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シリーズ ヨモヤモバナシ



番外編:マンホルのヨモヤモいつでも見られる各地の祭り2全国編

講話者:石井 英俊*

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 前回は東北地方のお祭りを集めてみました。東北ほどではないにしても,全国各地にもお祭りを絵柄にしたマンホールがありました。北から順を追ってみていきましょう。北海道と西日本が“手薄な”のが申し訳ないところですが。

2.まずは北海道

 写真−1は富良野市の3種類あるマンホールのひとつです。北海道の地図の上で陽気に踊るオジサンが描かれています。頭の部分には「北海へそ踊り」と書いてあります。毎年7月28,29日に行われるお祭りで,「図腹(ずぼら)踊り」という飾りが老若交えて繰り広げられるそうです。“図腹”はお腹から胸にかけて顔の絵を描き顔を赤い傘で隠して〜,なんていう説明よりも,マンホールの絵の方がわかりやすいでしょうか。富良野が北海道のど真ん中,“へそ”に当たることから昭和44年に始まりました。
 写真−2は旭川市の東にある東川町のマンホールです。稲穂とともに描かれているのはカメラとネガですね。東川町は「写真のまち」だそうです。毎年7月下旬に全国の高校生が集い,東川町をテーマにした写真を撮影し競い合う「写真甲子園」が開催されます。雄大な大雪山などの自然や,そこに暮らす人々の姿や営みをモチーフに,高校生たちのカメラが向けられるんですね。

 
写真−1


 
写真−2

3.次は関東

 茨城県石岡市のマンホールに描かれているのは「常陸国總社宮大祭」の「幌獅子」です(写真−3)。9月の敬老の日を最終日として3日間にわたり,神幸祭,大祭,還幸祭が行われ,御神体の供奉行列が山車とともに練り歩きます。山車は囃子連が乗る車輪を付けた小屋に幌をつけ,その先頭が獅子頭です。重さは20kgほど,これをかぶり持ち,囃子に合わせて踊りながら練り歩くんですから大変です。各町の山車は幌の色でどこの町内会かわかるそうです。
 写真−4の古河市の花火は関東でも有数の規模で行われています。渡良瀬川と利根川の合流する三国橋付近で打ち上げられますが,合併後新古河市の発足を記念してさらに大規模になりました。二万五千発の花火,そして関東では唯一の三尺玉を打ち上げています。

写真−3


写真−4


写真−5


 写真−5には高崎市の「高崎祭り」の山車が描かれています。市内各町会が1年交代で山車を出し市街を練り歩きます。全町会が参加すると山車が多すぎるのか,毎年出すと費用がかさむからかは定かではありませんが,祭り好きには1年おきというのは待ち遠しいことでしょうね。
 埼玉県上尾市のマンホールにはほかに市の木のアオキ,カシの描かれた2種類の蓋がありますが,写真−6に描かれているのは「大綱引き」だそうです。初めに見つけたときは何の絵が描いてあるのかわからなかったのですが,カラーの蓋を見つけてようやくわかりました。大きな綱を動物たちが力を合わせて引いています。十二支のうち7種の動物が登場しています。ネズミとイノシシが登場するマンホールは,いまのところまだほかには見つかっていません。

写真−6


写真−7


写真−8


写真−9


 皆野町は埼玉県西部,荒川に面し長瀞に隣接する町です。ここは「秩父音頭発祥の地」,毎年8月14日に秩父音頭流し踊りのコンクールが行われ,県内から多くのグループが参加するそうです。写真−7のマンホールにもその様子が描かれていますね。阿波踊りは大勢の“連”で踊りますが,こちらは15人以上なら少人数でも可,提灯のともる町をそれぞれの衣装で流していく様子がよく表れています。
 東京都西部の「福が生まれる」と縁起の良い名前の福生市,米軍の横田飛行場があり基地の街でもありますが,福生の七夕は関東では平塚,阿佐ヶ谷と並んで有名です。初めに見つけたこの絵柄のマンホールは「東京都雨水」となっていました。流域下水のものだったようですが,最近訪れたところ,駅前には同じ絵柄のマンホールが福生市の名前で置かれていました。
 七夕の絵柄を期待して平塚市を訪れたのは15年ほど前,残念ながら波模様のものしか見つけられませんでした。10年ほどたって,平塚市に在住の同僚からマンホールの絵柄が「七夕」だと聞かされ,ひょっとしたらの期待が。奥さんと一緒に参加した市内のウォーキングイベントで市内を歩いて「七夕飾り」の描かれたマンホールを見つけました。カラーの蓋は平塚アリーナの前で発見,賑やかに描かれていました。さすがに関東一の七夕と言われる平塚の七夕です。

