屎尿・下水研究会

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シリーズ ヨモヤモバナシ



番外編:マンホールのヨモヤモ 路上で泳ぐ魚たち 1.海のお魚たち

講話曹:石井 英俊※

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 マンホールの蓋にいろいろなデザインが施されるようになったのは昭和50年代前半のこと,沖縄県の那覇市が最初だったといわれています。写真−1がそのマンホールで,大きな口を開けた魚たちがたくさん泳いでいます。ガーラ(シマアジ)がきれいな海の中で群れています。今回は各地の路上で泳ぎまわる魚たちを紹介することにしましょう。まずは海のお魚たちです。

 写真−1

2.サケ

 サケを海の魚にするか川の魚にするか迷ったのですが,生活の大半は海で過ごしますから海の魚ということにしましょう。実は川の魚の方が多いので,サケには海の魚に入ってもらった方が書きやすかったのですが。
 サケは19市町村の蓋に登場しますが,やはり北の方,太平洋側では宮城県,日本海側では富山県あたりまでです。ここまでがサケが遡上する地域ということなのでしょう。例外としては東京都多摩市(2014年10月号掲載)などがありますが。北海道は札幌市(2014年12月号掲載)など多くの市町村に登場します。他に「サケ」が大きく取り上げられているところを3か所ご紹介しましょう。

写真−2

 まず写真−2は宮古市です。同宿だったオーストラリアからの旅行者の方がこのマンホールを見つけ,何枚も写真を撮っていました。海外の方には珍しいものなのでしょう。12月に訪れた際には,多くの家の軒先に10本以上の塩引きサケが吊るされていました。スーパーでもオスのサケは1本千円以下で売っているのです。さすがですね。震災後に市役所前で見たカラーのマンホールは,津波のためにボロボロになっていました。
 写真−3は青森県の下田町のマンホールです。こちらも2匹のサケが寄り添うように泳いでいます。奥入瀬川を産卵のために遡上するサケですね。奥入瀬川に沿って自転車で下ったのですが,下田町ではマンホールが見つからず百石町に入りました。イチョウが描かれたマンホールを撮っていると,一緒に走っていたカミさんが「あそこに違う絵の蓋があるよ」。カミさん,“グッ・ジョブ”。ちょうど町境だったんですね。両町は合併しておいらせ町になっています。
 新潟県の村上市は江戸時代村上藩の城下町,サケは藩の重要な財源でした。これを盛んにしたのが下級武士だった青砥武平治です。サケの「回帰性」に着目し三面川での産卵を助ける「種川の制」を考案,世界初のサケの自然ふ化増殖に成功しました。明治11年には人工ふ化増殖にも成功,「サケの街,村上」の文化が築かれました。写真−4の飛び跳ねるサケも誇らしげに見えます。

写真−3


写真−4

3.タイとヒラメ・カレイ

 浦島太郎が竜宮城でもてなされたときに見たのは「タイやヒラメの舞踊り」,鳴門市のマンホール(写真−5)でも渦潮の上にタイが飛び跳ねています。奥には鳴門海峡大橋,真ん中に徳島名産のスダチも描かれていますね。海峡の早い潮の流れに鍛えられた身の引き締まったタイをスダチで美味しくいただきたいものです。同じ瀬戸内海の西側,上関町の消火栓にも2匹の鯛が登場していました(写真−6)。室津との間にかかる上関大橋の下で赤とピンクのタイがお話ししているようです。

写真−5


写真−6


写真−7


写真−8


写真−9

 もう少し西に行ったところにある下松市,こちらの蓋にはヒラメが登場します(写真−7)。上にかかる橋は笠戸大橋,真っ赤な橋で市街と笠戸島をつないでいます。1年を通して美味しくいただける「笠戸ヒラメ」ですが,瀬戸内海の夕日を見ながらいただくのが最高なんだそうです。浜松市でもヒラメの描かれたマンホールがありました(写真−8)。浜松の名産にヒラメ?ウナギは知ってたけど。この蓋が設置されていたのは市内の「肴町」,このヒラメは海の中ではなくお皿の上にいるんですね。他にもサケの描かれた蓋や,雨水桝にはカツオも登場していました。
 福島県浜通りの北部,宮城県に近い新地町のマンホールに描かれているのもヒラメ?(写真−9)新地町の魚はカレイでした。ここで獲れる「釣師カレイ」は伊達藩の頃からの名物だったそうで,子持ちの時期の冬場が特におススメだそうです。

4.カツオ・マグロ・ブリ

 カツオは女川町(第75回掲載 写真−19),焼津市(第77回掲載 写真−5)のマンホールにも登場しましたが,他にも紹介したい絵柄の蓋があります。まずは中土佐町の消火栓です。中土佐町では下水道のデザイン蓋は見つかりませんでしたが,水道関係の蓋には誇らしげに「鰹乃国 中土佐町」と書かれていました(写真−10)。町の中心の久礼(くれ)は土佐湾の代表的なカツオ漁港です。わたしと同年代の方は青柳祐介氏の『土佐の一本釣り』の舞台になった地として覚えていらっしゃるかもしれません。私が大正魚市場でおいしくいただいてきたのは「ウツボのタタキ」でしたが。
 沖縄県の本部町のマンホールではカツオが空を飛んでいます(写真−11)。ちょっと見にくいですが絵柄中央に本部大橋が描かれていて,その上を町の魚であるカツオが悠々と泳いでいます。私には雲の間を飛んでいるように見えたのです。橋の下(手前側)にはサクラとチョウ・小鳥が描かれていました。
 焼津市の別のマンホールには,中央にマツとユリカモメ,その周りにカツオとマグロが泳いでいます(写真−12)。お腹の部分に縞が入っているのがカツオ,白いのがマグロです。カツオに比べてマグロのマンホールが少ないのが残念です。刺身になったマグロしか印象に残っていないからですかね。

