屎尿・下水研究会

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屎尿・下水研究会の概要

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T.屎尿・下水研究会の関与したもの
U.日本下水文化研究会の関与したもの
V.会員の著作したもの
W.会員の書評したもの
X.その他の関連図書(主に国内の話題)
Y.その他の図書(主に海外の話題)




屎尿・下水研究会の本棚(2010/07/25)

地田 修一

 屎尿・下水研究会の活動とリンクあるいは関連する資料(書籍、報告書、映像など)をこの欄で随時、紹介していきます。

T.屎尿・下水研究会の関与したもの

T-1.「江戸・東京の下水道のはなし」:東京下水道史探報会編

技報堂出版

 東京都の下水道建設は1995年3月末に普及率概成100%を達成した。江戸・明治維新期は御府内備考、沽券絵図、町触れ、浮世絵、川柳を、明治・大正期は主に新聞を史料として、昭和期以降は東京都の記録と現場で携わった人たちからの聞き書きをもとに、東京の下水道のたどってきた道筋を鮮やかに甦らせた読み物である。
【主要な目次】:下水道の心象風景/江戸時代・明治維新期の下水史料を猟歩する/新聞にみる明治・大正時代の下水道事情/東京の下水道史を語る/東京下水道行政年表

T-2.「トイレ考・屎尿考」:日本下水文化研究会屎尿研究分科会編

技報堂出版

 「憚り」とも呼ばれることが物語るように、なんとなく話題にすることが憚れる便所。ましてや屎尿の話となると……。本書は、その便所と屎尿処理とを真っ正面から取り上げて、さまざまな切り口で語る一般向きの読み物である。一話読切りで、つい「うーん」と唸りたくなる31の話からなる。
【主要な目次】:屎尿汲取り業の一代記/バキュームカーの開発/屎尿積み替えと貨車輸送/海洋投棄とその歩み/みやこ肥料−コンポスト化/屎尿汲取りの移り変わり−仙台市から/京都屎尿事情/トイレの異名あれこれ/「都繁昌記」に見る汲取り/籌木とは−長岡京のトイレ跡から/下肥の流通と肥船/江戸川柳に詠まれている便所と屎尿/落語から便所と屎尿の噺を拾う/トイレットペーパーと下水/屎尿の活性汚泥処理−綾瀬作業所/屎尿と環境ホルモン/世界のトイレを旅する/インドネシアの屎尿事情/欧米における水洗便器の発達/エピローグ−屎尿の行方

T-3.「ごみの文化・屎尿の文化」:「ごみの文化・屎尿の文化」編集委員会編

技報堂出版

 本を開いて目次を見ると、「水に捨てる文化」、「トイレの神様」、「日本人はなぜ、しゃがんで排便するのか」、「トイレマナーから見るトイレ文化」など、知的好奇心を刺激する言葉がいくつもあって、「最初にタイトルから受けた印象とは違い面白いかもしれない」と思い始めた。そこで、興味を引かれた話から読んでみた。… もう、このあとは、次々と語られる話を次々と一挙に読み進めてしまった。食と同じく、人類は古来よりさまざまな視点から屎尿やごみについて考え、対処してきたのである。そこには確かに「文化」と呼べるものがあることを、本書を通じて認識できる。(三浦浩之氏(広島修道大学)の「月刊廃棄物」誌・書評より)
【主要な目次】:平安京の清掃行政/中世の使い捨て文化/資源回収業界の変遷と現状/屎尿という文字の探求/映画に登場する下水道/戦後開発された屎尿分離式トイレ/屎尿処理技術の歩み/日本の埋立てを変えた福岡方式/間取りから見るトイレの歴史/世界のトイレ博物館を巡って/浄化槽法制定の経緯と現状/江戸の下掃除代金の高騰に見る行政の対応/大正八年の屎尿問題/農村から見た都市屎尿処分問題/人物誌(李家正文、大倉孫兵衛・和親、高野六郎、西原脩三、楠本正康、岩橋元亮)/発展途上国における屎尿由来の寄生虫事情/途上国の屎尿処理を考える/バングラデシュのエコロジカル・サニテーション

T-4.「Toikets and Night Soil」:屎尿・下水研究会 英文資料

 「トイレ考・屎尿考」並びに「ごみの文化・屎尿の文化」の一部(7話)を英訳した資料である。
【主要な目次】:屎尿の文章表現−文芸作品から−/東京における屎尿の処理・処分の変遷/屎尿汲取り業の一代記/戦後開発された屎尿分離式トイレ/世界のトイレを旅する/発展途上国における屎尿由来の寄生虫事情/途上国の屎尿処理を考える

T-5.「トイレと下水道の歴史」:屎尿・下水研究会 文化資料-1

 この文化資料は、屎尿・下水研究会の会員が個人的な活動として各種の専門雑誌等に投稿した論文・記事を集成したものである。
 第1編は(財)日本環境整備教育センターの機関誌「月刊浄化槽」に掲載された森田英樹氏の論文であり、第2編と第3編は「荒川下流誌」((財)リバーフロント整備センター)に記載された記述で、前者は栗田彰氏、後者は前田正博氏、栗田彰氏、地田修一氏の分担執筆になるものである。
【主要な目次】:第1編 日本のトイレ発達史(先史のトイレ/古代のトイレ/平安時代のトイレ/鎌倉時代のトイレ/戦国時代のトイレ/江戸時代のトイレ/明治時代のトイレ/大正・昭和時代のトイレ)
第2編 江戸の下水道と本所割下水(江戸の下水は隅田川へ/本所割下水の発達と利用)
第3編 明治以降の下水道の整備(文明開化と近代下水道の導入〜東京府と東京市の下水道整備(明治期)/市域から郊外へ〜本格的な下水道整備開始と中断(大正期から第二次大戦まで)/浸水被害と水質汚濁の克服へ〜急速な下水道の普及(東京オリンピック、そして平成へ))

T-6.「水琴窟探訪」:屎尿・下水研究会 文化資料-2

 これは、下水管路維持管理の専門情報誌である「かんろかんり」((株)カンツール 発行)に2001年から20回にわたって連載された記事であり、執筆者の中村隆一氏は本研究会の古くからの会員である。ちなみに、水琴窟はもともと手水鉢からの排水を処置する設備(洞水門)から発展したものであるといわれている。
【主要な目次】:水琴窟をご存知でしょうか/ブームの火付け役/京都に水琴窟はよく似合う/京都に相応しいものは/ルーツは小堀遠州の洞水門/水琴窟製作への意欲/北の国の水琴窟/水道局と下水道局が造った水琴窟/信長と弟・有楽斎/先祖の造った水琴窟/甲州の水琴窟、京都駅の「火の鳥」水琴窟/甦った水琴窟の音/いにしえの匠の技を/多摩地域の水琴窟/見える下水道/新宿の水琴窟/小堀遠州と大石内蔵助/常滑の水琴窟

