屎尿・下水研究会

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愚者の質問

地田 修一 氏



目次
究極の循環型社会
水と共に、アレはいずこへ去りぬ?
水に流れる都市生活の縮図
下水汚泥の有効利用法、ABC
自然の摂理と都市化の狭間で
糞尿の潜在的エネルギーの大きさと、ロスと
自然のものは自然に還す
大量生産・大量消費・大量廃棄のツケ

 愚者 我々はみんな文科系でホント無知なもんですから、もう無知をさらけ出して 恥ずかしげも無く素朴な質問をお聞きしていこうと そのプロフエッショナルな方に、という企画で始まったものなのですが。
 賢者 はいはい
 愚者 えー、バカなことをいろいろとお聞きしますけれども、もう、無知蒙昧なんで
 賢者 いえいえ(笑)


 2008年冬 −。
 近い将来、資源が枯渇してしまう宇宙船地球号。残された資源の有効利用を含めた循環型の社会形成が、今、切実に求められています。
 今回の対談は、資源の再利用としての究極とも言える糞尿(ウンコ)のエネルギー化について、専門家に詳しいお話を伺いました。

質問者
 塾長  倉本 聴
 副塾長 林原博光
(収録2008年2月29日)

今号の賢者
 下水文化研究家
 地田修一(ちだしゅういち)
 NPO法人日本下水文化研究会 運営委員会副代表
● 略 歴
 1943年 新潟県柏崎市で生まれる。その後東京都立川市へ。
 1966年 東京水産大学(現東京海洋大学)増殖学科卒業。東京都庁に入り下水道局で水質検査に従事。定年退職するまで局内で下水処理場長、技術開発課長、下水管理事務所長等を歴任する。
・2001年(株)日立製作所に技術顧問として入社。かたわら日本下水文化研究会の運営委員を務める。
● 著 書(共著)
 「有機性汚泥の緑農地利用」/「江戸・東京の下水道のはなし」/「トイレ考・屎尿考」/「ごみの文化・屎尿の文化」他
   <NPO法人日本下水文化研究会 入会案内より>

 「下水文化」は、清らかな水環境を再生させ、水循環社会を形成するために最も大切なもので、私たちの生活と水との関係をより密接なものに変える力を持っています。何故なら、賢い水の使い方、水を汚さない知恵、水を介した豊かな生き方などを通して、一度遠ざかってしまった私たちと水環境との距離を再び近づけてくれるからです。「下水」は、都市や家庭で生じた「汚れた水」であるだけに、これまで、できるだけ速やかに遠くへ持ち去ろうとしてきました。そのために、下水とともに何を流しているのか、流した先で何が起きようとしているのかということにあまり注意を払ってきませんでした。しかし、水循環社会の形成のためには、「下水」に目を逸らさずに直視することが何よりも大切です。そこから初めて水環境の蘇生の展望が開けるでしょう。水を「還し」また「活かす」ことを念頭に置いた[下水文化」の成熟こそ『命の水』を守り、次世代へ継承する要諦なのです。
※詳しくはホームページをご覧下さい。(http://www.jca.apc.org/jade/index.htm)

*風力発電
 風力で風車を回し、発電械を作動させる発電方式。風速の変動により安定供給が左右されるという短所もある。
*地熱発電
 主に火山活動によって地中から噴出する蒸気でタービンを回して発電させる発電方式。
*クリーンエネルギー
 石油・石炭などの燃焼や原子力と違い、大気汚染物質を発生しないエネルギー。風力・地熱・太陽熱・波力など。
*メタンガス
 油田やガス田で採掘される天然ガスに多量に含まれる無色・無臭の可燃性の気体(化学式CH4)。有機物の腐敗・発酵によっても発生する。燃料用のガスとして 都市ガスなどに使用されている。メタンは強力な温室効果ガスでもあり、同量の二酸化炭素の約20倍の温室効果があると言われている。

究極の循環型社会

 倉本 あのー、実はですね、今回ウンコを取り上げたいというのはですね、今、エネルギー問題でいろいろ、(*)風力発電とか(*)地熱発電とかある訳ですけれども、その(*)クリーンエネルギーがね。
 地田 はい。
 倉本 ウンコをクリーンというかどうかは知らないんですけれども(笑)富良野市に今、観光客が、200万人ほど来て。
 地田 ほー。
 倉本 人口は2万5千なんですけども。で、彼らがその、富良野の人たちは、彼らが落とす金を期待している訳ですよ。でも僕は金よりも確実に落とすのはウンコではないかと。
 地田 はい。
 倉本 200万人が滞在中にね。で、それを、何かこうエネルギーとして使えないものだろうかということを考えたんですね。
 地田 はーはー。
 倉本 例えば中国の農村なんかでは、あの、(*)メタンガスで料理までしてますよね。
 地田 えー。
 倉本 あーいう形のものが、何か、する方法はないのかということを、考えておりまして、ずっと。

*中村浩先生
 中村浩(1910年〜1.980年)
 微生物学者。理学博士。日本クロレラ研究所副所長。食糧危機の回避のため宇宙食の開発を提唱。糞尿を培養基として高たんばく質のスピルリナ(クロレラ)を培養することに成功。著書『糞尿博士・世界漫遊記』他
*クロレラ
 淡水産のクロレラ属の緑藻の総称。光合成能力が高く、緑色植物として最も繁殖力が強い。たんばく質を多く含むため飼料・飲食品に混入されたり、汚水浄化に利用されたりする。
*水質検査
 水の色・におい・硬度などの性質、化学物質や細菌の有無などを検査すること。

 地田 あーはぁはぁ。
 倉本 それで、あのー、(*)中村浩先生とおっしゃる、糞尿博士が昔いらして、クロレラの研究を、ずっとやってらっしゃった。砂漠の中で自分の糞尿でクロレラを培養して、こう、再生して食事をしちゃうという方がいらっしゃいましたけども。食料の中でのそういう循環ということと、同時に、エネルギーの中で循環というものは出来ないのかっていうところから、お伺いしたいということなんですね。
 地田 判かりました。
 倉本 地田さんは東京都の下水のことをやってらしたんでしたね?
 地田 ええ、学校を出てすぐに東京都の下水道局へ入りまして、58歳までおりました。
 倉本 そうですか。
 地田 (*)水質検査を主に。下水処理場で。
 倉本 成程。あのー、例えば、エネル源(ゲン)になるもの、エネルギーの元になるものというものは、処理場で綺麗にして流す水のほうじゃなくて、残ったカスのほうにそのエネル源があるという気がするんですけれど?
 地田 おっしゃるとおりです。
 倉本 ええ。
 地田 下水の世界では、汚れた水を締麗にするのが仕事なんですが。一般の方は、あんな汚い、それこそ糞尿が混じってるヤツが、こんなに綺麗になったと。コップで透かしてみて、あー綺麗になりましたねで終わると思うんですが。
 倉本 ええ。
 地田 その汚れたモノが濃縮した汚泥(オデイ)、汚れた泥と書いて汚泥っていうんですが。

