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シリーズ ヨモヤモバナシ



番外編:マンホールのヨモヤモ 路上で泳ぐ魚たち 2.川のお魚たち

講話曹:石井 英俊※

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 前回は海のお魚に登場してもらいましたが,今回は淡水魚をご紹介しましょう。下水道の普及により水環境,特に河川の水質の向上が期待されるのですが,その象徴として取り上げられるのが水生昆虫のホタルと魚ではアユ・メダカです。写真−1の尼崎市のマンホールにはホタルやトンボ,メダカとドジョウが取り上げられていますが,彼らも良好な水環境があってこそ生息が可能な生き物たちです。また水質の悪化で絶滅が懸念される魚たちや,その土地の名産である魚もいたりして,その多彩さは海の魚たちに負けていません。

写真−1

2.アユとメダカ

 アユはサケよりも多く32市町村の蓋に登場しました。北海道・九州では見かけませんでしたが,北は秋田県から南は愛媛県まで,広く分布しています。
 まずは一番北で登場するのが秋田県の田代町です(写真−2)。県北部に位置する町の南側には米代川が流れており,8月14日に全国アユ釣り大会が開催され,支流の早口川,岩瀬川で大鮎が釣りあげられるそうです。

写真−2

 マンホールにはアユのほかにグライダーと竹の子が描かれています。町の北側にある十ノ瀬山にはハンググライダーのリリースエリアが設定されており,毎年9月に「かもしかカップ」が開催されます。描かれているタケノコは「根曲がり竹」,採れたてを素焼きにするのがおいしい食べ方です。隣の大館市と合併しました。
 舟形町は山形県北東部,新庄市と尾花沢市の間にある林業の町です。マンホールに書いてあるのは「清流小国川と若鮎の里」,絵柄にはその通りの元気の良い飛び跳ねる若アユが描かれていました(写真−3)。小国川のアユは「松原アユ」と呼ばれ,町の魚にもなっています。

写真−3

 富山県の黒部市は,黒部川下流の扇状地上に位置する街で,立山からの伏流水が湧き出る名水でも知られているところです。マンホールには黒部川の豊かな水の中を踊るように泳ぐアユの姿が描かれています(写真−4)。富山湾の豊かな漁場を生む立山連峰からの水は,川の魚にも恵みを与えてくれます。

写真−4


写真−5


写真−6

 大淀町は奈良県中部,吉野川中流北岸にある町です。下市口の駅のそばで見つけたマンホールには,町章の「大」の字の上に吉野川のアユが跳ねています(写真−5)。下の方には梨の実が描かれていますが,大淀町を流れる吉野川沿いに河岸段丘が発達していて,その段丘面でナシ・ブドウ・カキ・茶を栽培しているそうです。町の花も梨の花になっているそうです。ちなみに上流の吉野町の蓋にも「吉野の桜とアユ」が描かれていました。
 鵜飼で有名な岐阜市と愛媛県のマンホールには,鵜とともに鮎が描かれていますが,これは別の機会に紹介しましょう。
 メダカもあちこちのマンホールに登場しますが,ここでは東京都の千川上水の暗渠部分に設置された蓋を取り上げます(写真−6)。絵柄に描かれているのは「イチョウとサクラ,メダカ」です。東京都の木と花に大きな目をしたメダカ,中央に「千川上水」と書いてあるのがわかるでしょうか?玉川上水から分岐された千川上水は,かつて武蔵野の大地と江戸の街を潤していました。下水高度処理水を流して復活した現在では,上流部が遊歩道として整備されていますが,この蓋のあった板橋区辺りでは地下を流れています。

3.イワナ・ヤマメなど

 清流に棲む魚の代表格として挙げられるのがイワナ・ヤマメでしょう。絵柄に登場するのは川の源流に近い所が多いようです。楢川村は長野県南西部,奈良井川上流部にある山村です。奈良井駅前ですぐに見つけたマンホールには,村の木のナラとともにイワナが描かれていました(写真−7)。イワナは村の魚に指定されています。中心集落の奈良井は旧中山道の宿駅で,1978年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。私が訪れたのは秋の連休最終日, 多くの人が列車から降りて街並みの散策を楽しんでいました。私も自転車をゆっくり走らせ,宿場町の街並みを楽しんできました。2005.4.1塩尻市に合併しています。
 山梨県の小菅村は山梨県北東部にある山村ですが,下水道は県内でもいち早く普及したところです。大菩薩峠に発して奥多摩湖に注ぐ小菅川の流域ということで,北側の丹波山村とともに東京都の水源にあたることから下水道の普及が早かったのです。小菅村のマンホールには,村の花ミツバツツジとともに小菅川とそこに棲むヤマメが描かれていました(写真−8)。清流で育ったヤマメはお刺身でも頂くことができるそうです。
 明科町は長野県中部,松本盆地北東端の町です。2005.10.1豊科町などと合併,安曇野市になりました。明科町のマンホールにはアヤメの花とニジマスが描かれています(写真−9)。駅前で鮮やかに着色された蓋を見つけました。なんでニジマスが描かれているんでしょう? 明科町は扇状地末端の豊かな湧水を利用したニジマス養殖の発洋地です。ニジマスのお刺身もいただけるそうです。そして町の花のアヤメ,犀川沿いのあやめ公園では毎年「あやめ祭り」が開かれます。
 宮城県の津山町は北上川の東岸にある町です。気仙沼線に乗車していくとログハウス風の駅舎がやさしく迎えてくれます。町の木のスギやアカマツなど,素材を生かした木工品が特産の町です。駅を降りて街中で見つけたマンホールに描かれていたのは魚ですが,よく見るアユとは違っていました(写真−10)。ウグイだそうです。「横山のウグイの生息地」が天然記念物に指定されているそうです。地模様は木工芸品に使われている「矢羽模様」です。2005.4.1登米町他と合併し,登米市になりました。

