会のロゴ

特定非営利活動法人
日本下水文化研究会 分科会 屎尿・下水研究会
Japan Association of Drainage and Environment
日本下水文化研究会は新しい人と水との関係を考えていきます。
Smart Water Use and Drain Keep the Environment Healthy

TOP

屎尿・下水研究会の概要

お知らせ

発表タイトル

特別企画

企画図書類

日本下水文化研究会 HP

関西支部
HP

更新履歴


読み物シリーズ


シリーズ ヨモヤモバナシ



スイストイレ紀行(その2)

△講話者 森田 英樹 *

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 前回の『スイストイレ紀行』(トイレヨモヤモバナシ第55回 2012年9月号)に引き続き,今回もスイスのトイレ事情を紹介したい。前回は,トイレといっても,犬の糞便処理についての話であったが,今回は,我らが人間のトイレについての話である。結論が先になってしまうが,スイスのトイレ事情は概してすこぶる良好であった。飲食店・ホテル・鉄道・駅・各種施設の公共のトイレなど,どれをとっても使用をためらうようなトイレとは遭遇をしなかった。日本のトイレ,いや,日本以上の清潔さと整備状況といってもよい。旅先でトイレを見て回ることが習慣化している私にとっては,トイレのドアを開ける瞬間は,常に期待に胸膨らむものである。何か,面白い工夫や特徴はないであろうか?トイレという極めて狭く,また使用の目的も明確である空間であるがゆえに,思わず膝を叩きたくなるような知恵や,反対に,その意図がわからずに頭を抱え込んでしまうようなトイレと出会うこともある。そんな視点からすると今回の旅は,いまひとつ面白味に欠ける。いずこも,綺麓に整備されたトイレである。そんなトイレだとドアを開けても,内部を一瞥し,すぐに出てくることになってしまう。今回の旅はこんな事の繰り返しではあったが,ここではそんな旅の中から印象に残った,いくつかのトイレを紹介していきたいと思う。

2.マイエンフェルト近郊にて

 スイス東部のグラウビュンデン州[州都はクール]に位置する標高504m,人口2546人の小さな村マイエンフェルトは,ヨハンナ・シュピーリの名著『ハイジ』の舞台となった所といわれている。1880年に出版された『ハイジ』は,累計発行部数5000万部という驚異的ベストセラーとなった。そのため村には,「ハイジハウス」と呼ばれる博物館を始めとする見どころ多数のハイキングコースがある。このマイエンフェルト近郊のドライブインのトイレは有料トイレであった。料金は1スイスフラン[約100円]であるが,料金を払った際に出てくるレシートは,併設の売店で1フラン分の買い物ができる金券となっている。そんなシステムを考えると何とも良心的な有料トイレといえる。いつもの私なら,金券として使わずに持ち帰るところだが,なぜかその時,妙にケチ心が膨らみ売店で使ってしまった。まさに後悔先に立たずである。

写真1

 入口は,回転ゲートシステムになっており,内部は岩をくり抜いて造った洞窟トイレのような,おしゃれなデザインだ[写真1]。回転ゲートには入り方の手順が図示されており,戸惑う事はない[写真2]。@=1フランを投入する。A=レシートが出てくる。このレシートが売店で金券として使える。B=回転ゲートから入る。という段取りだ。脇にはご丁寧に両替機も設置されていた。中に入ると,トイレのショールームかと見紛う美しきであった[写真3]。広いトイレ空間内には,椅子やクローゼットなどが置かれている[写真4]。最初はトイレ管理の人の備品・設備かと思ったが,どうやらインテリアとして置かれているのではないかと次第に思われてきた。また,大便所のトイレットペーパー脇に便座クリーナーが設置されており,全く至れり尽くせりのトイレだった。