4.中部地方です

 山梨県の市川大門町,現在は合併して市川三郷町となっています。市川大門町のマンホール(写真−10)は,障子戸の向こうに打ち上る花火です。笛吹川と釜無川が合流し富士川となるところにある町で,花火の生産地でもあります。笛吹川三郡橋の下流や毎年8月7日に行われるのが神明花火大会,二万発もの花火が打ち上げられるそうです。障子戸も描かれていますが,ここは古くから障子紙の産地でもあったそうです。この絵のように障子戸を開けたお座敷で一杯やりながらの花火見物,いい風情ですねえ。
 勇壮な「御柱祭」を描いたカラーのマンホール(写真−11)は,諏訪湖流域下水道の豊田処理場の門にありました。諏訪大社の御柱は6年に一回立て直すんですが,そのときに山から切り出した大木を人力で下ろしてきます。急な坂を落とすときには上に乗った人が振り落とされて大怪我をすることもあるそうです。この処理場では諏訪湖周辺6市町村の下水を処理していますが,門の下にはその各市町村のカラーの蓋もありました。もちろん喜んで撮らせていただきました。

写真−10


写真−11


 写真−12は長野県上田市南部上田駅から上田電鉄の終点にある別所温泉にあるマンホールです。「岳の幟(のぼり)とささら踊り」が描かれています。別所温泉の地で五百年以上続くお祭りで,雨乞いのお祭りだそうです。7月中旬の日曜日に行われ,何本もの幟を神社に奉納し,小学生の女の子三十人が,ボタンの花をつけた笠をかぶって踊ります。
 岐阜県中津川市のマンホール(写真−13)には「おいでん祭」と市の花のサラサドウダンが描かれていました。「おいでんさい」は“いらっしゃい”という意味かと思っていたら,8月に行われるお祭りのことでした。マンホールの絵柄に描かれる,旗を背負いながら太鼓をたたいて踊る「風流踊り」は追力満点だそうです。ドウダンの白い花もかわいらしいですね。

写真−12


写真−13


写真−14


写真−15


 伊東市は伊豆半島東岸,相模灘に面する観光・保養・温泉都市です。写真−14のマンホールに描かれている「たらい祭り」は,温泉客の方たちが市内の川でしゃもじを櫂にしてたらいを漕ぐんだそうです。この蓋を見つけたのは奥さんと二人で坂道をゼイゼイと登っていたとき,何の絵かわからなかったんですが,ともかく写真を撮ってホッと安心,一息いれました。この絵柄の蓋はその山道で見つけただけで,市内の蓋は城ヶ崎海岸が描かれていました。
 写真−15の静岡県島田市のマンホールに描かれているのは「島田大祭(帯祭り)」です。3年に一度(寅,巳,申,亥年)の10月,安産祈願をこめた大井神社のお祭りだそうです。ちょんまげのかつらをかぶった25人の大奴が2本の帯を下げながら傘をさして街を練り歩きます。その衣裳の重さは20kg,歩くのも一苦労です。烏帽子をかぶって踊るのは「鹿島踊り」です。他所から来たお嫁さんが,晴着姿で町内にお披露目したのがこの祭りの起源だそうです。
 日本の三大七夕といえば仙台,神奈川の平塚,愛知の一宮だそうですが,同じ愛知県の安城市にも「七夕飾り」がマンホールに描かれています(写真−16)。安城の七夕祭り,私はマンホールを見て初めて知りました。一宮市では七夕の描かれたマンホールは見つかりませんでした。

写真−16


写真−17


写真−18


 津島市は愛知県西端にあります。写真−17のマンホールの右側には市の花のフジ,左側には津島神社の天王祭の宵祭りに天王川を渡る「まきわら船」が描かれています。船上の屋台には半円・山形に365個の提灯,中央の真柱にも12個の提灯をかかげ,津島笛を奏でながらゆっくりと進みます。「日本三大川祭り」の一つ,国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
 同じく愛知県,名古屋市の北西にある稲沢市では3種類のデザインマンホールを見つけました。その中の1枚(写真−18)に描かれていたのは喧嘩をしているような形相の男です。かつて尾張の国府が置かれ,尾張大国霊神社は「国府宮神社」と呼ばれています。ここで行われる旧暦1月13日の祭礼が「国府宮はだか祭り」です。参道では「神男(しんおとこ)」に触れて“厄”を落とそうと数千人の締め込み姿の男衆がもみ合うそうです。私が訪れた4月下旬には同じ参道でのどかに植木まつりがおこなわれていました。
 三河湾に面した愛知県の一色町,日本一の生産量のカーネーションもマンホールの絵柄になっていますが,「日本一の大提灯」の描かれたマンホールもありました(写真−19)。8月26,27日諏訪大社の大提灯祭りには長さ10mもの大提灯も掲げられます。明かりがともると境内は淡いオレンジ色に包まれます。