T-7.特別展「肥やしのチカラ−肥やしのむかしと肥やしのみらい−」を見学して

 京成線のお花茶屋駅から北へ8分ほど旧曳舟川の緑道に沿って歩くと、屋上にドームを乗せた一目でそれとわかる「葛飾区郷土と天文の博物舘」に着いた。特別展「肥やしのチカラ」と書かれた垂れ幕が私たちを出迎えてくれる。ここは、郷土史コーナーとプラネタリウムを併設した博物舘である。思っていたより規模の大きな博物舘で、常設展示会場には、2分の1の縮尺の大きな肥舟が置いてあった。地元の船大工に作ってもらったとのこと。
 特別展の会場に入ると、下肥値段表をはじめとした古文書がずらりと並んでいる。ここ葛飾区は、近年まで都市近郊農村として、下肥を農地の肥料として利用していた土地柄である。先ほどの船大工をはじめ、下肥の仲買人、肥舟の船頭たちが生活していた。もちろん、下肥を使う農家の人たちも。展示図録を読むと、多くの聞き書きで構成されており、自ずと臨場感が醸し出されている。
 展示物で目立つのは、いろいろな形状の肥桶。きのうまで実際に使っていたのではと思われるような物もある。それと、便器のアラカルト。私たち研究会が夢にまでみた「二穴式便器」の実物も。お宝満載の展示である。
 その中に、当研究会の関野勉氏が提供したトイレグッズと、森田英樹氏蔵書の各種珍本が展示ケースに守られて鎮座していた。ほかに、図録には鈴木和雄氏の体験記「海洋投棄船に乗って」、佐野丈夫氏のイラスト「南千住屎尿取扱所」、「東武鉄道の屎尿貨物輸送」、森田、関野両氏所蔵の浮世絵が、それぞれ掲載されている。
 また、当研究会が紹介・仲介したものとしては、砂町水再生センターからの肥桶、コンポストのパッケージが、小菅水再生センターからの下水処理施設の模型や下水汚泥の資源化物が、出展されていた。 当研究会の刊行図書の展示・頒布コーナーも用意されていたことを申し添える。
 なお、この特別展に付随して講演会が3回開かれたが、このうち2回は平田純一氏と森田英樹氏が行っている。

T-8.「外部の雑誌等へ投稿した屎尿研究会の講話」

1.「生活と環境」((財)日本環境衛生センター)
 第1回(H15-8)「江戸小咄に拾う雪隠と屎尿」:栗田彰
  2 (  9)「便所と屎尿の呼称の変遷」:渡辺健
  3 (  10)「京都のし尿事情」:山崎達雄
  4 (  11)「トイレの神様」:小松建司
  5 (  12)「トイレグッズのコレクション」:関野勉
  6 (   1)「東京における屎尿の処理・処分の変遷」:石井明男
  7 (   2)「戦後開発された屎尿分離式改良便所」:武藤暢夫
  8 (   3)「浄化槽法制定の経緯と現状」:佐々木裕信
  9 (   4)「途上国の屎尿処理を考える」:石井明男
2.「都市と廃棄物」(産業環境新聞社)
 第1回目(H16-5)「屎尿投棄船に乗って」 鈴木和雄
  2  (  6)「トイレに関する文献紹介と総合トイレ学の提唱」:森田秀樹
  3  (  7)「しゃがむ姿勢と日本人−なぜ、しゃがんで排便するのか−」:平田純一
  4  (  8)「トイレ探訪−史料行脚の旅−」:地田修一
  5  (  10)「屎尿の文化史−トイレを考える、屎尿を考える−」:地田修一
この外、
   「発展途上国における屎尿由来の寄生虫事情」:小野川尊
   「大正末・昭和初年の屎尿事情−藤原九十郎と高野六郎の言論活動と実践―」:中村隆一、地田修一
     「屎尿という文字の探求」:楠林勝二
   「衛生陶器のできるまで」:平田純一
   「世界のトイレ博物館を巡って」:関野勉
   「楠本正康先生と浄化槽」:八木美雄
   「平安・鎌倉における屎尿にまつわるよもやま話」:相原篤郎
   「江戸の下掃除代金の高騰にみる行政の対応」:柳下重雄
   「江戸の屎尿施肥事情」:森田英樹
   「大正〜昭和初期における屎尿問題」:稲村光郎
   「間取りからみたトイレの位置の変遷」:地田修一
   「都市近郊農村の下肥利用」 堀充宏
   「農民日記・農民哀史にみる屎尿の購買・運搬の実態」:地田修一
   「寄生虫予防と、その汚物掃除法および清掃法との関係」:稲村光郎
   「町触にみる江戸の小便所」:栗田彰
   「船のトイレ」:松田旭正
   「列車のトイレ」:清水洽
   「漁業者からみた屎尿の海洋投棄」:地田修一
   「戦前の鉱山・炭鉱トイレ事情」:森田英樹
など、現在に続く。
3.「生活と環境」((財)日本環境衛生センター)
 (H15-1〜7)「屎尿の変遷−有価物から廃棄物ヘ−」(第1回〜7回):地田修一、中村隆一
4.「月刊 下水道」(環境新聞社)
 (H15-増刊号)「あまり知られていない江戸の暮らし」:鈴木和雄
        「江戸の水管理」:栗田彰
          「江戸時代の下水道管理」:柳下重雄
        「江戸時代のトイレ」:森田英樹
 (H17夏季特別号)「江戸遺跡にみる町屋の下水」:仲光克顕
 (H18-1)    「映画にみる下水道: 安彦四郎
5.「かんろかんり」((株)カンツール)
   「写真にみる管渠清掃作業の歩み」:地田修一
   「写真にみる黎明期の管渠工事」:地田修一
6.「はなしシリーズ」(技報堂出版)として刊行
 (H15-4)「トイレ考・屎尿考」:日本下水文化研究会屎尿研究分科会編著
 (H18-5)「ごみの文化・屎尿の文化」:ごみの文化・屎尿の文化編集委員会編著

U.日本下水文化研究会の関与したもの

U-1.「江戸 神田の下水」:柳下重雄 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書-1

 神田界隈の下水道管理をめぐる町人と奉行所とのやりとりなどを記録した江戸時代の古文書である「類聚撰要巻之二十 神田大下水・小下水」を活字化し復刻し、口語訳と解説を加えたものである。品切れ。
【主要な目次】:三河島町新道の下水に新しく出来たごみとめの矢来の維持管理のこと/道奉行所が所管する下水の範囲の調査のこと/神田大下水落口の普請の費用負担のこと/神田地区の下水の浚渫と下水経路の改善についての普請奉行のお達しと、それに対する町方の動きのこと/下水の経路の切り替え工事と関連部分の石垣補修の願い出のこと

U-2.「川柳・江戸下水」:栗田彰 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書-3

 江戸川柳を素材として、江戸の町の下水道の様子を江戸庶民の暮らしとの係わりから探ったものである。
【主要な目次】:下水という言葉/流しと井戸端/どぶ/下水に関する言葉/雨/湯/水道/井戸/雪隠/小便所/下水の行方

