。描かれているのは「ぴんてまり」です。丸いぴんいっぱいに作られたてまり,どうやって作るんでしょうか。「ボトルシップ」とも違った難しさがありそうです。「ぴんてまりの館」には多くの作品が展示されていますが,私は愛知川駅前の大きな「ぴんてまり」を見てきました。愛知川は愛知川東岸にある中山道の66番目の旧宿場町,愛知川(古くは恵智川)には当時としては珍しく通行料を取らない橋が架かり,「むちん橋」と呼ばれていたそうです。近江商人の発祥地だけありますね。

写責−9

4.「凧」,これは芸術品かも

 写真−10の湯沢市の制水弁にはギョロツとした目の「まなぐ凧」が描かれています。元禄時代から伝わる「湯沢凧」には,極彩色の「武者絵凧」と黒一色の「まなぐ凧」があります。今でも飾りとしても愛好されているとか。湯沢で見つけたお酒にも「まなぐ凧」がありました。もちろん私はいただいてきました。湯沢は「東北の灘」とよばれて酒造業が盛んで,350年余の伝統があります。明治7年創業の両関酒蔵には当時の建物がそのまま残り,国の文化財にもなっています。

写真−10

 長南町は千葉県東部の上松台地にある農業の町です。マンホールに描かれているのは町の花にもなっているベニバナと凧に描かれた稲穂です(写真−11)。「長南トンビ」と呼ばれる「長南袖凧」は他では見られない形をしています。江戸時代に作られたそうですが,まるで半纏(はんてん)のような形ですね。ベニバナといえば山形県が有名で山形市のマンホールにも登場します。また埼玉県の桶川市のマンホールにも描かれていました。関東でも栽培されていたんですね。

写真−11

 滋賀県の八日市市では下水道のデザインふたは見つかりませんでした。水道の仕切弁に凧の絵が描かれているのを見つけました(写真−12)。「八日市の大凧」です。国の無形文化財にも指定される大凧まつりは,毎年5月の最終日曜日に行われます。百人がかりで揚げられる「百畳敷の大凧」をはじめ,各地の郷土凧や一般参加の凧も揚げられます。

写真−12

 壱岐市の消火栓に描かれているのは,この地方に古くから伝わる「バラモン凧」です(写真−13)。「バラモン」とは「活発な,元気の良い」という意味で,絵柄には羅生門の鬼退治を表す武士の姿が描かれています。悪魔を払うという言い伝えから,男の子(長男)の初節句におじいさんがバラモン凧を贈る習わしがあるそうです。民芸品としてお土産にも喜ばれているそうです。

写真一13

5.そのほかにもいろいろと

 写真−14は八戸市の水道仕切弁です。描かれているのは郷土玩具の「八幡馬(やわたうま)」です。南部地方に古くから伝わるもので,華やかな模様は嫁入りの際の乗馬の盛装を表現したものだそうです。八戸駅には花嫁さんが乗れそうな大きな「八幡馬」が飾られていました。仕切弁の蓋にはこのほかに「カモメ」や「七夕飾り」の描かれたものもあります。

写真−14

 巻町は新潟平野の穀倉地帯の中で,商業の中心となっている町です。巻町のマンホールに描かれているのは郷土玩具の「鯛草」です(写真−15)。これを引っ張って商店の前の道を歩くことができたのは裕福な商家の子供だったんでしょうね。眺めているうちに,お祭りの山車にして大勢の大人が引き回している様子を思い浮かべました。“だんじり”のようにぶつけ合うのも面自そうです。2005.10.10新潟市に合併しました。

写真−15

 池田町は長野県中部,犀川の支流高瀬川下流東岸にある町です。川を挟んで北アルプスの眺望のよい所です。池田町のマンホールには「テルテル坊主」とツツジの花(町の花)が描かれていました(写真−16)。下の方にある木の枝は町の木のシラカバでしょうか。童謡「てるてるぼうず」の作詞者の浅原六朗氏がこの池田町の出身だそうで,町役場のそばには「てるてるぼうずの館」があります。大きなてるてる坊主も飾ってありました。