写真2


写真3


写真4

3.サン・モリッツにて

 スイス東南部,サン・モリッツ湖北岸に位置する,標高1822メートル,人口約6000人の町サン・モリッツは,1928年と1948年に冬季オリンピックが開催された事でも有名な,風光明美な;高級リゾート地である。サン・モリッツに至るまでにいくつかのトイレを見てきた。その中で次第に気になり始めた事があった。それは,トイレのドアの堅牢さである。トイレの各個室のドアではなく,男女別になっている,トイレの入り口の扉の事である。もちろん,日本にも堅牢なトイレのドアは存在するし,スイスのトイレのドアが全て堅牢なわけではない。なんとなく堅牢なドアを多く見るような気がした。ここサン・モリッツの駅舎のトイレの入り口も,厚く,重厚な鉄の扉であった[写真5]。指でも挟まれたら大変だ。トイレへのいたずらや,破壊が多く,その対策としてトイレのドアが堅牢化して行ったのかとも考えたが,そうでもなさそうだ。スイスの治安やマナーは良さそうだ。また,スイスといえば,家庭にも核シェルターが造られるほど国防意識が大変に高い国としても有名だ。こんな思想がトイレの扉にも現われているのかとも思ったが,まあ関係ないだろう。そもそも,トイレは扉の開閉回数も多く,開閉が容易な方が好まれると思うのだが。なにゆえ,かくも堅牢な重い扉なのか,未だにその理由は見当がつかない。
 サン・モリツツ市内で昼食を食べた。私がスイスを訪れた時期は夏だったため気にも留めなかったが,スイスの冬は,さぞかし寒いことであろう。特に標高の高い地域ではなおさらのことだ。レストランのトイレの壁にはストーブが据え付けられていた[写真6]。確かに必要な設備だ。そういえば,昨日宿泊したホテルのトイレにも同様のヒーターが壁に付いていたが,その時は全く気付かなかった。人間というものは何とも勝手なもので,どうやら夏のストーブ,冬のクーラーというものはなかなか目に入らない生き物のようである。そんな事を考えながら,用を済ませ,手洗いの後,ペーパータオルを引き出そうとしたが,どうも上手くいかない。手が濡れているせいもあってか紙が破れてしまい,なかなか引き出せない。全く困ったものだ。どうせ紙を詰め込みすぎているからこんな事になるのであろうと様子を観察すると,ペーパータオルホルダーの前面に何やらセンサーらしきものがある。よもやと思い手をかざしてみると,モーター音とともにニョロニョロとペーパータオルが出てきて止まった。見ると丁度,ミシン目が入っている位置にペーパータオルが止まっていることに更に驚かされた。なかなか良くできている[写真7]。確かに便利ではあるが,果たして,ここまで電動にする必要があるものであろうか。もっとも,日本のトイレメーカーの製品で,人間が近寄ると自動的に便器の蓋が開閉するものがある。この自動トイレの必要性も賛否のわかれる所だ。しかし,いずれにせよ,自動好みは日本人ばかりではなく,どうやらスイス人気質にも宿しているようである。

写真5


写真6


写真7

4.ベルニナ線にて

 サン・モリッツからイタリアのテイラーノまでの約60キロを結ぶベルニナ線は.ルートの大半を世界遺産に認定されている美観地区を走ることもあって,多くの観光客で賑わっている[写真8]。ベルリナ線の列車トイレは,男女兼用の1つの個室に洋式の便器が1基置かれている。日本の新幹線のように男性用の立ち小便所や,独立した洗面スペースは無い[写真9]。手洗いには、石鹸やペーパータオルも備えられている。水の飲用はできないようで、禁止のマークが貼られている。写真には写っていないが、洗面台の上部壁面に鏡も備えられている。さらに、洗面台の左側壁面には,可倒式のテーブルが設置されている。[写真10]。写真は、テーブルとして使用できる状態にして撮影したが、倒せば壁面に畳める構造となっている。狭い空間を上手に利用している。しかし、何のためのテーブルであるのかが、今ひとつ良くわからない。おむつの交換台にしては少々小さいような気がする。これでは、子供が転落しそうだ。ドアに荷物掛けのフックが1つ設けられているので荷物代として設置しているのでもなさそうである。まあ、明確な使用目的は特になく、荷物を置いても良し、おむつ交換をするのも良し、化粧品を置いても良し、多目的なテーブルとして設置されているのであろう。

写真8


写真9


写真10


写真11


写真12

 ベルニナ・ディアヴォレッツア駅で途中下車し,ロープウェイでディアヴォレッツア展望台へと向かった。ディアヴォレッツア展望台からはモルテラッチ氷河やピッツ・パリュやピッツ・ベルニナなどの3000〜4000メートル級の山々が一望できる。ピッツ・パリュ[3905m]山頂の背後は,もはやイタリア領だ。このディアヴォレッツア展望台には,何とも立派な建物があり,その中に「ベルグレストラン・ディアヴォレッツア」がある[写真11]。歴史は古く1872年創業のこのレストランでは,スイスの伝統料理も楽しめ,そこが標高2978メートル,すなわち富士山7,8合目に相当する標高であることをついつい忘れてしまう。展望台のトイレは,少々古きを感じさせられるものの,しっかりと管理され手入れの行き届いた清潔な水洗トイレであった[写真12,13,14]。かつて富士山の世界遺産登録が見送られた一因として富士山のトイレの劣悪さが指摘された事があった。確かにスイスの山岳トイレの状況を見てしまうと,その差は歴然としている。いかに日本贔屓の私とはいえ,残念ながら,返す言葉は全く見つからなかった。

写真13


写真14

※日本下水文化研究会会員