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沖縄戦における壕のトイレ

△講話者 森田 英樹 *

コーディネーター 地田 修一(日本下水文化研究会会員)

1.はじめに

 中学生の時であろうか,沖縄戦の記録映像を見た。洞窟に向けて火炎放射するアメリカ軍。洞窟から投降する市民や兵士。以来私にとって,沖縄はリゾート気分で旅をするような場所ではなくなり,その候補地に上がることもなかった。

2.ガマ

 沖縄の方言で洞窟や窪みのことを「ガマ」という。沖縄本島中南部は,ほとんど隆起サンゴ礁でできている。そのため,数十万年の雨の浸食によってできた自然の洞窟が各地に存在し,沖縄戦では,この自然洞窟が住民の避難場所となった。また,日本軍の作戦陣地や野戦病院としても使用され,それらのガマや壕は1,000以上あるといわれている。

3.アブチラガマを訪ねて

 沖縄本島南部の南城市玉城字糸数に残る「アブチラガマ」に行ってきた。複雑な思いであった。「アブ」とは深い洞穴のことであり,「チラ」とは崖を意味する。
 アブチラガマは,沖縄戦時,糸数集落の避難指定壕であったが,日本軍の陣地壕や倉庫として使用され,戦場が南下するにつれて南風原陸軍病院の分室となった。軍医,看護婦,ひめゆり学徒隊が配属され,全長270mのガマ内は600人以上の負傷兵で埋め尽くされていたという。
「ガマの中では,トイレはどのようになっていたのだろうか?」私としては以前から気になっていた疑問であった。しかし今回ばかりは,見学地で質問責めにする気分ではない。入口で貰ったパンフレットの平面図に何箇所か「便所」と書かれた場所があった。私にとっては,もはやパンフレットで便所の文字を確認できただけで十分であった。ガマの中に入るか否か最後まで迷った。

4.ガマの中の便所

 ガマには照明は無く,ヘルメットを借りて懐中電灯を片手に,ガイドさんに従ってゆっくりと足を踏み入れた。内部には生活用具や医療用具,物資などが置かれているわけでもないので,何も知らなければ,まさに単なる洞穴である。ガイドさんが「便所」と表示されている場所の前で止まった。いつもなら,すかさず質問するところであるが,言葉がでてこない。
 しかし,私の思いが通じたのか,「ここには,便所がありました。便所といっても,サトウキビから黒糖を作る時に使用される大きな鍋が置かれ,その上に板を渡しただけのものでした。囲いも無く,周囲から丸見えの便所でした。溜まった屎尿は桶で汲出し,米軍の砲撃が途絶える夕方,外に捨てに行きました」と,説明していただけだ。

5.黒糖作りに使う鍋

 説明の中にあった「サトウキビから黒糖を作る時に使用される大きな鍋」というのが,どのような形の鍋なのかが気になった。やはり,これは沖黒糖作りの鍋縄で確認しておかなければいけないということで,読谷村にある「むら咲きむら」という体験学習型のテーマパークに行ってみることにした。そこはNHKの大河ドラマ「琉球の風」のオープンセットの跡地で,体験教室の中にサトウキビの収穫と黒糖作りがあるということを聞いたからである。

黒糖作りの鍋

 竹のようなサトウキビを収穫し,圧搾機でサトウキビを搾り,その搾り汁に石灰乳を加えて煮詰め,その後,撹拌すると次第に固まり黒糖が出来上がるという単純な工程である。
 作業場に入ると,問題の鍋がすぐに目に飛び込んできた。大小様々な大きさであるが,大きいものだと直径1mくらいであろうか。底の浅い中華鍋のような形状だ。確かにこの形状の鍋なら,入り口の狭いガマの中にも運び入れ易いだろう。焼き物と違い,割れる心配も無い。渡し板が必要な理由も分かった。

6.おわりに

 実は,子どもの時に見に行った硫黄島戦の長編記録映画(撮影は米軍の海兵隊)の強烈な映像に衝撃を受け私の頭に刻み込まれ,長い間ある種のトラウマになっていた。硫黄島の名が示す通り,各所から吹き出る硫黄や地熱の中,光も水も食料も不足していた日本軍の地下要塞に対し,米軍は軍用犬を用い洞窟の入口を突き止め,火炎放射器で焼き尽くしていく戦闘シーンは,小学校低学年の私の理解を超えていたのである。
 数年前,この硫黄島戦が映画化され話題となり,テレビのCMにも流れていた。その時も見に行くか行かぬか迷い,結局見に行くことができなかったほどである。
 その意味でも,今回,沖縄でガマのトイレについて,ここまで見聞することになるとは考えてもいなかった。

 本講話は,NPO法人日本下水文化研究会 会報『ふくりゅう 通巻68号』(平成23年4月15 日発行)に掲載した『沖縄の事』に加筆・修正 を加え,再構成したものです。