U-3.「歳時 下水道略史」:渡辺健 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書−4

 明治以降の近代下水道の歴史的事項を歳時記風に月・日の順に並べ、記事を「読みもの」にまとめたものである。
【主要な目次】:京都市、大都市で初めて下水道使用料を徴収/東京都、下水処理水を工業用水として初めて供給/日本都市センター・全国市長会「下水道と財政」を公表/促進(活性)汚泥法、我が国に初めて紹介される/岐阜市、我が国初の下水道使用料徴収開始/建築基準法制定、便所の水洗化初めて法定/大阪市の下水道事業に初めて受益者負担金制度適用/仙台市、我が国で初めて下水道管理規定を定める/地方の衛生行政、警察部の所管となる/我が国初の町の下水処理場通水/下水道に国庫補助制度適用

U-4.「近世三都の水事情 大阪・江戸・名古屋」:山野寿男 著

日本下水文研究会 下水文化叢書-6

 近世初期に成立し、大河川の河口の沖積平野に立地する三都それぞれが、洪水の処理、舟運、用水そして庶民生活に至る多くの場面で、水とどのように関わってきたかを対比するものである。
【主要な目次】:三都の地形/城郭と城下町/町割/平野と河川/堀割と舟運/用水の確保/排水の方法/上水の建設/下水道の整備/暮しと衛生/ 下水道余話

U-5.「便所異名集覧〈増補版〉」:森田英樹 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書-7

 日本における便所の呼び方を方言、隠語を含め1114語を収集、歴史学的、民俗学的、言語学的、建築学的など様々な研究分野からの考察に欠かせないものである。
【主要な項目】:灰汁場/隠所/御手洗い/閑所/厠/上便所/後架/高野山/御不浄/小便俵/水槽便所/雪隠/手水場/東司/にほんばし/軒便所/はばかり/樋殿/用事場

U-6.「江戸の下水道を探る〈享保・明和・安永の古文書から〉」:柳下重雄 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書-8

 江戸時代中期に作成された三つの古文書に記述されている、下水の補修や浚渫あるいは雨落ち下水などに関する奉行所と町人とのやりとりを口語訳し、それに懇切丁寧な解説を加え、江戸の庶民生活を現代に甦らせたものである。
【主要な目次】:坂本町の空き地に商床設置願のあった件について報告した文書/元数奇屋町、山下町の家主達が、御堀端に縄張りをすることと商床を設置する願のあった件について報告した文書/市谷田町三丁目町屋前の大下水の御修復の件についてのお伺い書/不忍池の浚渫の件について上申した書付/雨落下水書類

U-7.「江戸下水の町触集」:栗田彰 編著、柳下重雄 監修

日本下水文化研究会 下水文化叢書−9

 「江戸町触集成」(塙書房 全20巻)の中から、下水に関するものを抜き出して「読み下し文」にし、詳細な「注」と解説的な「ひと言」を付け加えた構成となっている。掲載されている「下水に関する町触」は157にのぼり、本文だけで333頁ある。用語解説などもあり、古文書になじみのない方にも分かり易い内容となっている。
【主要な目次】:道造り、下水浚えの御触/下水浚え、下水の上に家蔵小屋雪隠など作り間敷く、などの御触/下水浚え、上水へ悪水入り申さぬよう御触/下水改めなどの御触/下水石垣入札の御触/悪水吐水門修復入札の御触/朝鮮通信使来朝につき、表の雨落溝を浚い綺麗にし、石垣、端板、悪敷き所繕うべき御触 

V. 会員の著作したもの

V-1.「江戸の下水道」:栗田彰 著

青蛙房

 米のとぎ汁、鍋底の煤、銭湯の湯… 江戸の下水に流れるものは、暮らしのにおいの生活排水。屎尿は畑に撒くためのものだから、流すなどはもったいない。本書は、古川柳や町触れを手がかりに、江戸の町の人びとが下水道とどのようにかかわっていたかを覗いたものである。「川柳 江戸下水」(下水文化叢書-3)の改稿・普及版。
【主要な目次】:下水とどぶ/流しと井戸端/雨と湯/下水のゆくえ/雪隠と小便所

V-2.「トイレットのなぜ?」:平田純一

講談社

座る、出す、ふく、洗う、流すメカニズム。そして、どう節水するのか、なぜ動物は事後にふかなくてもきれいなのか…など、本書は、世界中のトイレを見て初めて知った日本の非常識をこの道一筋のトイレ屋さんが語り尽くしたものである。
【主要な目次】:きれいなお尻/男の悩み・女の夢/良いウンコ・悪いウンコ/便器についてベンキョウしよう/日本のトイレは発展途上?/トイレは世につれ国につれ/トイレの馥郁たる未来

V-3.「糞尿史」: 鈴木一舟 著

公共投資ジャーナル社

 銅、金、銀、水銀の精錬、さらには多数の工事人の糞尿の排泄、による鉱毒と汚染。至福を求めるための大仏建立が環境破壊と病毒を出現させ、ついには都を逃げ出さなければならなくなった。本書は、その史実を知った著者が糞尿史や医療史の視点から古代王宮遷都の謎に迫ったものである。
【主要な目次】:遷都の年代とその周辺/病と医/遷都への必然性/土と水と生活/仏教信仰と衛生/盧遮那大仏建立の発願/宮から京へ/北への逃避/今様、今昔物語/遷都取材の旅

V-4.「下水道論の歴史的探訪」:稲場紀久雄 著

日本水道新聞社

 著者は、過去から現在までの時系列的な流れにおいて、その本源を評価し普遍なるものを探し出すべく、それぞれの時代状況の中で人びとが何を善とし何を悪としたのかを考えるのが歴史的探訪であるとしている。本書の中心人物は、長与專斎とその後継者たち及びバルトンである。
【主要な目次】:都市水質環境の荒廃/下水道論の燃焼とかげり/苦しい決断/萌芽/バルトンの夢

V-5.「下水道と環境−汚濁物文化を考える−」:稲場紀久雄 著

朝日新聞社

 本書では、下水道と人間や社会の関係、下水道と汚濁物文化のかかわりが、遠い過去から現在までどのように変化してきたか、そして将来どのように変わっていくべきかが主題となっている。
【主要な目次】:汚濁物と社会/下水道の社会的性格/社会的システムと下水道/技術からみた下水道/下水道システムの社会化

