読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
世界の列車トイレ −フィンランド−
講話者:清水 洽*
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
今回はイタリア在住の娘からのレポートです。2016年3月29日からヘルシンキで開催されたフィギュアスケート世界選手権を見に行く際に,列車トイレの写真を撮るよう強引に依頼しました。
フィンランドはスカンジナビア半島の付け根にある共和国で緯度が高く,北部地帯は白夜で日が沈まない日が年に10日あり,冬季のボスニア湾は凍ってしまいます。19世紀までスウェーデンに支配され,その後ロシアに併合されましたが,第1次世界大戦後に独立しました。
豊富な森林資源を基に紙,パルプ等の工業が盛んな国で,鉄道が建設される前は湖沼と運河による交通網が盛んでしたが,凍結の問題があり1850年代から鉄道建設が計画されました。当初はロシア帝国の支配下にあったため,軌道はロシアと同じ5フィート(1,524mm)で建設されたためEU諸国への乗り入れはできませんが.ロシアへは直通運行が可能で,貨物や旅客列車を乗り換えずに行き来することが出来ますので,ロシアとヨーロッパを結ぶ中継輸送を果たしています。1990年にフィンランド国鉄となり,EUの鉄道政策に従い,1994年には鉄道ネットワーク法により鉄道インフラを管理するフィンランド鉄道庁(RHK)と鉄道輸送事業などを行うVRグループに上下分離されました。このVRグループの傘下には,旅客と貨物輸送を行うVR株式会社だけでなく,鉄道建設と路線保守を行うVR−Track株式会社も入っています。
人口密度の低いフィンランドで旅客輸送は政府との契約で事業を運営しています。またヘルシンキ地域圏ではヘルシンキ地域交通局(HSL)とVRグループが締結して通勤輸送を運行しています。
国内都市間輸送では,高速振子列車(ペンドリーノS220)を始めとする最高速度220km/hの高速列車が各都市を繋いでいます。またロシアとの国際輸送にはロシア鉄道による50%の出資によりカレリアン・トレインズが設立され,2010年12月よりヘルシンキ 〜サンクトペテルブルク間には220km/hの高速車両が運行しています。またヘルシンキ〜モスクワ間には1日1往復の寝台列車も運行されています。鉄道ではロシアとの繋がりが強いようです。
写真1フィギュアスケート世界選手権2017フィンランド大会の会場と,会場のスーパービジョンに映し出された優勝の羽生結弦と2位の宇野昌麿両選手(2017.4.1)
写真2 フィンランドの入り口ヘルシンキ中央駅。エルエル・サーリネンの設計により1914年に完成した(2017.3.29)
写真3 フィンランド駅のホーム。左右のVRの提唱タイプのDMU,中央がVRの高速列車ベンドリーノS220(2017.3.29)
一方,貨物輸送は,道路輸送の重量べースで6倍以上が鉄道に担っており,貨物輸送はヨーロッパとロシア/アジアを結ぶきわめて重要な役割を担っています。特にフィンランドは冬も凍ることのないハミナやハンコなどの大型港をバルト海に持っており,シベリア鉄道(SLB)と,ヨーロッパ側のゲートウェイであるバルト海の港湾と直結した重要な鉄道です。
2015年7月1日にはヘルシンキ・ヴァンター国際空港を結ぶアクセス線がEUの資金協力で開設されました。将来的にはセイナヨキ〜オウル間(延長335km)の160〜200km/hへの高速化や軸重25との貨物輸送のための軌道改良工事が進められています。また新規事業としてタリン(エストニア)と結ぶ全長50km以上の海底トンネルが計画されています。
氷点下50℃以下となる酷寒冷地のフィンランドでは日本のように降雪は少なく,除雪専用車はなく,安定した運行が可能な鉄道輸送が重要視されています。
写真4 高速列車ベンドリーノS220とトイレ(2017.3.29)
写真5 ベンドリーノS220の真空式トイレと洗面所
写真6 ヘルシンキとヘルシンキ・ヴァンタ一空港を結ぶリングレールラインを走る専用列車
引用文献
1)一般社団法人海外鉄道技術協会「世界の鉄道」 2015.10.2
※NPO21世紀水倶楽部