読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
番外編:マンホールのヨモヤモ −消火栓の蓋ってきれいですね−
講話者 石井 英俊
コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)
1.はじめに
都市の道路上に必ずあるものにマンホールのふたがあります。最近そのデザインが面白いということで一部の方々から注目を集めていますが,多くは下水道のマンホールのふたなんですね。各市町村が「おらが町」のシンボルとしてマンホールのデザインを作っているようです。多くは市町村の花や木をデザインしているのですが,名所や行事,特産品など,みていて楽しいものがたくさんあります。
ところで路上には下水道以外のマンホールのふたもいろいろと設置されているんですね。今回はそのなかで「消火栓」を取り上げてみたいと思います。写真−1は品川駅前で見つけた東京都の消火栓に使われているふたです。数ある「消防士の描かれた蓋」の中でも,かわいい消防士さんです。
写真−1
2.消火栓のマンホールって?
文字通り,消火活動の際に使う水を取るためのホースを差し込む装置が入っているのですが,設置は水道を担当する部署が行っています。写真−2は富山市の消火栓ですが,水道関係もほぼ同じ絵柄のものがありました。市の花のアザミと雪の降る立山・神通川が描かれていますね。
写真−2
消火栓は非常時に使われるものですから,目立つものでなければなりません。黄色く着色してあったり,赤い消防車が描かれていたりと,下水のマンホールなどより気が付きやすいものが多いのです。また,すぐにそれとわかるような絵柄が使われています。消防車,消防士など,火消の纏(まとい)が使われているのは関東に多いようです。私ぐらいの年(アラカン)の人は街角に「消火栓」が立っていたのを覚えていらっしゃるでしょうか。それをそのまま描いてあるのが高崎市の消火栓,写真−3です。この消火栓は,今どきの若い人にはなじみが薄いでしょうね。
3.「おらが町」の消火栓いろいろ。
消火栓の蓋の絵柄で多いのは,消防車や火消の纏ですが,それにワンポイント加えて「わが町の消火栓」にしているところもあります。写真−4は埼玉県の入間市です。入間市は「狭山茶」で知られるお茶の産地で,丘陵地には茶畑が広がっています。市の花もお茶の花になっていて,消防車の周りをお茶の花が彩っています。消防車と花の取り合わせでは,同じ埼玉県の蕨市はニチニチソウ,吹上町はコスモスが描かれていました。消防車を外して花だけの消火栓は,茨城県の霞ケ浦町(写真−5),町の花のアジサイです。茨城県の下館市はバラの花,栃木県の茂木町はキキョウの花,埼玉県の深谷市はツバキの花と福寿草,大分県の別府市はツツジの花が描かれていました。写真−6は茨城県の高萩市の消火栓ですが,市の木と鳥を鮮やかに描いてあります。ちなみに下水のマンホールのふたには幾何学模様が描かれていました。姫路市は市の花のサギソウの上をシラサギが飛んでいます。
写真−3
写真−4
写真−5
写真−6
写真−7
写真−8
写真−9
写真−10
写真−7は埼玉県行田市の消火栓です。火消の纏とともに描かれているのは「忍城」で,室町時代に造られた関東の名城,石田光成が水攻めに失敗したお城としても知られています。現在ある「三階櫓」は昭和63年に再建されたものだそうです。このように「街の名所・旧跡」を描いた消火栓もあります。倉敷市は消防車に白壁の街並みを加えてあります。「名所シリーズ」でも「消防」が消えたのは金沢市(写真−8),兼六園の「ことじ燈籠」が描かれています。下水のマンホールにこれを期待したのですが,デザイン蓋を見つけられなかったので,この消火栓の蓋を見つけて大満足でした。水戸市の消火栓には「梅と偕楽園」が描かれていました。他にも街の代表的な風景を措いているのは,山口県の秋芳町の「秋吉台のカルスト台地」,栃木市の「黒板塀の街並みと巴渡川」などがあります。また桑名市の「東海道七里の渡し(写真−9),草加市の「日光街道の松並木」(写真−10)などもなかなか見ごたえのある消火栓ですね。
写真−11
写真−12
街のシンボルを影絵のように描いてあるのが神戸市の消火栓(写真−11),風見鶏を中心に港やガス燈などを紹介しています。同様の題材を違うデザインで描いたふたもありました。名古屋市は「お城とシャチホコ」です。名古屋がお城なら静岡は富士山です。静岡市の消火栓(写真−12)には富士山と阿部川,藁ぶき屋根のように見えるのは「登呂遺跡」でしょうか。同じ静岡県の藤枝市も富士山が市の花の藤とともに描いてありました。
4.消防士が変身?