写真−10


写真−11


写真−12


写真−13

 氷見市といえば「氷見寒ブリ」です。富山湾の定置網で獲れ,氷見魚市場で競られた一定水準以上のブリにのみ与えられるブランドです。マンホールにも3本のブリが描かれていました(写真−13)。また氷見市は石巻市,境港市などと同じく「漫画の街」でもあります。「ハットリくん列車」に乗り氷見の街中に行くと,藤子不二雄○A氏による富山湾の魚たちの『サカナ紳士録』の一団が迎えてくれます。主役はブリの「ブリンス君」です。

5.イカやタコ

 市の魚にもなっているイカが登場するのは函館市です(写真−14)。目のぱっちりとした可愛らしいイカさんがダンスをしています。市場ではイカ釣りをやっていて,釣ったイカはその場で活き造りを頂くことができます。私には市場横の路地で撮ったカラーのマンホールの方が“美味しかった”んですが。イカをもう一つ,今は合併して島全体で佐渡市になりましたが,その中心の旧両津市は「佐渡の表玄関」に当たります。加茂湖北東岸に夷・湊の2港があぅたことから「両津」の名前になりました。両津市のマンホールにも3杯のイカが描かれています(写真−15)。佐渡では1年を通していろんなイカが獲れますが,6月頃からの真イカが一番おいしいとされています。

写真−14


写真−15

 同じイカでも富山県の滑川市は「ホタルイカ」です(写真−16)。まだ雪を頂く立山連峰を望む富山湾ではホタルイカ漁が始まります。暗闇の中で行われるこの漁は,網の中で青白い光を放つホタルイカが幻想的な光景を現出してくれます。実際の漁を見られなくても「ホタルイカミュージアム」でそれを体験することができます。

写真−16


写真−17

 新潟県の寺泊町は「魚のアメ横」とも呼ばれる鮮魚店が立ち並び,「買い出しツアー」も人気があります。その駐車場近くで見つけたのが写真−17のカラーマンホールです。昆布のたなびく海の中に,これまでに紹介した魚のほかにタコ・カニも描かれています。今のところタコの登場する蓋は寺泊町のものだけです。

6.こんな魚も

 まだまだいろいろなお魚さんたちが登場してくれています。まず宮城県の気仙沼市です。市の魚はカツオですが,写真−18に描かれている細身の魚はサンマですね。毎年東京・目黒で行われる「さんま祭」では気仙沼から直送のサンマを焼いて皆さんに提供しています。落語で有名な「目黒のさんま」は気仙沼産なんですね。

写真−18


写真−19

 三重県の伊勢湾に面した河芸(かわげ)町,マンホールに描かれている魚を見て「メダカだな」と思ったら大間違い,イワシでした(写真−19)。河芸町は沿岸漁業と煮干し加工が盛んで,「伊勢煮干し」として有名だそうです。観光案内にも堂々と「カタクチイワシ」が載っていました。海辺の町にメダカは似合いませんでした。  下関市といえば「フク」,普通は「フグ」ですが,福を招くようにと下関ではにごりません。マンホールにも期待どおりフクが描かれていました(写真−20)。市のシンボルマークの「フクフクマーク」です。フクを囲んでいるのは下関市の頭文字の「し」と海の波を表しています。
 秋田県北部にある八森町,マンホールに登場するのはハタハタです(写真−21)。冬の荒れる日本海で獲れるのがハタハタ,うろこのない20cmほどの白身の淡白な味わいの魚です。一般には干物で出回っていますが,これを飯鮨にした「鮨鰰(すしはたはた)」は私の大好物です。「ブリコ」と呼ぶ卵のプチプチした食感も何とも言えません。最近は高級品になりなかなか口にできなくなりました。
 宮城県北東部,気仙沼市の南にある本書町のマンホールにはマンボウが描かれていました(写真−22)。町の魚がマンボウだそうです。三陸では時折網にかかるマンボウはごちそうだとか,地元ならではの味わいです。私もお刺身で頂いたことがありますが,独特の歯ごたえとにじみ出てくる甘味に驚かされました。

写真−20


写真−21


写真−22


写真−23

 愛嬌のある魚といえば有明海のムツゴロウが筆頭でしょうか。写真−23の佐賀市のマンホールに描かれているムツゴロウもかわいい顔をしています。平成の大合併で佐賀市に合併した諸富町など4町のマンホールにもムツゴロウが登場しています。こちらのムツゴロウはみんな王冠をかぶっています。「ドロンパ王国」の王様なんですね。佐賀空港がある川副町では飛行機に乗ったムツゴロウも描かれていました。

7.おわりに

 周りを海に囲まれた日本ならではでしょう。多くのお魚たちが登場してくれました。私にとっては「お酒の肴」としてもなじみ深い魚たちです。イカ・タコまでは載せましたが,他にも貝やカニ・エビなどまだまだおいしそうな海の産物を描いた蓋があります。今回は海のお魚たちでしたので,次回は当然川のお魚たちを紹介しなくてはなりません。お楽しみに。

 ※日本のマンホール文化研究会