*有植物
 動植物を構成している炭素を主な成分とする物質。
*窒素
 無色・無味・無臭の気体で、空 気中に78%含まれる。元素記号はN。窒素化合物はタンパク質の重要な成分で、すべての生物にとって必須の元素である。
*リン
 鉱物・動植物界に広く存在する。元素記号はP。動物の骨や歯の構成成分。農業ではリン酸が、カリウム・窒素などとともに肥料の主要成分である。
*汲み取り式
 便槽に貯留された汚物を定期的にバキュームカーなどで汲み取る方式の便所。下水道の発達していない地区で、1970年代まで多く使われていた。

 倉本 ええ。  地田 この処理が、我々の本当の仕事です。
 倉本 成程。
 地田 おっしゃったように、その中に(*)有機物が詰まっておりまして。
 倉本 ええ。
 地田 (*)窒素だとか(*)リンだとか、そういうものも、もちろんあります。
 倉本 成程。
 地田 で、エネルギーに変えるには、98%くらいは水ですから。まず水分をもう少し搾り取らないといけないんです。
 倉本 ええ。
 地田 ある程度水分を減らした形にしまして、そこから先、例えばエネルギーを取り出すんだったらどうしようかとなります。
 倉本 ふーむ。
 地田 もっと嵩(カサ)を減らそうというんだったら、強引に850度ぐらいで、燃やしちゃうとか、いろいろなやり方がそこから分かれてきます。
 倉本 あー、成程ねー。だから邪魔なモノだから処理して正常化しようという発想と、そこから、これは資源だから資源を取り出す、という発想では、処理の仕方も変わってくるんですね。
 地田 そうなんです。
 倉本 そうですよね。で、ここも、富良野で僕が住み始めた最初はボットン式の、(*)汲み取り式の、壷式のトイレだったんですね。

*浄化槽
 公共下水道に繋がらない地域において、水洗式便所と連結して、糞尿を分解・浄化するための装置。昭和58年、浄化槽法によって浄化槽の設置や保守点検等が定められた。
*バキューム
 汲み取り式便所の糞尿、浄化槽に貯まった汚泥の回収を行う自動車。下水道の普及により急速に姿を消したが、仮設トイレや下水道が完備されていない場所など、一定の需要はある。
*六本木ヒルズ
 東京六本木六丁目再開発計画の一環で建築された、超高層ビル「六本木ヒルズ森タワー」を中心とした複合施設。2003年オープン。1日に約13万人が利用し、年間の来場者数は約4400万人(2005年度)

 地田 はい。
 倉本 で、今は(*)浄化槽なんです。
 地田 はい。
 倉本 で、浄化槽ってやつは、締麗にして下の沢に、検査を経て流しているんですね。そうすると、その残ったモノが、今言った、エネルギーの源になるような気がするんですけど、そう解釈してよろしいんでしょうか?
 地田 はい。そこに詰まっている訳です、エネルギーの元が。
 倉本 それは年に何回か(*)バキュームが来て取っていくんですけどね。これが資源ですか? エネルギーとしての。
 地田 そうですね、アレを邪魔モノだと思えばバキュームで取っていってもらえば、それでいい訳です。
 倉本 ええ。
 地田 それでまた浄化槽が正常に機能し始める訳ですから。
 倉本 ええ、ええ。
 地田 ところが、アレを資源だと考えると、またいろんな方法が、枝分かれしてくる訳ですね。
 倉本 そう思うんですね。

水と共に、アレはいずこへ去りぬ?

 倉本 例えばホテルですとか、例えば(*)六本木ヒルズの下にも大きな浄化槽があるんですか?

*トリビアル
 くだらないこと、雑学的な事柄や知識、豆知識。
*ビチ
 下痢気味の大便の俗称。
*水洗便器
 便器に水道管を接続して、流水により便器内の排泄物を洗浄する便所。都市部では、下水道普及率の上昇に伴い大部分の便所が水洗式に。

 地田 東京の六本木ヒルズだと下水道が完備していますから、そのまま下水道管に流してしまいます。
 倉本 全部?ソノ、大きいほうも?
 地田 ええ。
 倉本 小さいほうも?
 地田 ええ。下水道が完備しているということは、そういうことです。ホテルであろうが、一軒の家であろうが、全部、下水道管に直結しています。
 倉本 もったいない!ちょっと、(*)トリビアルな質問をいたしますが、トイレから出ている管ってそんなに太いものじゃないでしょ?
 地田 ええ。
 倉本 しかも、こう曲がったりしてますよね。
 地田 ええ、すぐ下のところで、はい。
 倉本 そこに、その…(*)ビチならともかく(笑)あの、硬いソノ、巨大なモノが…そうすると、詰まったりはしないんですか?
 地田 あのー、それは、便器の話になるんですが。
 倉本 ええ、ええ。
 地田 (*)水洗便器ですね。
 倉本 ええ。
 地田 水洗便器の開発史を、ひも解いていくとまたいろいろと失敗も沢山あるんですが。
 倉本 ハイ、そこらを是非。
 地田 現在我々が使っているような形は、もう7〜80年前に完成しておりまして、うまく吸い込んで、下水管に流れるようになっているんです。

*東京都庁
 東京都の新宿副都心にある、東京都庁の本庁舎。職員数約12000人に加え、年間170万人の見学客が訪れる。

 倉本 吸い込み力が働いているんですか、あれは。
 地田 そうなんです。
 林原 あの、パッと消える…
 地田 ええ、パッと消えた時は吸い込み力が働いてまして。
 林原 その吸い込み力ってのは何なんですか?
 地田 水、溜まりますね。…いいですか?こういう話して。
 倉本 (笑) ええ。いいですよ。それが今回の目的ですから。
 地田 水をジャーと流しますよね。したあと。
 倉本 ええ。
 地田 そうすると、便器にいっぱい水が溜まります。で、その後、ストーンと、水ごとすごい勢いで吸い込まれていくのが、判かりますよね。
 倉本 ええ、渦になりますもんね、最後。
 地田 ああいう仕掛けに工夫した訳です。
 倉本 はーー。
 地田 あれが無い時は、水洗といっても、単純に水の勢いでただ排水管に押し流すだけという時代もあったんです。
 倉本 あーはー。
 地田 それだと、詰まってしまいますよね。押すことだけでは勢いが削がれますから。
 倉本 成程。イヤ、その吸い込むということは判かりましたが、そうすると、例えば、六本木ヒルズとか(*)東京都庁とか、あれだけ人が一杯いるものが、全部吸い込まれて。