W. 会員の書評したもの

W-1.「水洗トイレの産業史」:前田裕子 著

名古屋大学出版会

 著者は「あとがき」の中で、「資料の山と格闘するなかで大倉和親という実業家を知ったこと、そして生産の現場で多くの素晴らしい方々にめぐりあえたことなど、予期せぬ収穫に溢れた六年余は、過ぎ去ってみれば充実したあっという間の時間であった」と、述べている。これを反映してか、本書は、膨大な量の文献調査結果と、数多くの関係者との面談から得た豊富な生の声とをないまぜての執筆であり、中身のたいへん濃いものとなっている。それは、参考文献が400冊を超え、注釈が800項目以上もあることからも明らかである。
 本書の目的は「水洗トイレが日本でどのように作られ普及してきたのかという、その過程、およびその背後で紡がれた歴史を提示」することにあり、それに携わった人々の思想や行動を克明に追うことにより、モノづくりの視点からみた水洗トイレ工業化の来し方を浮かび上がらせている。
 副題に「20世紀日本の見えざるイノベーション」とあるが、トイレの水洗化は都市機能や公衆衛生に革新をもたらしたばかりでなく、ひいては清潔感という心理面にも予期せぬ変革をうながしたのである。
 「目次」から本書の構成をみると、
 序章  トイレ「水洗化」の意味するもの
 第1章 前史−ブラマーの世界から
 第2章 もうひとつの前史−近代陶磁器業の展開と大倉父子
 第3章 衛生陶器の工業化
 第4章 水栓金具の工業化
 第5章 戦後住宅産業の発展と衛生設備機器メーカーの誕生
である。
 序章で、「本書の半分は衛生設備機器メーカーにまつわるさまざまな過去の検証に費やされることになる」と、予告している。
 第1章では、欧米の水洗トイレ産業の歴史を振返るとともに、日本における近代下水道の普及に伴う水洗トイレ産業の勃興に言及している。ここでいう「ブラマー」とは配管工のことである。
第2章では、近代陶磁器業の展開を述べる中で、大倉父子の人間像と企業家精神に迫っている。
第3章は、衛生陶器を国産化するにあたっての個々の技術開発にまつわる苦労話である。
第4章は、水洗トイレに命を与えている水回りシステムの金属部品(水栓金具)に焦点を当て、記述している。
第5章では、戦後の住宅産業の発展に伴い誕生した衛生設備機器産業(便器本体のみならずパイプやバルブなどを総合化した産業システム)の原点を掘り起こしている。
 著者は、「トイレの快適度が上がることによって人々の清潔感が変わり、あるいは環境問題に対する人々の認識に変化が生じることで、新たな潜在需要が呼び起こされ、それに対応する新しいトイレの提案につながる」と述べ、長年にわたって見過ごされ続けてきたトイレという設備が、最近ようやく市民権を得、正当な評価の対象となってきたとしている。
 広くトイレに関わる仕事に携わっている者に「仕事への一途さや大胆さやそれでいて謙虚さをなくさないことが更なる飛躍につながる」ことを教えてくれる、必読の書である。

W-2.「水洗トイレは古代にもあった」:黒崎直 著

吉川弘文館

 本書は、1998年に奈良国立文化財研究所から刊行された報告書『トイレ遺構の総合的研究』(著者は共同研究者の一人)を基に、その後の新しい資料や研究成果を加え纏めたものである。
「目次」から本書の構成をみると、
 プロローグ トイレ遺構とは
   T   トイレの考古学
   U   古代のトイレ―宮都のトイレ事情
   V   トイレ風土記―日本各地のトイレ事情
   W   トイレ遺構あれこれ
 エピローグ トイレ考古学のめざすもの
である。
 プロローグでは、トイレ遺構には、汲み取り式、水洗式、移動式、垂れ流し式、豚式などがあることを挙げている。
 セッションTでは、わが国で初めてトイレ遺構が確認されたのは、1980年の福井市の一乗谷朝倉氏遺跡からの「石積の金隠し」であるが、寄生虫卵の土壌からの抽出法が確立されてからは、藤原京、平城京、長岡京、平安京などの宮都跡からトイレ遺構が次々と発掘されるようになった経緯が述べられている。
 セッションUでは、文献史料に見える、あるいは絵画史料が語る、古代・中世のトイレ情報を駆使してのトイレ遺構の復元について言及している。
 セッションVでは、福岡県の鴻臚館跡や秋田市の秋田城跡や奥州平泉の柳之御所跡などの地方のトイレ遺構を俯瞰している。
 セッションWでは、貝塚での糞石などを手がかりにして、縄文、弥生時代のトイレ事情を探求し、トイレの変遷を概観している。
 エピローグでは、トイレ遺構に堆積している土壌には、古代の食生活、衛生、医薬、環境などの生活全般にわたる情報が詰まっていることを指摘し、トイレ考古学の将来に対しエールを送っている。
 「トイレ遺構は、よほど典型的な遺構でない限り、遺構の方から「はい、トイレですよ!」と手を挙げてくれない。調査員が意識的に探さなければその姿を見い出すことは不可能である」は、長年、調査員として夏の暑い発掘現場で汗を流してきた著者だからこそ、言える言葉である。
 これまでなおざりにされてきた日本の排泄の歴史を科学する「トイレ考古学」をその誕生の時から身をもって実践してきた立場から書かれた、若い研究分野への誘ないの意を込めた啓蒙書である。

W-3.「トイレの話をしよう」:ローズ・ジョージ 著、大沢章子 訳

NHK出版

 著者は「はじめに」の中で、「世界の十人に四人が掘り込み便所も、便器も、バケツも、箱さえもない暮らしをしている。… 彼らは、線路わきや森のなかで排泄している。… それ(排泄物)は、人々に踏みつけられて足の裏に付着し、指を介して衣服や食べ物、飲み物に混入する。… そこから病気にかかる率は恐ろしく高い。… なかでも、もっとも被害を受けているのは子どもたちだ」と述べ、地球規模でみると、トイレのない人々と水洗トイレを謳歌している人々との間に大きな格差が生じていることを指摘している。
 「排泄と人間の暮らしは、下水道と都市がそうであるように、切っても切れない関係にある」ことに気づいた、ロンドン在住の女流ジャーナリストである著者は、世界各国に出向いて、トイレや下水道に携わる様々な人々に会い徹底的な取材を行ったうえで、本書を執筆している。 「目次」から本書の構成をみると、
 はじめに 口に出して言えないものを調査する
 第1章  「おしりだって洗ってほしい」
 第2章  この香り、水路(カナル)の5番だぜ
 第3章  トイレを見れば、あなたがどんな人間かわかります
 第4章  さあ笑顔を見せて、トイレに着きましたよ
 第5章  寝室には豚を
 第6章  個室にプライバシーはある?
 第7章  ミルクセーキからケーキへ
 第8章  求む、夫。ただしトイレをもっていること
 第9章  貧しい人は、下痢をする余裕もない
 第10章 そろそろ糞尿について話し合うときがきた
である。
 第1章では日本における温水洗浄便座開発にまつわる秘話を、第2章ではロンドンの下水道に潜って目撃した清掃作業の模様を、第3章では世界トイレ機関が開催したトイレサミットについて、第4章ではインドにおけるカースト制と汚物清掃との関係を、第5章では中国でのバイオガス(糞尿を発酵させて得たメタンガス)利用の広まりを、第6章では世界の公衆トイレからみた西洋と東洋の文化の相違を、第7章では下水汚泥から生まれた有機肥料の安全性について、第8章ではインドにおける野外排泄問題を、第9章では都市のスラム地区における糞便処置問題を、そして、第10章では宇宙船での排泄問題解決技術から地球上でのリサイクル社会実現までの道程を、それぞれ、多くの人々の体験談から得られた、あるいは自らの目で確かめた、具体的な事実を積み重ねていくドキュメント的な手法で筆を進めている。
 人類は今衛生に関して、地球規模で危機に直面しているにも関わらず、大部分の人はそれに気づいていない。本書の目的は、人々にそのことを知らせて警鐘を鳴らすことにある。