日本三庭園のうち二つが消火栓に取り上げられていましたが,残りの一つ後楽園は?後楽園のある岡山市の消火栓には「桃太郎」の消防士さん(写真−13)です。下水をはじめ岡山市のマンホールは桃太郎一色でした。岡山駅前には「サル・イヌ・キジを従えた桃太郎」の像がありますが,どこに行っても桃太郎を見かけることができます。同じ岡山県の笠岡市は「カブトガニ」(写真−14),山口県の光市はたくましい「カモメ」の消防士です。そしてなぜか天竜市の消防士は「孫悟空」(写真−15),筋斗雲に乗っています。これは機動力がありそうです。
写真−13
写真−14
写真−15
写真−16
ちょっと心配なのが山口県柳井市の「キンギョの放水」(写真−16),大量の水を出していますが火を消せるんでしょうか?ゾウさんが放水しているのは千葉県の我孫子市,ゾウさんなら消せるでしょうか。
5.他にも多彩な消火栓がありますよ。
火消装束で山鹿流陣太鼓を打つのは赤穂市の消火栓(写真−17)の大石内蔵助,きびきびとした消火活動が期待できそうです。静岡市の消火栓をもう一枚,「大御所家康公駿府城入城400年祭」の記念のマンホールです(写真−18)。大御所が采配をとればどんな大きな火事でも消火できそうです。この2枚の写真は友人が撮ってきてくれました。
写真−17
写真−18
写真−19
写真−20
写真−21
写真−22
写真−23
写真−24
その土地の特産品を扱ったものもあります。写真−19は宮城県の女川町,生きのよいカツオが飛び跳ねています。写真−20は埼玉県の小川町,「和紙の里」として知られる町で,特産の秩父和紙をすいているのですが,このお姉さん楽しそうですね。
同じく埼玉県の毛呂山町(写真−21),ユズが特産ですが,一緒に描かれているのが「流鏑馬」,かつては坂東武者で知られた地ですから,流鏑馬も盛んだったことでしょう。同じように武者の姿が描かれた消火栓が富山県の福光町(写真−22)にありました。こちらには「佐々成政」と武将の名前が記されています。戦国時代の猛将として知られた武将です。
岐阜県の養老町の消火栓(写真−23)には「養老伝説」が取り上げられています。お酒が流れる養老の滝,そこから瓢箪にお酒を詰めて持ち帰ったという「孝子源丞内」と赤い瓢箪が措かれています。養老駅の売店にも赤い瓢箪がたくさん並んでいました。
埼玉県朝霞市の消火栓(写真−24)には市のマスコットキャラの彩夏(さいか)ちゃんが登場,彩夏ちゃん祭でよさこいを踊っているようです。全国各地のユルキャラ達もマンホールに登場しつつあります。これからが楽しみです。
6.おわりに
以上,これまでに撮りためた面目そうできれいな消火栓を集めてみました。ここでご紹介できたのは一部ですし,まだ私が回ったのは全国の市町村の半分程度,しかも偶然見つけたものですので,他にもきっと多くの楽しい「消火栓」があるに違いありません。これからも楽しみながら自転車を走らせ,撮り続けていきたいと思っています。
路上の美術館,楽しく鑑賞していただきたいのですが,くれぐれも自動車などとの交通事故にはご注意ください。