*エンパイア・ステート・ビル
 【エンパイア・ステート・ビルディング(Empire State Building)】
 アメリカ ニューヨーク・マンハッタンにある超高層建築。1931年完成。地上102階。高さ443.2メートル。

 地田 下水管に入るんです。
 倉本 ティッシュペーパーとかも、全部?
 地田 はい。浄化槽があれば浄化槽に。
 倉本 下水管だったら下水道まで。
 地田 下水道でしたら、下水の枝管っていうんですけど、道路の下には必ず下水管が這ってますから、そこへ流れるようになっています。
 林原 あのー、高いところでしたヤツは、勢いついて落ちていくと思うんですけど、1階とか、下手すりゃ地下でもする訳じゃないですか。
 地田 地下はやっぱり汲み上げないとダメですね。
 林原 ですよね。
 地田 地下にそういうのを集める所があるんですよ。そういう場合はポンプがついてまして、下水管まで逆に汲み上げて。
 倉本 下水管のほうが上を通っている。
 地田 ええ、地下街なんかはそうです。新宿の地下街は下水管のほうが上です。
 倉本 下水管のほうが上ですか?
 地田 あのぐらい深い地下街になりますと(笑)
 林原 それもイヤですね (笑)
 倉本 水漏れしたら大変だね(笑)
 林原 (笑)
 倉本 あの、昔、(*)エンパイア・ステート・ビルの上からウンコをすると、4センチの鉄板をぶち抜くっていう、その、重力によってということを、僕、小学校か中学の先生に言われたことがあったんだけど。

*映画『第三の男』
 1949年のキャロル・リード監督のイギリス映画。主演・オーソン・ウェルズ。クライマックスのウィーンの下水道における追跡劇の映像表現が秀逸の映画史に残る世界的傑作。

 地田 空中落下ですか(笑)
 倉本 空中落下した時に。それぐらいこう、やっぱりその高さがあると、あれなんでしょうけれども。その排水管っていうのは、こうくねくねと曲がっているものなんですか?
 地田 いえ、曲がっていません。
 倉本 真っ直ぐですか?
 地田 はい。だから、あそこのところだけ曲がっているのは、匂いを防いでいるんです。
 倉本 匂い?
 地田 そのためにくねっていて、そこに水をいつも張っているんです。
 倉本 あれは匂いよけですか。
 地田 匂いよけと考えたほうが正確です。
 倉本 成程。
 地田 普通でしたら直管のほうがいいですよね、詰まる恐れが無いはずですから。

水に流れる都市生活の縮図

 倉本 そうすると、東京都の下水道というのは、例えば『(*)第三の男』って映画に、地下の下水道で追跡劇があるじゃないですか、ドーっと川みたいのが流れていて。あーいうもんですか?
 地田 あーいうもんです。大きな管は。
 林原 そこには、糞も尿も、風呂水も全部一緒くたに流れている?
 地田 全部一緒くたに流れています。
 林原 その東京の下水道の一番デカイヤツは、どのくらいの大きさなんですか?
 倉本 川でいうと、川幅はどのぐらいなんですか?
 地田 えっとですねー、地下鉄ぐらいだと思って頂ければ。
 倉本 両車線?
 地田 そうですね。上りと下りがこう一緒に走ってるような地下鉄ですね。駅のホームの先の、こんな(トンネル状)になってるの、ありますよね。
 倉本 ええ。
 地田 あれぐらいのが、一番太い管です。
 倉本 深さはどのぐらいあるんですか?
 地田 深さ、あの、地面からの?
 倉本 ええ。
 地田 それはいろいろですけど。地面から20メートルぐらいの場合もありますね。
 倉本 流れてる水の深さは?
 地田 東京の場合は雨水も入ってきますから、雨の降らない時は、せいぜい胴長でこのぐらい(腰よりやや下)ですかね。
 林原 お入りになったこと、あるんですか?
 地田 あります。普通の長靴じゃダメですよ。胴長の。
 倉本 胴付きですね(笑)
 地田 はいあのー、釣りなさる人の(笑)
 倉本 やっぱり臭いんですか?
 地田 匂いはします。ただあの、流れていますから、澱んではいないです。まあ、僕らは職業病で、鼻がバカになってますから(笑)判りませんけど。初めて入るとやっぱり、「臭ーい!」って言うでしょうね。

*自然流下(シゼンリユウカ)
 水が高いところから低いところに流れる性質。
*錦鯉
 鯉の中で色彩や斑紋が美しく、観賞用に飼育される。生命力が極めて強く、汚い水でも平気で生きられる程の環境適応能力がある。

 倉本 うーむ。
 林原 その、流れていくヤツは、上下の高低差を利用して流れていってる訳ですか?
 地田 そうです。(*)自然流下って言いまして、川ですね。
 倉本 川ですね。
 地田 地下の川だとお考えいただいたほうが。
 倉本 成程。
 地田 はい。
 倉本 それは生活用水も、排水も全部ですか?
 地田 全部です。
 倉本 ってことは、その最終処理場で汚泥だけを取り上げても、汚泥の中に、例えば洗剤のアレとか、そういうものも混じっちゃうんですか?
 地田 混じってます。
 倉本 あー。
 地田 生活のいろんなことが判ります。
 倉本 あー。
 地田 意外と多いのが髪の毛なんです。お風呂で頭洗ったりすると、アレがみんな。
 倉本 そうでしょうねー!
 地田 それから、衛生用具とかも。夏になるとスイカの種も流れてきますし、大雨が降ると高そうな(*)錦鯉が、まざれて入ってくるとか。
 一同 (爆笑)
 地田 ですから、縮図ですね。都市生活の。
 倉本 (感心して) はあー。それを最終的に、その水分を清浄化して、その汚泥といいますか、汚泥は汚泥で別に処理する場所がある訳ですか?
 地田 あります。下水を締麗にする所の隣に、汚泥を処理する工場を、普通は併設してます。
 倉本 はー。
 地田 併設しない場合は、ポンプ仕掛けで、汚泥だけを専用に処理する所まで圧送します。
 倉本 圧送。
 地田 そういう場合もあります。
 倉本 東京だと、処理場はどこにあるんですか?
 地田 23区で今、13箇所ありますけども。一番判りやすいのは、品川駅、新幹線の停まる駅前に一つあります。
 倉本 ほおー。
 林原 それは、上から見えますか。
 地田 見えますよ。新幹線に乗ってて、品川駅が近くなったら、えーと海側です。
 倉本 東京から行って?
 地田 東京から、乗ってすぐですから。えーと左手ですね。
 倉本 へえー。
 地田 何やらこう広々と、こんな都会なのに、何でこんな広い所あるのかなーと思う場所が下水処理場です。  倉本 はー。そこでは、どんなことをしているんですか?