W-4.「追跡! 私の「ごみ」」:エリザベス・ロイト著、酒井泰介訳

NHK出版

 自分が年間に出す1.31トンのごみが地球環境のなかでどうさまよっているのかに興味を持った著者は、ごみの行方を追跡する旅を思い立ち、まず、台所のごみ箱の中身を確認することから始める。著者は米国ニューヨーク州ブルックリン在住のジャーナリストで、家庭の主婦でもある。
 副題に「捨てられたモノはどこへ行くのか?」とあるが、まさに、ある時はごみ回収トラックに便乗し、またある時はごみ埋立地に一人で潜入し、はたまたリサイクル回収トラックの後を追うなど、体当たりで取材に挑んだルポルタージュである。
 「目次」から本書の構成をみると、
 序章   わが家のごみはいったいどれだけ
 パートT 埋立てる
 パートU 埋立てない
 パートV 流す
 パートW 増えつづける
である。
 パートTでは、ニューヨーク市のごみ回収作業とその終着地である埋立地の実態を、汗を流しながら驚きの目で描写している。
 パートUでは、埋立てとは別のルートを辿るごみについて、それぞれ個別に追っている。生ごみは有機肥料に姿を変え、紙ごみは段ボール、新聞用紙などの再生紙にリサイクルされ、くず鉄などの金属ごみは溶かされて再度資材化されることを自分の目で確かめている。一方、有害物質を含む電池や電子ごみや廃水銀などの行方を追って精錬所を、プラスチックごみを追跡してその再生工場を、それぞれ訪ねている。
 パートVでは、液状廃棄物である屎尿や汚水について、その中に含まれるトイレットペーパーや廃油を追って、終末の下水処理場にまで出向き、下水汚泥の有機肥料などへのリサイクルに言及している。
 パートWでは、ごみゼロ運動の実践を取材し、それでもリサイクルできないものが残るのではないかと反問している。
 著者は、「ごみを捨てる個人も責任は免れないが、メーカーも無罪ではない」という考え方に行き着く。その結果、発せられた「台所でやっているリサイクル努力は、道徳的行為だと思う。それによって日常生活と自然とのつながりを再認識することができる。自然こそ身の回りの商品の源泉なのだから」という一言は、言い得て妙である。

W-5.「江戸下水の町触集」:栗田彰 著

日本下水文化研究会 下水文化叢書

(1)この人ありて
 221年間にわたる「江戸町触集」17,842件の中から下水に関するもの157件を採集するだけでも大変な作業であるのに、これに「読み下し文と註」を整えて江戸下水に関する町触を集大成されたことは‘栗田さんありて’はじめて実現できたことです。その上、学識にじみ出る綿密な「ひと言」を綴られて江戸下水を案内していただけるのはありがたく、また、その文中の随所にお人柄がにじみ出ていて、誠に味わい深い叢書となった。
(2)下水道管理の原点
 町触の中でもっとも早いのが正保5年(慶安元年、1648)のもので、ここにはすでに「下水浚えと下水へごみ芥を捨てるな(1)」(※カッコ内は目次の通し番号、以下同じ)という下水道管理の基本が出ている。まず「下水浚え」はリスト表(117ページ)にもあるように、それ以後もしばしば触れ出された。大坂(※近世の大阪市の意)でいうと毎年4月15日に出された「水道浚え」である。つぎは「ごみ芥を御堀、町屋の入堀、表裏の大下水、空き会所に捨てるな(19、30)」と具体的に例示されている。大坂ではすべて「川筋掟」のなかで扱われた。
 「下水改め(2)」は奉行所の「下水御改役(48)」によって下水の管理状態が点検されたことであり、この町触も以後しばしば出されている。これは武士の町・江戸ならではのことであり、町人の町・大坂ではこの種の町触はほとんどない。次に下水普請の入札に関する町触が多数みられ、そこから「新下水の工事費は間口割りで負担(76)」、「上水道投げ渡し樋や上水樋枡の修復費は町々か組合で負担(50、125)」などが分かり、また、幕府の都合で町内の下水吐口が塞がれた代わりに新たに作られた下水の費用をどちらが持つのか(106)といったものもあり、関心をひくところだ。なお、下水を管理するための組合には3つの形態(町方のみ、町方と武家方、武家方のみ)があり(258ページ)、とりわけ普請に要する「入用出銀割合の類例調べ(131)」というのは現代風であって大坂では類例をみない。
(3)江戸と大坂の違い
 江戸では「下水改め」と「普請の入札」に関する町触が頻繁に出されているが大坂ではそれほど多くはない。しかし、なんといっても江戸と大坂の大きな違いは上水の有無にある。大坂には上水はなく、その用語すらないのに対し(*下水は水道と呼ばれた)、江戸では町中に上水と下水が共存しており、そのため、「上水の上、下水渡し戸樋(39)」、「下水吐けの上を通る上水投渡樋(50)」、「大下水の上渡樋(※神田上水の樋)(73)」などの独特の構造と表現が見られる。
 また、家の庇と雨落溝の関係は「庇下、京坂は屋外なり、江戸は屋内なり」(近世風俗志)といわれるように京坂と江戸では違っていた。江戸では「下水内一間の庇下につき三尺は自分地面、三尺は公儀地(119)」であり、そこは誰でも自由に通行できる空間であった。しかし、山王御祭礼神輿の道筋では「桟敷を雨落溝より外へ出すな(157)(※これが最後の町触)」と公儀地を占拠することが禁じられている。
(4)町触集の用語
 かつて、近世の下水道に関する用語を調べたことがあった。きっかけは大坂に、なぜ下水や下水道という用語が出てこないのか、なぜ下水のことを水道といったのか、ということから始まった。
 この「町触集」には江戸で使われた下水道用語が随所に出てくる。「下水と溝(1ほか多数)」、「大下水と小下水(7ほか多数)」、「御公儀大下水(104)」、「下水奉行(21)」などであり、また「下水道リスト(101ページ)」もあり、それに大坂と同じように下水を「水道(38)」といった例も出ている。道路の両側にある「雨落下水(10ほか多数)」のことを「家前下水(107)、家前雨落下水(110)、往来雨落下水(115)」ともいい、いかにも表現が豊かである。そのほかに「下水樋(49)、下水戸樋(35)、町境大下水(118)、往還跨下水(116)、下水橋(56)、下水石橋(31)、下水板橋(123)」などバラエティに富み、大坂ではお目にかかれない表現に出くわす。
(5)下水文化の宝庫
 江戸の下水文化について、本書のように編年史的にまとめられ体系づけられたものは現在までなく、また、これからも出そうにない。東京の下水道人多しといえども江戸下水の文書をここまで読み解ける人は誕生しそうにないからだ。本書は、まさに下水文化を探る宝庫ともいうべきものである。
 下水文化に関心をもつ者は、著者の13年間にわたる取組みと労苦を肝に銘じて、すべからく本書を拝読すべきである。さて、この小文のタイトルは「町触集を読んで」とあるが正しくは「拾い読みだけして」ということであり、これから味読することはいうまでもない。