写真−19

5.次は近畿地方です

 豊郷町は滋賀県中東部にある町です。かつての近江商人の出身地の一地区として有名だそうです。写真−20のマンホールの中央に町章がありますが,その周りで踊られているのが「江州踊りの扇子舞」です。周りを町の花ツツジが取り囲み,その外側にあるのは祭りの提灯でしょうね。400年以上前に始められた踊りは,扇子や日傘を手に踊るようになり華やかさを増して現在に伝わっているそうです。

写真−20


写真−21


 市町村名の「あいうえお順」で最初に出てくるのは秋穂(あいお)町,山口県の町でしたが山口市に合併してしまいました。一番目になったのはこの相生市,兵庫県南西部の市です。写真−21のマンホールに描かれているのはペーロン競争,力強く櫂を漕ぐ人が描かれています。毎年5月の最終土・日曜日にペーロン祭がおこなわれるそうです。上に描かれているのはコスモス,下に咲いているのはツバキの花,市の花と木です。

6.中国・四図・九州地方

 写真−22は鳥取県の県庁所在地鳥取市のマンホールです。テレビを見ていてたまたま「しゃんしゃん傘祭り」を知ったのですが,その後すぐに友人からこのカラフルな笠が描かれたマンホールの写真を頂きました。もとは雨乞いのための踊りだったそうで,8月に行われます。3,500人の持つ傘が舞うたびに“しゃんしゃん”と鈴が鳴ります。水道関係のマンホールにも笠が描かれていますが,傘を下から見た構図になっています。
 岡山県北部の勝山盆地にある久世町は,落合町など八町村と合併し真庭市となりました。「だんじり」といえば岸和田など大阪が有名ですが,「岡山の三大だんじり」というのもあり,久世町はその一つだそうです。写真−23のマンホールに描かれているだんじり,昼は5神社のお神輿に従って町を練り歩きますが,夜になると「だんじり喧嘩」,十台のだんじりが激しくぶつかり合うんだそうです。マンホールの中の“若衆”もやる気十分という雰囲気ですね。

写真−22


写真−23


写真−24


 山口市は室町時代大内氏が西日本の“雄”として君臨したところ,そのころに起源をもつ「山口七夕ちょうちんまつり」がマンホールに描かれています(写真−24)。8月の6,7日に笹竹につるされた数万個の紅提灯が街の中心部を彩り,神輿・山笠が町内を練り歩くんだそうです。この提灯の中の灯りはロウソクで,2時間ほどで燃え尽きるとのこと,その間の束の間の“華やかさ”ですね。
 愛媛県北東部にあり瀬戸内海の燧(ひうち)灘に臨む新居浜市は,かつて日本三大銅山の一つだった別子銅山のあるところです。新居浜市のマンホール(写真−25)には龍の顔と七夕の飾のような房が描かれています。毎年10月16〜18日に行われる「新居浜太鼓まつり」は四国三大祭りの一つに数えられています。その太鼓台の龍と房です。鉱山の発展とともに太鼓台も大きくなり,高さ5mを超えるものもあり,50台ほどの太鼓台が市内を巡ります。街は太鼓の音に包まれることでしょうね。
 鹿児島県北西部の川内(せんだい)市,現在合併して薩摩川内市になりました。これで宮城県の仙台市とはっきり区別できます。川内市のマンホール(写真−26)には「川内大綱引き」が描かれていました。毎年9月22日の夜に行われ3,000人の若者が引き合います。邪魔をする「押し隊」との合戦は迫力満点,「ケンカ綱」と呼ばれるそうです。

写真−25


写真−26

7.おわりに

 2回にわたってご紹介した「お祭り」,私が実際に見たことのあるのは子供のころに見た秋田の竿灯・能代のねぶ流しだけです。でもマンホールのおかげで各地のお祭りを知ることができました。もっとも「迫力」には欠けますがね。今回の写真のうち北海道の東川町は友人の柏田氏,鳥取市,久世町,新居浜市は元の職場の同僚(太田氏 井上氏)から頂いたものです。おかげで皆様に紹介することができました。ありがとうございました。

※日本のマンホール文化研究会