*菌(メタン生成菌)
 沼や池などでメタンを発生させる細菌。自然界に広く分布する

 地田 そこでは下水を処理して、最後に汚れものを泥の中に集約したような格好にします。で、その次の工程が、泥を処理する工程になる訳です。
 倉本 それも、その品川の所でやっているんですか?
 地田 昔は、すぐ隣の敷地でやってたんですけど、街中なので、臭い仕事はもっと外れた所でやろうつて、ポンプで圧送して、海っぺりの羽田飛行場の近くにですね(笑) 僕も勤めたことありますけど、大きな処理場があるんですよ。
 倉本 ほおー。
 地田 そこで汚泥処理をやってます。

下水汚泥の有効利用法、ABC

 地田 汚泥はですね、一番初めのご質問のエネルギーを有効に活用しようという場合ですと、汚泥そのもののままではエネルギーは出てきませんので、こういう方法をとります。
 倉本 (身を乗り出して) はい。
 地田 まず密閉のタンクに泥を、水分が95%ぐらいの泥水ですね、泥水状態のまま入れます。で、空気を絶ちます。
 倉本 ええ。
 地田 で、30日くらい、温度が55度くらいにして温めると、空気が無いほうが元気で活動する(*)菌がはびこってきます。
 倉本 はい。

*ガスホルダー
 ガスが余っている時に貯めておく施設。
*火力発電所
 石炭、石油、天然ガスなどを燃料として火力による発電設備がある発電所。
*東京電力
 1951年に設立した、首都圏を中心とした関東地方周辺に電気を供給する会社。2006年度の販売電力量は日本全体の約3分の1の2876倍キロワット。
*値段
 電力会社の余剰電力買取制度による売電の価格は、l般的に買電(電気の供給を受ける)の価格と等価であるが、発電量・季節・時間帯などによって違いがある。

 地田 それは有機物を餌として、何を発生するかというと、メタンガスを。
 倉本 あー、やっぱり。
 地田 発生してくれます。
 倉本 成程。
 地田 このメタンガスがエネルギー源。使いやすいエネルギーですね。
 倉本 そうですね。
 地田 そのメタンガスを(*)ガスホルダーに集めて、で、そこのタンクを温める加熱用に、ボイラーの燃料として使います。さらに、水蒸気で発電機を回して、(*)火力発電所の小さいような形にすれば、電気になります。
 倉本 その電気はどうするんですか?
 地田 施設内で使ったりします。(*)東京電力に売ることもあります。  倉本 あっそうですか。東京電力はちゃんと、お金を払って?いい(*)値段をつけるんですか、それ?
 地田 うっふっふっふっ (笑)
 倉本 つけないンですか?
 地田 イヤ、つけてくれます(笑)タダじゃないです。
 倉本 ああそうですかー。
 地田 東京電力は、結構買ってくれます。
 倉本 そうですか。
 地田 それから、燃やす燃料だけでいいとなれば、メタンガスそのものが燃料になる訳ですね。
 倉本 そうですね。
 地田 で、さっきお話の、中国の田舎のほうでは、そんな大仕掛けじゃないんですけいども、現実、メタンガスを発生させて、それで、家庭の煮炊きに使うとか。
 倉本 使ってますよね。
 地田 というやり方があります。
 倉本 中国の場合には牛とか羊とか家畜の糞尿も、それから自分たちの糞尿も使うんでしょぅけども、そこで発生するメタンガスを、出たところから管でホントに素朴に引いて、すぐ食堂にガスコンロに繋いで火をつけて煮炊きして食ってるんだけど、あれ見て臭くないのかなって思ったんだけど、臭くはないんですかね?
 地田 臭くないんじゃないですかね。
 一同、笑う。
 地田 もともと都市ガスも天然ガスも主成分はメタンですから。
 倉本 あ!あれメタンなんですか?
 地田 はい。なので。
 林原 そのメタンガスの発生率でいいますと、家畜も人糞も同じですか?それとも人糞のはうがメタンガスの発生率は多いんですか?
 地田 あー、それはどうでしようね。食べ物によるんでしょうね。ですから、牛なんかは草を食べていますから、むしろ、牛の糞はすぐ乾燥しますよね。
 倉本 えーえーえー。
 地田 よくアレ、糞を拾ってきて、そのまんま、燃やします。
 倉本 うんうんうん。
 地田 薪の代わりみたいにして、とろとろと燃やして。
 倉本 ありますね。

*繊維分
 動物の毛や植物などから得られる細長い素材。
*下肥(シモゴエ)
人間の糞尿を肥料にしたもの。
*町人・旗本・大名
 江戸時代、享保7年 (1722年)の江戸における分布では町人=約50万人 旗本=約5000人 大名と御家人=約1万7000人
*値段表【ランク】
 @勤 番 主に大名屋敷のし尿。
 A町 肥 江戸の町方の家、長屋のもの。
 B辻 肥 四辻などに農民が設置した便所のし尿。
 Cお屋敷 牢屋敷などで最下等。
 ※最上等の勤番の標準価格は町把の4、5倍の値が付いた。