X. その他の関連図書(主に国内の話題)

X-1.「下水道ビジネスの新発想」:鶴蒔靖夫 著

TN通信社

 下水道管路は、人間の身体にたとえるならば、いわば静脈である。健康管理が大切であるのと同様に、下水道管路施設に関しても点検・検査・清掃・補修などの維持管理は欠くことができない。本書は、下水道管路管理の専門会社である管清工業の事業活動を紹介するとともに、広く現代社会を支える下水道の果たす役割について検証したものである。
【主要な目次】:社会における下水道の使命と役割/下水道管理事業パイオニアの目/企業の論理と経営哲学はトップ次第/日々の生活を支える管路ドクター/環境時代に照応する下水道ビジネス/下水道は生活文化という認識が必要

X-2.「物語ものの建築史 便所のはなし」:山田幸一 監修、 谷直樹・遠州敦子 著

鹿島出版会

 今日のトイレは清潔なものになった反面、あまりにも機能優先に走りすぎ、ともすればトイレの文化的側面がなおざりになっているとの指摘がある。本書は、建築史、住宅史の視点からトイレにまつわる興味あるテーマを「雑学事典」風に纏めたものである。
【主要な目次】:水洗便所は古事記の昔から/平安京の都大路は庶民の野外便所だった/モースも絶賛した和風便所の芸術性/農業生産を最優先にした農家の外便所/厠には美人の神様がおられる/日本最初の汽車便所/トイレは現代人に残された最後の個室/現代公衆トイレ ベスト・テン

X-3.「トイレの大常識」:平田純一 監修

ポプラ社

 学習よみものシリーズの一つであるが、大人が読んでも十分堪能できるトイレに関するこれだけは知っておきたいネタが満載されている。
【主要な目次】:二本足への進化がまねいた「しりふき」/ゲルマン民族のお気に入りは「穴あき椅子トイレ」/ウンチの化石から何がわかる/紙のない時代、おしりはどうやってふいた?/京女は立ち小便じょうず?/上方と江戸のトイレはここがちがう/トイレをあらわすことば/オシッコと健康についてかんがえる

X-4.「環境考古学への招待」:松井章 著

岩波新書

 貝塚で発掘された骨のかけらから縄文人の食生活を推理し、遺跡の土の分析から古代のトイレをつきとめる環境考古学の豊富な成果が紹介されている。
【主要な目次】:食卓の考古学/土と水から見える古代/豚と犬に出会う/牛馬の考古学/人間の骨から何がわかるか/遺跡保存と環境

X-5.「古今黄金譚」:林望 著

平凡社新書

 糞尿から生まれる神々がいる。便所に暮らす姫や、人びとの前で脱糞する高僧がいる。日本文学史をひもとけば、そこに連綿とした糞尿譚的記述が発見できる。
【主要な目次】:古代の糞尿を探る/色好みとオコ、そして糞尿/罪、汚れ、そして神聖/哄笑の中のクソ/脱俗の脱糞

X-6.「ウンコに学べ!」:有田正光/石村多門 著

ちくま新書

 本書は、誰もが正面から見据えようとしないウンコを通して、現代科学から倫理までを語る。ヒステリックなエコロジーの書ではなく、抱腹絶倒なのに役に立つ、おもろしい科学読本である。
【主要な目次】:あなたのウンコはどこへ行くのか/水田−土と水とウンコのバラード/ウンコの黄金時代と糞まみれの経済/ウンコをしない自立とする連帯/ウンコに学ぶ環境倫理

X-7.「農民哀史から六十年」:渋谷定輔 著

岩波新書

 一人の農民詩人が弾圧下の農民運動にとびこみ、多くの人びとと運命的に出会う。「農民哀史」の著者が、激動の80年の体験を情熱をこめて語る。屎尿(タメ)曳きの話も。
【主要な目次】:沈黙の憤怒/東京から送られてくる屎尿/貴重品だった化学肥料/肥料をくう桑畑/甘くない有機農業/問われる近代的糞尿観/高度成長と化学肥料一辺倒/近代文明に根ざす新しい問題

X-8. 「日本世間噺大系」: 伊丹十三 著

文春文庫

 本書の中に、「天皇日常(猪熊兼繁先生講義録)」と題する一章がある。文体からして聞き書きと思われる。宮中におけるトイレ事情も赤裸々に語られている。

X-9.「沖縄トイレ世替わり」:平川宗隆 著

ボーダーインク

 本書は、沖縄の便所文化がたどってきた道を中心に、日本の本土や世界各地の便所文化についても言及している。特に、沖縄でかつて使用されていた豚便所に関する記述には、著者が獣医師であるだけに、50余頁をさいている。
【主要な目次】:便所の起源/フール(豚便所)の時代/汲み取り便所の時代/水洗便所の時代/尻拭いの文化/これからの便所の課題

X-10.「落し紙以前」:齋藤たま 著

論創社

 紙の前は何で拭いていたのか? 日本各地を訪れて歩いて聞き集めた便所にまつわる民俗誌である。
【主要な目次】:葉(柿、とうもろこし皮、藁、蕗、葛、朴、栃)/縄/ちゅうぎ/カワヤから溜へ/乾式便所/下肥/フール/雪隠まいり/汚物の呪力/夜糞どの/くそ

Y-11.「おまるから始まる道具学」:村瀬春樹 著

平凡社新書

 骨董市で、なんだか気になるモノがある。これは何に使うのだろうか?どんな工夫があるのだろうか?道具を手に取り、面白がり、集め、連ね、調べてみると、人間の歴史と暮しの実像が、自ずと浮かび上がってくる。
【主要な目次】:ヒトの歴史は道具をして語らしめよ/「入口」の器と「出口」の器/酒瓶転じて湯たんぽとなる/ロック&ロール道具学/日本人の足の裏には/日本文化のエッセンス=厠下駄

Y-12.「大江戸リサイクル事情」:石川英輔 著

講談社文庫

 人口百万を数え、近世では世界最大の都市といえる江戸。膨大な日常消費は草の根レベルの活発なリサイクルで支えられていた。藁、竹、灰など、みな太陽エネルギーの有効利用でよみがえる。現代では忘れられ、失われてしまった江戸庶民の合理的でムダのない暮しの知恵を述べている。
【主要な目次】:照明は去年の太陽だった/稲藁が国を支えた/竹は万能の素材だった/着物は畑でできた/食べものは肥料の原料だった/家庭の竈は化学工場だった/江戸のリサイクル

Y-13.「みみずのたはこと(上・下)」:徳富健次郎 著

岩波文庫

 明治40年、蘆花は40歳。東京を西に去ること3里の地・武蔵野粕谷、1反5畝の土地に、15坪の草葺きの家。井戸をさらえ、肥桶をかつぎ、麦をまき、犬を飼う、「美的百姓」の始まりである。
【主要な目次】:不浄

