読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
世界の列車トイレ ードイツー
講話者:清水 洽*
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
はじめに
ドイツには2回訪問しています。初めて出かけたのが1976.6.18で,フランクフルトで開催された機械・プラントの展示会アヘマへの視察団としての参加です。講演会を抜け出してライン下りに出かけ,使節団 副団長の京都大学平岡正勝教授に叱られた記憶があります。2回目は2003.5.15のミュンヘンでのアヘマ視察です。この時は列車トイレを見る時間はなかったけれど,鉄道写真の撮影には出かけました。
ドイツの鉄道はイギリス,フランスについで1835年にニュルンベルク近郊で創業しました。第2次世界大戦により鉄道施設は壊滅的な打撃を受け東西に分裂しましたが,西ドイツはドイツ連邦鉄道をDBに,東ドイツはドイツ帝国鉄道を引き継ぎDRとなりました。独立採算制を原則とするDBは労働問題をはじめとして,長期債務額が急上昇し経営破綻が明らかになり,1991年には鉄道の企業性を発揮するためDB/DRを統合し,ドイツ鉄道株式会社に改組しました。当面は全株式をドイツ連邦政府が保有していましたが,最終的には全て民間に売却することとなりました。こうしてDB/DR統合により線路部門と輸送部門が分離独立することとなり1994年1月,ドイツ鉄道株式会社(DBAG)が創設され,ここにDBは設立から45年を経て公企業から株式会社に移行しました。1999年7月にDBAGは持ち株会社となり以下の企業を傘下に置きました。長距離旅客輸送を担当するDB旅行/観光株式会社,近距離旅客輸送を担当するDB地域旅客株式会社,貨物輸送を担当するDB貨物株式会社,鉄道路線施設を建設,維持・管理し,輸送業者に貸し付けるDB路線株式会社,駅施設を保有・管理し貸し付けるDB/サービス株式会社の5社です。DB貨物は最近オランダ及びデンマークの貨物部門を買収しドイツレイリオンと名称を変えています。
DBAGは一時期,黒字を計上していましたが2000年以降,その経営は赤字に転じています。2001年現在の鉄道営業キロは3万5,986kmで軌道幅は1,435mm高速新線の建設に取り組んでおり,現在はアーヘン〜ケルン〜フランクフルト180km,ハノーバー〜ベルリン228km,ニュールンベルク〜ミュンヘン170.8kmが営業しており,当初は高速車両として電気機関車によるプシュプール方式のICE1を開発し280/hの高速列車でしたが,1号車両の車輪の破損で大事故を起こしました。第二世代として分割可能なICE2が登場し,現代は日本の新幹線方式と同じ動力分散方式で(ICE3)営業最高速度300km/h(性能上の最高速度は330km/h)の運転を行っています。しかしDBAGの経営は厳しく高速鉄道の整備に重点を置いてますが,政府の財政難から,投資資金の不足が深刻な問題となっています。
今回も亀田泰武氏の写真と情報でドイツの列車トイレの現状を報告します。
・1976年の西ドイツの列車
写真1ドイツ主要都市を結ぶ高速列車(TEE)。当時は最新の103交流電気機関車(最高速度200km/h)の牽引だが,車両のトイレは全て垂れ流し。トイレからレールを見ることができた。上がビンゲン駅を通過するIEC,下がコブレッツ駅で我々が乗車したIEC1976.6.22
写真2 ライン下りの船上で,ライン川沿いを走る列車,もちろん当時の列車トイレの汚物は垂れ流しです。この当時ライン川の汚染もひどく船上でもヘドロの匂いがしていました。1976.6.22
写真3 フランクフルト中央駅1976.6.22
写真4 ビンゲン駅1976.6.22
写真5 コブレッツ駅1976.6.22
・フランクフルトーヴユルツブルグICE23の振り子式高速電車ICE−T
写真6 フランクフルト駅にて
写真7 IEC−T振り子式電車の真空式トイレと手洗い 2012.8.7 亀田泰武氏提供
・ヴユルツブルグーバンベルグ,RE4706快速列車
写真8 101型交流電気機関車の牽引によるDBレギオの2階建て列車,ヴュルツベルグ−バンベルグのトイレは障害者も使用できる広い真空式です 2012.8.7 亀田泰武氏提供
・フランクフルトーカッセルICE694高速電車
写真9 ICE694ベルリン行きICE−T振り子式高速電車。ドイツも日本の新幹線と同様動力分散型方式を採用を始めました。トイレは真空式で汚物はタンクに貯留しています。 2012.8.8 亀田泰武氏提供
・フランクフルト−ミュンヘンICE525 左がICE2,右がICE3
写真10 ICE525の1等車両の立派な真空式トイレ 2012.8.8.9 亀田泰武氏提供
・ウルム−リンダウ IRE422 3都市間を結ぶ快速列車
写真11 IRE4223のローカル線でも真空式トイレ 2012.8.10亀田泰武氏提供
・ミュンヘン−ウルムIC1296(フランクフルト行き)都市間長距離列車
写真12 ローカル線の列車も真空式トイレが整備されています。 ドイツでは地上設備も完備しているようです 2012.8.10 亀田泰武氏提供
・リンダウ−ウルムIC118国際列車(−シュトゥットガルト−ケルン行き)
写真12 リンダウ−ウルムIC118オーストリアの列車トイレ,オーストリアの機関車が牽引している。オーストリアの車両でトイレも普通の水洗式で汚物は貯留していると思われる 2012.8.10 亀田泰武氏提供
・フランクフルト−ハイデルベルグ EC113国際列車(−シュトゥットガルト行き)
写真13 EC113の1等車両 ローカル線でも列車トイレは水洗で汚物はタンクに貯留しているようです。この列車もオーストリアの車両です 2012.8.13 亀田泰武氏提供
・ハイデルベルグ−マンハイムIC2012(ハノーバー行き)
写真14 ハイデルベルグ−マンハイム間の普通列車,牽引するのは元東ドイツの国鉄250型交流電気機関車のようです。トイレは真空式です。地上設備の整備ができたのか,ドイツはトイレの汚物の垂れ流しはないようです。 2013.8.13 亀田泰武氏提供
参考文献
1.社団法人 海外鉄道技術協力会「最新世界の 鉄道」2006.7月
2.「地球の歩き方」編集室「トーマスクック・ヨーロッパ鉄道時刻表 2012.12.28
3.「地球の歩き方」編集室「地球の歩き方・ドイツ2002〜2003」2001.6.29<
※NPO21世紀水倶楽部