 地田 そうした使い道のほうが簡単で早いんじゃないですかね。
 倉本 あー、成程。
 地田 草というか、(*)繊維分が多いですから。
 林原 栄養分が高ければ高いほど、メタンガスが出やすいという構図には、なってるんですか?
 地田 構図には、なっています。
 林原 例えば、リッチなセレブの人たちの糞のほうが、貧しい食生活をしている人よりも、メタンの発生量が多いのなら、セレブの人のほうがエネルギー源としては?
 倉本 高いんですか?
 地田 でしょうね。
 倉本 なんか、江戸時代にね、(*)下肥の問屋があったという話で。
 地田 はい。
 倉本 その時、(*)町人のクソと、旗本のクソと、大名のクソとで値段が違ったという、これはホントかウソかは知らないですけど。
 地田 ホントみたいですね。古文書が残ってるんです。
 倉本 古文書が(笑)、あー!
 地田 (*)値段表がありまして。
 倉本 あッそうですか!
 林原 (笑)
 倉本 だからその、落語に出てくる長屋の大家ってのは、長屋の貧乏人たちは家賃を溜めるのが当たり前だから、要するに、家賃で暮らしてるんじゃなくて、長屋の住民のし尿の権利で食っていたという話を聞いたことがあるんですよね。

*路線バスの燃料
 神戸市では2006年10月から、下水処理場の下水汚泥を発酵させ発生した消化ガスを天然ガスとほぼ同じ性状にまで精製し、バスの燃料に活用。
*炭
 炭化燃料・素材の総称。主に、木材を蒸し焼きにして作った黒色の燃料である木炭を指す。

 地田 大家さんでもホントの大家と頼まれ大家がいまして。
 倉本 はーはーはー。
 地田 ホントの大家さんは金持ちでしょうけど、頼まれ大家は結構、今の話の、店子の下(シモ)のアレで、生活していたと。
 倉本 潤っていた。
 地田 ええ。だから大家さんは、結構店子からは白い目で見られていたという(笑)
 倉本 成程ね。
 地田 あの、神戸市さんはですね、今言った、密閉タンクに汚泥を入れて、温めるとメタンガスが出てきますが。
 倉本 ええええ。
 地田 そのメタンガスを自動車の燃料に使ってるんです。市営バスの1台だか2台だか、今、試み的に(*)路線バスの燃料として、下水汚泥から出たメタンガスを燃料としたバスが走ってます。
 倉本 ほおー。あーそうですか!やってるんですか。
 地田 はい。
 倉本 その、今おっしゃった、メタンガス以外に、汚泥を、エネル源にする方法って何かあるんですか?
 地田 えっとですね、(*)炭にする方法があります。
 倉本 ほー。

*石炭
 地中に堆積した古代の植物が、長い期間地熱や地圧を受けて生成された物質の総称。燃料・化学工業用原料にする。

 地田 機械仕掛けで水分を絞って、70%ぐらいまで落とすんです。それを原料にして今度は炭にするんです。
 倉本 はー。
 地田 炭にするには、燃やしちやダメなんです。だから、あれも空気を絶つんです。
 倉本 あ、そうですね。
 地田 いわゆる、薪から炭を作ることをお考えいただければ、あれと同じような方法で。窯を作りまして。
 倉本 えー。
 地田 で、炭にするんです。
 倉本 はー。
 地田 そういう、下水汚泥を炭にするという技術があるんです。
 倉本 クソ炭!
 地田 はい、ふっふっふっふっ。
 林原 それも、今、実際に?
 地田 やってます。
 倉本 やってるんですか?
 林原 じゃあ販売されてるんですか?そのクソ炭は。
 地田 あの、火力発電所ってありますよね?
 倉本 ええ。
 地田 火力発電所にそれをトラック輸送しまして。
 倉本 はーほーほー。
 地田 火力発電はメインは(*)石炭ですけど、その石炭に混ぜて使って頂いてます。これは実際にやっています。
 倉本 ヘーーー。
 地田 汚泥を炭にするのは、東京都の下水道局さんでもやってますし、他の都市でもこれから始めようとしているところがあります。
 倉本 その炭って、やっぱり黒いんですか?
 地田 黒いです。
 倉本 普通の炭みたいな。
 地田 あのー、あんな木の格好にはなってませんけど。
 倉本 ウンコの格好?ウンコの格好ってのも変だけど(笑)
 地田 粉末みたいになってしまいますけどね。粉炭(コナズミ)。
 倉本 粉炭!フンタンですか、成程ね。
 倉本 で、その汚泥の何ていうんですか?最後の堆積物、ありますよね。それを炭にする以外には何か?
 地田 東京では、昔は脱水した汚泥をそのまんま埋立地へ持って行くという時代もあったんですけど、今は嵩、ボリュームを減らしましょうっていうんで、普通は燃やします。
 倉本 ほう。
 地田 えー、850度くらいで。燃料は重油、あるいは都市ガスです。
 倉本 ああ。

*コンポスト
都市ゴミや下水汚泥などを発酵腐熟させた肥料。堆肥と同義であるが、植物系残渣を自然に堆積発酵させたものが堆肥であり、強制的に急速に発酵させたものがコンポストであるとする意見もある。

 地田 そうするともう、パサバサの灰になります。
 倉本 うーむ。
 地田 で、灰にした状態で、埋立地へ持って行きます。
 倉本 あー。それは、栄養価も何も無い状態なんですか。
 地田 そうなると、もう何も無いです。無機物ですね。
 倉本 そうすると、栄養価っていうのは、どこで無くなるんですか?その、メタンガスになっちゃった時に?
 地田 メタンガスになった時の泥は、まだ有機物も残っていますから、栄養価もあります。
 倉本 ええ。
 地田 で、それを、(*)コンポストのような形で有効利用する方法もあります。
 倉本 それは、やってるんですか?
 地田 東京都では、やってませんけども、この近くでは札幌市さんとか、苫小牧市さんとか、都市によっては、そういうやり方をする場合もあります。
 倉本 東京都の場合には、そこでもう、燃しちゃうんですか?
 地田 今は基本は燃やします。
 倉本 (残念そうに) もったいない…
 地田 綺麗になった水をですね。処理水って呼んでるんですが、それの、再利用も進んでいます。
 倉本 ほお。
 地田 水田のですね、潅がい用水として使えるんですよ。
 倉本 ほお。
 地田 窒素、リンが入ってますんで、普通の水と混ぜながら、使って、立派な稲が実りました。
 倉本 (感心して) ほお1!成程。
 地田 熊本のほうじゃ、実際の農家が農業用水として、近くにある下水処理場の処理水を、取り込んでるっていう例もあります。
 倉本 ああー、そうですか。成程。
 地田 それから、雪が降りますよね。で、道路の雪を融かすのに…
 倉本 融雪水として。
 地田 融雪水として。温かいですから、下水の処理水は、結構。
 倉本 ええ。
 地田 ですから、おっしゃったように、初めは下水道事業というのは、嫌われモノの汚水を、早いところ、街でない(笑)、郊外のほうへ持って行って、で、原始的な時代は、処理も何もしないで、そのままもう、川へ流しちやおうと。
 倉本 うーむ。
 地田 で、そのうち、そんなことやってたら、水質汚濁が止まらないと。で、やっぱり、汚水は綺麗にしなきやいけないね。ということになっていって、で、その段階で、水は綺麗になったけども、汚れ成分っていうのは、泥として残る。
 倉本 うーむ。