写真−7


写真−8


写真−9


写真−10

4.コイ・フナ・キンギョ

 養父(やぶ)町は兵庫県の円山川流域と支流の大屋川・建屋川流域にある町です。2004.4.1八鹿町他と合併して養父市になりました。「但馬牛」の産地でもありますが錦鯉の養殖も盛んです。「養父市場」はその錦鯉の市場ですが,駅から市場へ続く道路端の水路には色鮮やかな錦鯉が間近に見られるそうです。「鯉の溝飼い」と呼ばれ,街の散策案内にも鑑賞池と紹介されています。その案内に鯉の描かれたこのマンホールも載っていました(写真−11)。
 古利根川流域下水道は,埼玉県北東部の久喜市を中心とした17万人の下水を処理する処理区です。古利根川は埼玉県東部を流れ,中川となります。現在の利根川は東京湾に流れていたものを流路を変えたもので,旧流路が古利根川となりました。写真−12のマンホールに描かれている水鳥はカモでしょうか? 元気に飛び跳ねているのはハクレンです。ハクレンはコイ科の魚で,大きいものでは1mを超えるものもいるそうです。絵柄にあるように水面を勢いよく飛び跳ねる習性があり,大型のハクレンがあちこちで飛び跳ねる姿は壮観です。
 長野県の豊田(とよた)村は千曲川沿いの農村で,リンゴの生産がさかんなところです。飯山線の替佐(かえさ)駅前で見つけたマンホールには,かわいい男の子とともにリンゴと村の風景が描かれていました(写真−13)。そしてウサギと川には小魚が。そうです,これが唱歌「ふるさと」の風景なんですね。『うさぎ追いしかの山 小鮒釣りしかの川〜』の歌詞そのままの風景です。歌われている「かの山」は熊坂山・太平山,「かの川」は班川(はんがわ)だそうです。豊田村はこの詩を作った高野辰之氏が生まれたところ,村には記念館もあります。現在は合併して中野市になっています。
 奈良県の大和郡山市は戦国時代には筒井順慶,その後に豊臣秀長が治めて繁栄したところです。現代は「郡山キンギョ」の養殖で有名です。全国一の生産量で,その数は年間7千万匹だそうです。だからでしょうね,マンホールの絵柄には“金魚鉢の中のキンギョ”が描かれていました(写真−14)。江戸時代から武士の内職として始まり,近鉄郡山駅の南側には養殖池が広がっています。1995年から全国金魚すくい選手権を開催,子供から大人まで日本各地から参加があるそうです。「たかが金魚すくい」ではないんでしょうね。

5.他にも面白いお魚が

 埼玉県南東部の千葉県境の江戸川に面したところにある吉川市です。江戸時代から早場米の産地として有名だそうです。吉川市では下水道のデザイン蓋は見つかりませんでしたが,水道の仕切弁に「ナマズ」が描かれていました(写真−15)。愛嬌のある顔です。市のシンボルはナマズ,「ナマズの里」として売り出し中で,市内のナマズを食べられる食事処を紹介していました。めったに機会がないので私も昼食に頂きましたが,淡白な味でいろんな料理ができそうです。駅前には大きな「金のナマズ」が飾られています。