Y-14.「トイレの穴」:夏目房之介 編

福武文庫

 人には言えないトイレにまつわる恥ずかしくもユーモラスな体験談や事件などをテーマにした文章を揃えたアンソロジーである。
【主要な目次】:山田風太郎・春愁糞尿譚/遠藤周作・臭い仲/水木しげる・トイレ談義/東海林さだお・一発五リラ/谷崎潤一郎・厠のいろいろ/別役実・正しい立小便の仕方/夏目房之介・東西比較便器論/荒俣宏・日本人的排泄論

Y-15.「河童が覗いた トイレまんだら」:妹尾河童 著

文春文庫

 森羅万象を覗きまくる男が、ついにヨソ様のトイレまでも! 各界で活躍する52人の家のトイレが、あの河童流俯瞰図とインタビューによって、白日の下に晒される。
【主要な目次】:有名人のトイレを訪ねての各論/洋の東西 昔の便所/ミジンコ騒動の巻き/昔の便所はこうだった/宇宙船のトイレ/アジア各国のトイレ/厠からトイレへ

Y-16.「トイレット部長」:藤島茂 著

文藝春秋新社

 駅舎の建築に携わったことから、トイレに関わりを持つようになった著者が語る。トイレ談義も。
【主要な目次】:便所課長/駅長と汲取料/有料便所/便所の作法/杉の葉とジェット

Y-17.「都市と農村の間」:渡辺善次郎 著

論創社

 都市近郊農業史は、都市と農村の歴史をつなぐための「失われた環」であるとの観点に立った論考えある。
【主要な目次】:古代・都市廃棄物の処理方法/中世・下肥利用の開始/近世・下肥利用の展開/西欧における都市廃棄物の肥料化

Y-18.「近代日本 都市近郊農業史」:渡辺善次郎 著

論創社

 「都市と農村の間」の続編である。
【主要な目次】:東西における下肥利用の歴史/都市肥料をめぐって/下肥の入手形態/都市屎尿問題の発生/屎尿汲取りの有料化/下水道と下肥利用 戦時下の屎尿処理 
【内容紹介】
1.「都市近郊農業史論 都市と農村の間」
  1)「まえがき」より
 「元来、自立的な存在ではありえない都市を、農村から切り離して考えることはできない。… 都市と農村とを一体のものとして捉えるためには、まずその両者が直接に混ざりあい、ぶつかりあっている「都市近郊」にこそ注目すべきであろう。… 長年、都市近郊農業の現状分析をテーマとして追求しながら、これまでの近郊農業はどうであったか? また他の国々ではどのようなものであったか? という素朴な疑問が常に脳裏を離れなかった。… 本論では日本の近郊農業史を書き、補論ではそれとの関連で海外の近郊農業史にふれた。」
2)主な目次(屎尿に関わるもの)
 第T章 古代日本の都市と近郊
  4 都市廃棄物の処理方法
 第U章 中世都市の生成と近郊農業
  6 下肥利用の開始
  補論 宋代における野菜の商品化と下肥利用
 第Z章 都市下肥の利用構造
 終章  現代への架橋
2.「近代日本 都市近郊農業史」
1)「まえがき」より
 「われわれはいま、新しい都市・農村関係のあり方を考えなければならない。本書のめざす目標は、そのための一つの手がかりとして、過去における都市・農村関係の変遷過程を描き出すことである。本書ではその舞台を主に都市近郊に求めた。都市近郊こそ都市と農村という二つの世界が相接し、交流しあうトポスだからである。」
2)主な目次(屎尿に関わるもの)
 序章 近代都市・農村関係の起点
  2 東西における下肥利用の歴史
第T章 近代近郊農業の黎明
  3 都市肥料をめぐって
第X章 郊外化の時代
  3 都市屎尿問題の発生
第Y章 戦前・戦時期の都市と近郊
  5 戦時体制下の都市と近郊
(2) 戦時下の屎尿処理
3.著者紹介
 渡辺善次郎
 1932年、東京に生まれる
 1961年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程終了
     国立国会図書館に入り
     農林課長
     海外事情課長を経て
     専門調査員
 1991年 退職
 商学博士
 現在、都市農村関係史研究所主宰
 主著 「聞き書・東京の食事」(編著)1987年、農文協
    「巨大都市江戸が和食をつくった」1988年、農文協
    「農のあるまちづくり」(編著)1989年、学陽書房
    「東京に農地があってなぜ悪い」(共著)1991年、学陽書房
 

Y-19.「し尿消化槽の足跡」:東京都下水道局砂町水処理センター 編

 砂町処理場における屎尿処理事業は、昭和28年2月から57年3月までの30年に及ぶ間、清掃本部(清掃局)からの委託を受けて「施設の建設と管理」を行っていた。本書は、この施設の実績や思い出話などを後世に伝えようと、関係職員が自主的に編集した記念誌である。
【主要な目次】:し尿処理施設の変遷/施設の改善/砂町処理場のし尿消化槽

Y-20.「屎尿の貨車輸送に関する資料」
出典;「上福岡市史 通史編下巻 近代、現代、民俗」 上福岡市
  p.685〜(「駅前の町場成立の前段、 下肥おろし場」)

 「貨物の積みおろし場南側の線路際に、下肥おろし場が作られた。このおろし場の貨車ホームの屋根は大きく、その下にはタメ(下肥)樽を洗う場所が設けられていた。
 後にはコンクリート製の大きなタメオケという貯留槽も作られた。
 下肥は、畑に良くきく速効肥料として化学肥料より安かったため多くの使用があった。
 上福岡駅の下肥運搬は、1919(大正8)年3月より貨物輸送が開始された。東京から輸送してきた下肥積みの貨車一両分のことを「イッシャ(一車)」といい、ここには肥樽188本乗せることができる。その一本の下肥は、およそ10貫匁であったという。
 上福岡駅に降ろされた下肥輸送を年次的にみてみると、1923(大正12)年頃まで一ヶ月毎に、貨車が70車両到着し、価格は一車25円38銭になっている。この年を境に減少し翌年より一ヶ月毎に50車両、価格も一車20円68銭に下がってきた。また、1925(大正14)年より1932(昭和7)までは一ヶ月毎に30車両、価格は一車14円10銭になった(近藤光男家文書)。
 下肥おろし場のホームに貨車が夕方到着すると、上福岡駅の貨物係の駅員や作業員が肥料を降ろす準備をする。そのあと貨物係によって下肥おろし場でタメ樽の荷渡しが始まる。そこに下肥を取りにいくことを「タメ曳きに行く」といって、市域や大井村、三芳村の上富などから大勢の農家の人が来てにぎやかであったという。
 1938(昭和13)年頃になると、東上線の下肥の貨車輸送も少なくなってきた。これは、東京市の汲取清掃事業と合わせて自動車輸送が多くなり、船や貨車から自動車に取って代わるようになってきた。そのため、同じ東上線の小谷村(現富士見市)下肥おろし場が、1938(昭和13)年6月に廃止(「東武鉄道65年史」)されているので、上福岡駅の下肥おろし場も同じ頃になくなったと思われる。」
                                       「20世紀を語る 古写真」(市史調査報告書第19集)
2001、3 上福岡市教育委員会
p.7  下肥船(昭和初期)
p.17 下肥船
p.21 下肥船