写真−16

 野沢温泉村は長野県下高井郡北部の千曲川下流東岸にある農村です。1953(昭28).8.18豊郷村を野沢温泉村と改称しました。写真−17のマンホールには郷土玩具の「鳩車」が描かれていました。周りに描いてあるのは野沢菜の花でしょうね。「鳩車」はアケビのつるで作られています。白く滑らかでつやのある「あけびづる」は手で編むことができ,寵などの民芸品も作られています。江戸未期にはじまり一時衰退しましたが,明治後半に復活,全国郷土玩具番付の「東の横綱」と評価されているそうです。

写真−17

 「松坂牛」で知られる三重県の松阪(まつさか)市,マンホールにも牛が描かれているのではと期待しましたが,描かれていたのは「鈴」でした(写真−18)。松阪は江戸時代の国学者として知られる本居宣長の出身地,その宣長が鈴の音をこよなく愛し,宣長の住んだ「鈴屋」には36個の鈴を赤いひもで結んだ柱掛鈴があり,その音色を楽しんでいたそうです。駅前には大きな鈴の像があり,市内の循環バスは「鈴の音バス」が走っています。

写真−18

 柳井市の四角い消火栓の蓋には柳井市の郷土民芸品の「金魚ちょうちん」が描かれたものもありました(写真−19)。青森市の「金魚ねぶた」をヒントにして作られたそうです。柳井といえば「白壁の街並み」が知られていますが,その軒先にもずらりと吊るされていました。毎年8月には「金魚ちょうちん祭り」があり,柳井駅前の商店街には数千個の提灯に明かりがともります。柳井駅にも大きな金魚ちょうちんがぶら下がっていました。

写真−19

 写真−20は福岡県の朝倉市(旧甘木市内)で見つけた消火栓です。何だかわからなかったんですが,あとでよく見ると顔に2本の紐,先っぽに何かついています。思い浮かべたのは「デンデン太鼓」,この地方では「豆太鼓」というそうです。天然痘除けのおまじないとして,パタパタ市でこれが売られていたそうです。棒を持ってくるくる回すと,紐の先の豆が「パタパタ」と音が出るようになっています。これを消防車が鐘の代わりに鳴らしていたら面白いなあ,なんて考えちゃいました。

写真−20

 芦屋町は福岡県北部響灘に面し,遠賀川河口にある港町です。響灘に面して隣の岡垣町まで続く「三里松原」があり,風光明媚なところです。芦屋町のマンホールには馬に乗った人が描かれていました(写真−21)。カラーのふたを見て分かったのですが,袴をつけた武士が乗っているようです。芦屋町には300年前から伝わる「八朔の節句」というのがあるそうです。長男・長女が初めて迎える八月一日(朔日)に,男の子は「わら馬」,女の子は「団子雛」で健やかな成長を願うのだそうです。マンホールの絵がその「わら馬」ですが,「団子雛」の方も見てみたいですね。

写真−21

 延岡市は宮崎県北東部にある工業都市で,旭化成があることからマラソンをはじめとするスポーツの盛んなところです。延岡市のマンホールにはサルが2匹描かれていました(写真−22)。これは「のぼり猿」と呼ばれる延岡の郷土玩具です。菖蒲を描いた幟(のぼり)に張子のサルをぶら下げ,5月の節句に鯉のぼりとともにあげるそうです。幟が風をはらんで膨らむと張子のサルがスルスルと竹竿を登る仕掛けになっています。市のキャラクターの「のぼる君」にもなっています。

写真−22

6.おわりに

 延岡の「のぼり猿」は駅の売店のお姉さんに教えてもらいました。「マンホールに描かれているサルは何ですか?」と尋ねると,「これですよ」と売り場のお土産を見せて説明してくれました。マンホールの絵柄をきっかけにして,あちこちでお話しを開かせてもらっています。こんな発見があるから「マンホール探し」が面白いんですね。

※日本のマンホール文化研究会