*マッターホルン
 スイスとイタリアの国境に位置するヨーロッパアルプスの山(標高4478m)山頂は氷食により鋭い四角錐をなす。
*かっちゃいて
 「かっちゃく」は北海道弁で「引っかく」という意味。

 地田 で、今度は泥を、いろんな有効活用も考えつつ、でもまあ大部分は燃やしてたいうことだったんですけど。
 倉本 成程ね。
 地田 でもなるべく今は、燃やさないで、資源として引き取り手があれば、そういうことで、やっていきましょうと。
 倉本 成程ねー。
 地田 ところがあんまり、引き取り手っていうのが、一番初めの話にまた、戻っちゃうんですけど。なかなか無いことも多いんですよ(笑)
 倉本 成程ね。

自然の摂理と都市化の狭間で

 倉本 僕がこっちにきた時、トイレは壷式だったんですね。30年前ですけど。当時ここマイナス30度より下回ることが年中で、それであのー、突出してくるんですね。要するに、したモノが、こう(*)マッターホルンみたいに山積みになってきて。
 地田 ほお。
 倉本 それで一度知らないでかがんだら、お尻にグサッと刺さったことがあったんです。
 地田 (顔をしかめ)あぁぁー。
 倉本 (笑)それで、それよくやるんだと言われて、鉄の棒をもらって、これでてっぺんを(*)かっちゃいてからやらないと怪我するって。事実そうやってやってたんですね。
 地田 はい。

*キツネ
 イヌ科の哺乳類。北海道に生息するのはキタキツネ。雑食性で、ネズミ・ウサギなどを捕食するほか、果実なども食べる。

 倉本 それでもあぶれさせちゃって。秋口にバキュームやるのを忘れちゃって。ここ山だもんですからバキュームカーが入って来れなくて。
 地田 はぁ。
 倉本 女房はしょうがないんで中でやらせて、僕はオモテに行ってクソをしていた時期があるんですよ。
 地田 はい。
 倉本 そうしますとね、マイナス28度くらいで、クソをすると、みるみる瞬間冷凍していくんですね。白ーく粉吹いてくるんですね。
 地田 ほお。
 倉本 それで、いわゆるコッペパンみたいになって。で、恐る恐る触ってみてもニチャとも何ともしないんですよ。
 地田 はい。
 倉本 ホントに固形物になっちゃう。それを、ぽーんと、抛(ホウ)る訳ですよ。触っても汚くないから。
 地田 はい。
 倉本 そうすると、(*)キツネが来て、持ってくんですよ。
 地田 あーあーあー。
 林原 ということは、人糞は、動物が食べられる?
 倉本 動物は食べるね。で、うちの犬までそれ、食べようとしたからさ、犬にはまあ、はしたないと言って止めたんだけど。
 林原 (笑)
 倉本 キツネは平気で持って行きますね。食料として。
 林原 それは人間も食べれるんですか?
 地田 人間が食べたという話を僕は、聞いたことはないですけど。中国とか、沖縄なんかは、豚を飼育しますよね。
 倉本 ええ。
 地田 半地下式みたいな豚小屋を作りまして、人間様はその上で、大便をするんですね。
 倉本 ええ。
 地田 で、ポトンと落ちて、湯気が立っているような状態で、どんどんどんどん豚はソレを食べます。
 倉本 食べちゃう!
 地田 そういう、豚にナニを食べさせるトイレは、ある地域、中国の南のほうですかね、沖縄に近いほうにあるんだそうです。
 倉本 あーそうですかー。成程ねー。
 林原 ソレ、豚が食べて病気になって死んじゃつたとかというようなことがあればそういうことはしませんよね。
 地田 ですから、エネルギーというお話が一番初めにありましたように、エネルギーがあるということは有機物があるということですよね。
 倉本 ええ。
 地田 つまり人間というのは、食べた食べ物を完全には消化出来ないんです。
 倉本 成程。
 地田 まだもったいないぐらいの栄養価のある有機物を残存したまんまで排泄しちゃうんです。
 倉本 成程。

*循環型
 資源やエネルギーを、有効に活用できる状態を保ちつつ、姿だけを遷移させる連続的なシステムや社会のこと。
*腎臓
 体内に生じた不要物質を尿として体外に排出し、体液の組成や量を一定に保つ泌尿器官。
*糖尿病
 血糖値(血液中のブドウ糖濃度)が病的に高まることによって発症する病気。

 地田 豚なんかはそれをもっと消化出来る機能を内臓が持っているんでしょうね。
 倉本 成程。
 地田 ですから、人間が食べたら、ダメかもしれませんね(笑)。人間はそういうのを消化出来ないから排出してしまうのでしょうから。
 倉本 成程ね。
 林原 これから先、食料が無くなっていって、いざとなった時には、人間が、それを食料として利用することも考えられますか?
 地田 人間が直(チョク)ではないでしょうね。ですから、例えば豚を介在させて。
 林原 飼料として。
 地田 豚の餌の一部にするとか、そういう格好でしょうね。
 倉本 すごい(*)循環型ですね。人間がしたモノを豚が食って、豚が太って、その肉を食って。
 林原 そうですね。
 倉本 もちろんそれだけで生活出来ないかもしれないけど。完全な循環型ですね。
 地田 はい。
 林原 じゃあ例えば、尿ですけども、オシッコのほうは、人間は飲めます?
 地田 処理すれば飲めます。尿はですね、アレは無菌なんです。綺麗なんです。人間の(*)腎臓の膜を通して水分が外に出て行きますから。(*)糖尿病になると、あの中に糖分が入っちゃいますけど。ほぼ無菌に近いんですよ。
 倉本 あーそうですかー。
 地田 ですから、それをまたなんかの処理をして、飲み水に戻すことは十分可能性が高いです。