Y. その他の図書(主に海外の話題)

Y-1.「風呂トイレ讃歌」:ローレンス・ライト 著、高島平吾 訳

晶文社

 人類に最も愛されながら、最も隠蔽されてきた空間である−風呂やトイレ−。そこに注ぎ込まれた崇高な情熱と天馬空を行くが如き想像力をもって、膨大な資料を駆使して甦らせた、ついぞ語られることのなかった文化史である。
【主要な目次】:ところ変われば/すべての風呂はローマから/聖者のかおり/中世の礼節/羽根柄ほどの給水管で/臭気の街/豊饒の泉/ああ、「イギリスどころ」/寝室のハーレクィン/王室ナンキンムシ/コレラのお通り/ウォーター・キュア/だが、水に効験ありや?/湯わかし器に幸あれ/水とともに去りぬ/水道屋発奮

Y-2.「トイレの文化史」:ロジェ・アンリ・ゲラン 著、大矢タカヤス訳

ちくま学芸文庫

 本書は、フランス人がトイレに関してこれまでどのような努力してきたかについて、豊富な資料を用いて時代順に述べたものである。
【主要な目次】:穴あき椅子、溲瓶、おまる/最後の微風が吹く頃に/公衆衛生局の起源/下水道なしに街路なし/便座上の規律/自由を抹殺する方法/パリの公衆便所/ゆっくりと、人目につかぬよう

Y-3.「物語 下水道の歴史」:齋藤健次郎 著

水道産業新聞社

 近代下水道の始まりは、西欧においては19世紀の初頭まで、また、下水道と同じ機能を持った土木施設の始まりは紀元前にまでさかのぼることができるのです。明治維新時、我が国では最先端の西欧文明が積極的に取り入れられ、下水道もそのひとつでしたが、残念ながら、その下水道文明が確立されるまでの、西欧諸国での苦闘や歴史的経過については十分に学び取ることをしなかったようです。本書は、西欧諸都市の下水道の歴史を紹介する目的で書いたものです。(あとがき より)
【主要な目次】:古代の下水道/ローマ帝国の下水道/パリの下水道−その時代的背景/ロンドンの下水道−あるポンプの一生/ベルリンの下水道−運搬式か暗渠式か/ミナト・ヨコハマの下水道−わが国の下水道のはじまり

Y-4.「はばかりながら「トイレと文化」考」:スチュアート・ヘンリ 著

文春文庫

 排泄物や排泄行為への対し方は、その文化によってさまざまである。他人と並んで楽しく行うやりかたもあれば、絶対に見られまいとする人たちもいる。本書は、トイレの歴史、糞尿の利用法など人とこの排泄物の長いつきあいについて、エピソードを交えて文化人類学的に考察するものである。
【主要な目次】:排泄行為と羞恥心について/清潔感について/お尻を拭く話/極寒の世界で/トイレの変遷/石の文化とトイレ/糞尿の利用法 

Y-5.「寄生虫博士の 中国トイレ旅行記」:鈴木了司 著

集英社文庫

 著者が消えたらトイレを探せ。そんなうわさが関係者の間に流れるほど、トイレの研究にはまってしまった寄生虫博士の手になる本である。馬桶は「おまる」の原型か、糞便を豚や魚の餌に使うためのトイレの工夫。戸もなければ仕切りもないトイレにびっくりしながらも、絶対に許されない男女共用トイレに、中国文化の一面を知る。
【主要な目次】:家族計画と回虫とトイレの関係/穴を掘っただけの坑厠/川の上のトイレ/御虎子/小便小娘/便壷を交互に使う双坑式/回虫の感染をどう防ぐか/中国最初の民営の検便機関

Y-6.「糞尿博士・世界漫遊記」:中村浩 著

現代教養文庫、社会思想社

 著者は、糞尿を食糧に変化させる方法はないかと取り組み、糞尿を培養基として、緑の高タンパク質・クロレラを培養することに成功した。食糧革命の一大構想を携えて世界中のウンコ学者を訪ねて真剣に話し合い、また単身砂漠でその構想を実践する、痛快な旅行記である。
【主要な目次】:金魚のなぞ/黄金のスープ/糞玉ころがし/アウトバーンの野糞/パリのクソ談義/宇宙旅行と糞尿/宇宙食/アリゾナ砂漠へ/食糧革命/スピルリナの開発

Y-7.「自叙伝/日本脱出記」:大杉栄 著

岩波書店

 「日本脱出記」の中のパリの便所の項は、1923年4月30日 パリにて と記されており、臨場感あふれたトイレ談義である。
【主要な内容】:安ホテルのトイレ/高級ホテルのトイレ/有料の辻便所 

Y-8.「トイレになった男」:ウォレス・レイバーン 著、ウサミ ナオキ 訳

論創社

 副題に「衛生技師 トーマス・クラッパー物語」とある。ヴィクトリア朝時代のイギリスで、近代初となる水洗トイレを発明したトーマス・クラッパーの物語。エドワード7世、ジョージ5世に仕えた英国王室御用達技師の「糞尿まみれの一代記」である。
【主要な目次】:本国が称えなかった先駆者/チェルシーの少年水道工/確実な水洗も節水も/鎖が動かなくなるのは/どうか音がもれませんように/水道工事は命がけ/4枚の王室御用達認可状/現場の発明家/座りごこちも快適に/トイレの異名さまざま/トイレットペーパーの変遷

Y-9.「トイレットからの発想」:ヴァン・デァ・リン 著、西村肇・小川彰 訳

講談社

 著者はアメリカの建築学者である。副題に「人と自然をよみがえらせる法」とあるように、コンポストトイレの設計者でもある。本書の主題は、下水道政策の不合理をつくこと、と、どうしたら現状を変えていけるか、である。
【主要な目次】:トイレに関する歴史的・哲学的考察/切断された生態系の連鎖/見直されるドライトイレット/ファラローヌ型コンポストトイレの仕組を研究する/リサイクル入門/コンポスト・ボックス実験始末記/都市下水道のしくみ

Y-10.「トイレおもしろ百科」:アダム・ハート・デーヴィス 著、藤沢邦子 訳

文春文庫

 古今東西のトイレにまつわるあんな話、こんな話を、アルファベット順に集大成した「はばかりながらトイレ考」である。ジョークやエピソードを満載した雑学の宝庫。
【主要な項目】:エコトイレ/コンポストトイレ/生物学的トイレ/ピット式トイレ/土かけトイレ/樋式トイレ/下水路/洗い出し式クロゼット/屋外便所/家具調便器/サイホンの作用/水洗トイレ/室内便器