写真−11


写真−12


写真−13


写真−14


写真−15


写真−16

 板倉町は群馬県南東部の利根川と渡良瀬川にはさまれた低地の水田地帯にある町です。板倉町のマンホールにはナマズが描かれていました(写真−16)。町はたびたび水害を受けてきましたが,排水改良工事により河跡湖の板倉沼は一部を残して水田化,さらに板倉工業団地・住宅団地に変貌しました。そんな現在からは想像できませんが,元は沼や小河川の多かったところ,ナマズ料理が名物なんだそうです。たくさん獲れたんでしょうね。
 海部町は,徳島県南部海部川の南岸にある町で,2006.3.31海南町,宍喰町と合併し海陽町になりました。下水のマンホールは見つかりませんでしたが,水道の止水弁の蓋を見つけました(写真一17)。ここに描かれているのはウナギかお化けか? 海部川支流の母川はホタルの名所ですが,オオウナギのいることでも知られているそうです。別名「カニクイ」とも呼ばれ,昆虫やカニなどをよく食べるそうです。大きなロですもんね。
 梓川村は長野県中部にあり梓川下流の扇状地に広がる農村です。このマンホールは梓川を渡り村役場そばの県道で,梓川流域下水道の蓋と一緒に見つけました。マンホールには北アルプスとサクラのような花,梓川の流れと愛嬌のある魚が描かれていました(写真−18)。村の花はコマチソウだそうですので,この花は桜ではなかったようです。魚はカジカでしょうか。きれいな流れにぴったりの魚です。村は2005.4.1松本市に合併しました。
 北海道の北部にある美深町のマンホールには,世界三大珍味のひとつ「キャビア」で知られるチョウザメが描かれていました(写真−19)。美深町を流れる天塩川には昭和初期までチョウザメが棲息していたそうです。美深町では地場特産品の開発として人工交雑種のベステルの養殖に取り組んでいます。びふかアイランドにある「チョウザメ館」では採卵から飼育までを行っており,天塩川の河川改修で残存した三日月湖に放流しています。中央の町章「び」の字の中に描かれている鐘は「美幸の鐘」,美深駅の搭に設置されていました。

6.絶滅危惧種

 環境の悪化などからその数を減らし絶滅寸前の魚たちもマンホールに登場します。町のシンボルとして生き残ってほしいという気持ちが伝わってきます。その一番目に紹介するのは埼玉県北部の本庄市です。マンホールに描かれている2匹の魚はムサシトミヨのカップルです(写真−20)。左にあるのが卵を産み付けた「巣」で,夫婦でその成長を見守ります。
 同じ埼玉県の中央部にある滑川(なめがわ)町,同じ漢字ですがホタルイカで有名な、富山県の滑川(なめりかわ)市とは読み方が違います。滑川町の農業集落排水のマンホールにはミヤコタナゴが描かれていました(写真−21)。二匹のミヤコタナゴの下にあるのは卵を産み付けるカラスガイでしょうか。カラスガイはあまり多くの卵を産み付けられると弱って死んでしまうそうですから,ミヤコタナゴを保存するためにも多くのカラスガイが生息できる環境が必要です。そういった環境が守られていくといいですね。ムサシトミヨとミヤコタナゴの生態も含めて描かれたマンホールでした。

写真−17


写真−18


写真−19


写真−20


写真−21


写真−22


写真−23

 福井県の大野市は九頭竜川西岸にある「名水の街」です。その名水で育つ“イトヨ”がマンホールの主役でした(写真−22)。その名水を各所で味わいながら,碁盤目状の街並みを巡りました。名物の朝市は“お片付け”の時間でしたが,4軒ある造り酒屋の一つで地酒も味わってきました。最後に訪れた名水百選にも選ばれている“御清水(おしょうず)”を頂こうとかがんだら,ポケットからデジカメが泉の中にポトン,ゆらゆら沈んでいくのをあわてて柄杓ですくい上げました。カメラはボツになりましたが,幸いそれまでのデータは復活したのでこのマンホールを紹介できます。
 巣南町は岐阜県南西部,揖斐川中流の東岸にある町です。町内の美江寺は中山道の宿場町だったところです。マンホールの蓋に描かれていたのは,山と川,モミジと特徴ある魚はハリヨです(写真−23)。川は揖斐川,山は町の西に見える伊吹山でしょうか。町の木がモミジ,町の魚はハリヨだそうです。ハリヨは背中に6本のトゲのある5cmほどの小さな魚ですが,西美濃から滋賀東部にしか生息しない珍しい魚で,絶滅が心配されています。ハリヨは同じ岐阜県の神戸(ごうど)町の蓋にも登場しています。巣南町は2003.5.1穂積町と合併,瑞穂市になりました。

7.おわりに

 この原稿を書いている途中に北海道に取材に行きました。北海道には珍しく台風が3つも襲来した8月下旬,もう大丈夫かと思い出かけたのですが,4つ日の台風10号で函館本線が運転見合わせになり閉じ込められました。仕方なく旭川周辺で取材を続け,たまたま行った美深町でチョウザメの蓋を発見,今回の原稿に載せることができました。何が幸いするかわかりませんね。旭川には都合6泊もしたので飲み屋さんにも詳しくなりました。


※日本のマンホール文化研究会