*塩分濃度
 水中に溶けている塩の畳の割合。

 倉本 アレ、そのまま飲むというなんかその療法がありましたよね。富良野塾の塾生でやってたヤツいますけど。
 地田 そのまま飲んで別に悪いことはないと思うんですけど。塩分が高いですから。
 倉本 あ、塩分が高いんですか?
 地田 ええ、だから十分薄めてやらないと。
 倉本 ふーむ。
 地田 あのー、農家の人が畑に糞尿を撒く場合ですね。
 倉本 ええ。
 地田 溜め壷にいれて、ある程度、腐熟っていいまして安定化させた後に、水で薄めて撒くんです。(*)塩分濃度が高いですから、そのまま撒いちゃったら、葉っぱなんかしおれてしまいますから。
 倉本 あぁ、そーですか。
 地田 私飲んだことないから判かりませんけど(笑)。分析すれば、そうです。
 倉本 僕一回飲んだことあるんですよね。赤ん坊の。妹が子どもだった時に、妹がしたションベンを飲んでみろと兄貴に言われて飲んでみたことあった。
 林原 しょっぱいんですか?
 倉本 味はもう忘れたけど。飲めない代物ではなかったよ。
 地田 毒ではないはずですね、少なくとも。
 倉本 うん。
 林原 じゃ、いざとなってどっかまったく水が無いところに行って、人間が究極な状態になっちゃったら、それは塩分とか匂いなんかを我慢すれば、飲めることは飲める。
 地田 はい。よく、ヨットかなんかで、航海中に。

*ろ過
 液体をこして混じり物をのぞくこと。
*育苗地
 富良野自然塾のフィールド内にあり、主に種から植樹用の苗木を育てている。広さは、約1000m2。

 倉本 えーえー。
 地田 遭難して、自分のを。海水は飲めませんから、しよっぱすぎて。自分のを飲んで命を永らえたとかいうのが、よく出てきますね。それは、そういうことなんです。
 倉本 ほーー。あーそうですか、アレは菌はないんですか。
 地田 人間の体の中で(*)ろ過してくれてますから。
 倉本 はー成程ねー。
 地田 ですから、戦争終わった直後ですね。神奈川県の衛生研究所の児玉先生っていう有名人がいるんですけれども。その人は大便と小便を便器の段階で分けて、小便は小便で集める、大便は大便で集める、という便器を作ったんです。
 倉本 ほー。
 地田 その先生の考えは、小便というのは量が多い。大便の十倍くらい出るんですよ。
 倉本 あーそうですかー。
 地田 小便は、ほぼ無菌状態なので、そのまんま水で薄めて畑に撒けば、すぐ肥料に使える。
 倉本 肥料に使えるって、小便ですか?
 地田 小便です。
 倉本 水代わりという意味ですか?
 地田 じゃなくて、窒素とかリンとか、そういうのは含まれているんですよ。栄養分はある訳です。
 倉本 成程。
 地田 薄めて。塩分が高いですから。
 倉本 それ、(*)育苗地でやろうよ。

*大腸菌
 大腸に生息する細菌の一種で、病原になることもある。糞便中に必ず見られるので、水などの汚染検査の指標とされる。
*赤痢
 下痢・発熱・血便・腹痛などをともなう大腸感染症である。熱帯・亜熱帯に多く、飲食物を介して経口感染する。
*寄生虫
 寄生生活をする小動物。体内に寄生する回虫・サナダムシなどの内部寄生虫と、体表に寄生するノミ・シラミ・ダニなどの外部寄生虫があるが、前者を指すことが多い。
*厚木
 神奈川県のほぼ中央に位置する市。

 林原 (笑)
 地田 大きいほうは、(*)大腸菌だとか、それからあの頃、(*)赤痢だとかが、流行ってましたから。
 倉本 ええ。
 地田 それから(*)寄生虫もありますから、それは、きちんと、タンクかなんかに溜めて発酵させて、2ヶ月3ヶ月ぐらい放っぽいといて、安定化させて、それから畑に撒きましょうと。そういう、大と小を分けるという発想をした先生がいました。
 倉本 ほーー。
 地田 神奈川県下の(*)厚木とかあの辺で、実証試験をやったんだそうです。
 倉本 ほー。
 地田 で、「イケル」となったらしいんですが、その頃はもう、これからは水洗化トイレだという声がだんだん大きくなりまして(笑)
 倉本 ふーむ。
 地田 途中で止まっちゃったんです。
 倉本 成程、そうか。そこで止めたのはまずかったですね。あの、まずかったというと変だけど(笑)自然の摂理に逆らっちゃったんだなあ、きっと。うん。成程ねえ。うーん。
 林原 先生、トイレが出来る前というのは、どういう具合にやってたんですか?日本も外国も外で?

*人口密度
一般に1平方キロメートル当たりの人口で表す。
 江戸時代の江戸の人口密度60000人/km2(★)
 現在の東京都の人口密度5700人/km2
 現在の富良野市の人口密度41人/km2
 (★)江戸の町は現在の23区よりもずっと狭く、そこに100万人近い人が住んでいた。
*コガネムシの系統
 センチコガネ。糞や腐肉を餌にするいわゆる糞虫。「センチ」は便所を指す語「雪隠(せっちん)」が靴ったもので、糞に集まる性質に由来している。
*タヌキ
 イヌ科の哺乳類。日本全土・朝鮮・中国などに分布。夜行性で、雑食性。キツネと並んで民間伝承や民話によく登場する。
*ウォシュレット
 1980年にTOTOが販売した温水洗浄便座の登録商標及び商品名。温水洗浄便座の普及率は2004年度調べで約59%。

 地田 トイレが出来る前は、あのー、ご経験なさったように、野でやりますよね。
 倉本 ええ。
 地田 で、昔は、こんなに(*)人口密度無いですから。
 倉本 ええ。
 地田 自然も豊かですから。
 倉本 ええ。
 地田 沢の水飲んでたりしてた生活でしょうから、沢の水を汚さないようなところで、やって、それで済んでました。そこで、糞を食べる、(*)コガネムシの系統もいますし。(*)キツネや(*)タヌキもいたでしょうから。
 倉本 うーむ。
 地田 自然に、自然が処理してた。動物が処理してくれたという状態がずっと、続いていたんじゃないですかね。
 林原 あのー、我々は、「拭く」という、したあとの処理をしますよねー。今、紙で拭いたり、(*)ウォシュレットで、下から来たり。
 地田 はい。
 林原 その昔は、その「拭く」というか、その事後処理みたいなものは…
 地田 あのー、日本の場合は、木の…
 倉本 ヘラみたいなものですか?
 地田 木っ端みたいなもので。
 倉本 ええ。
 地田 ちょうど、割り箸ぐらいの、あんな木の板を、今の紙代わりに使ってた。
 倉本 ああー。

*冷凍殺菌
 細菌の繁殖防止方法の1つ。
 ※厳密に言うと、冷凍しただけでは細菌が死ぬわけではなく「細菌の活動を止める」が正しい。
*痔
 肛門やその付近に生じる病気の総称。痔核・痔療(じろう)・脱肛・切れ痔など。
*マサイ
 ケニアとタンザニア北部に住んでいる原住民。伝統的な生活を守って暮らしており、非常に勇敢でプライドが高く、草原の貴族と呼ばれる。
*アフリカ
 ヨーロッパの南方に位置する大陸。面積は約3000万km2で世界全体の22.3%を占める。
*抗体菌
 動物の体内において、病原菌を排除する働きをする菌。大腸菌やピロリ菌など。

 地田 食べ物が、植物性のものが多いですから。そんなに軟らかくはなかったんでしょうね。
 倉本 うーむ。
 地田 それでまあ、けそぐような形で、使った。
 倉本 中国の奥地でね、紐があって、終わるとその紐でもって、尻こするっていうスタイルのトイレがあったっていう話を聞いたよ俺。
 林原 そうなると、あのー、自分ひとり用ではない訳ですよねー。
 倉本 寒いからさあ、(*)冷凍殺菌しちゃうから。
 林原 あー、成程。
 倉本 でも、あれなんじゃない。僕あの、(*)痔の手術をした時にその、痔の名医に…「君らはね、尻を清潔にしすぎる」 って言われたんですよ。
 林原 はあー。
 倉本 その、(*)マサイだか、(*)アフリカのほうはね、拭かないっていうんですよ。で、拭かないとそこに、自然(*)と抗体菌が出来てくるから、変なものが来ても、それを退治しちゃうっていうんですね。
 林原 成程。
 倉本 ところが、日本みたいに、日本っていうか、今の社会みたいに、清潔、清潔ってやってると、尻に耐性菌が付いてないから、それですぐその、痔になっちゃうって。
 地田 はー。
 倉本 アフリカなんかでは、痔の患者っていうのは、いないって言うんだよね。
 林原 ふーむ。

*海綿
 スポンジ。モクヨクカイメンの繊維状の骨格。弾力性に富み、水分をよく吸収する。化粧用・事務用などに用いる。
*遺伝
 親の形質が遺伝子により子やそれ以後の世代に伝えられること。日本人の足が欧米人に比べて短いのは、農耕民族だったということと、正座をする文化の影響だという説がある。

 倉本 そういう話を聞いたことがある。
 林原 成程。
 地田 あのー、ですから土地土地で違います。まあ、野っ原でする場合は、草の葉っぱを使うとか。
 倉本 ええ。
 地田 それから、地中海のほうですと、(*)海綿が、柔らかくていいって言うんで、紙の代わりに使ったとかですね。
 倉本 成程ねー。
 地田 それから、あと、石を使う。砂漠のほうですと、なんにも無いですから。
 倉本 ええ。
 地田 で、砂漠の石は熱いですから、わざわざ懐に三つぐらい入れて、冷まして、それで紙代わりに使うとか。
 倉本 成程−。
 地田 ですから、土地土地で、随分違う。
 倉本 よくイギリスなんかの、日本人の留学生が、下宿なんかで、トイレした後が臭くて嫌がられるっていうことを言われますが、外人の便と、日本人の使って違うんですか?
 地田 匂いが?
 倉本 腸が長いせいじやないかつて。日本人は。
 地田 発酵しちゃうから。
 倉本 ええ、発酵する時間が長いからじゃないかって。
 地田 腸の長さは、よく言われるのは、植物を、しょっちゅう食べていると、(*)遺伝なんでしょうか、自然に腸が長くなるとか。
 倉本 うーむ。
 地田 で、肉ばっかり食べてる民族は、逆に短めで。
 林原 そうか、栄養価が高ければ、短くても吸収出来る…
 地田 ええ。ですから、確かに違うのかもしれませんですねー。
 林原 そうか、日本人のクソは臭いかー。
 倉本 そうか。

糞尿の潜在的エネルギーの大きさと、ロスと

 倉本 イヤ、ちょっと話をその、戻しますけど。クソの話は面白いもんですから、どんどん枝葉に飛んじゃうんだけど(笑)その、一番最初に僕が伺った、これを例えば、エネルギーとする場合に、電力に変えるっていうケースがありますよね。
 地田 はい。
 倉本 で、これを、電力に変えた時に、あるところで調べてもらいましたらば、例えば富良野の場合で、200万人の観光客がいるとして、そのうち宿泊者が42万人だとして、一人あたり、し尿が13グラム。えー、その、途中の計算があるんですけども、理論的に言いますと結局年間の電力をまかなうとしたら、5、6軒分程度に過ぎないという計算が出ちゃったんです。
 地田 はい。
 倉本 あのこれ、電力に変えた場合ですが。

*潜在
 表面にはっきりと表れないが、内部にひそかに存在すること。

 地田 そうですね。結局、何事も何かこう、段階をかましていきますよね。
 倉本 ええ。
 地田 その度に、ロス、ロス、ロス、というのが、出てきます。
 倉本 ええ。
 地田 というのは、何か機械をちょっとかましたとすると、機械を動かすエネルギーっていうのが、必ず必要になってきますから…
 倉本 そこでまた、石油使ってたら…
 地田 そうすると今、おっしゃったように、だんだんだんだんそっちのほうが。あの、(*)潜在のエネルギーは大きくても、結局最終的に、うーん、5、6軒分くらいにっていうその計算式が合ってると。仮定しての場合ですけど。
 倉本 仮定してね。
 地田 それはもう、いろんなロスが発生して。
 倉本 成程。
 地田 ある下水処理場でですね、汚泥をタンクにいれて、メタンガスを出させまして、それで発電機を回さしたんですよ。
 倉本 はあー。
 地田 で、ガス発電って言いまして、さっき私が説明した蒸気を作って、蒸気タービンを回すんじゃなくて、ガスを燃やしてっていう、違う方式なんですけど。
 倉本 ええ。
 地田 で、要するに、メタンガスから電気をおこそうと、今、動いてるんです。
 倉本 動いてるんですか。
 地田 動いてるんですが(笑)結局、その発電機を回すほうのエネルギーと、発生したエルギーのバランスがありまして…(声が小さくなる)

*灯篭  日本の伝統的な照明器具の1つ。光源としては、油やろうそくが用いられた。

 倉本 あーあ。
 地田 イヤ、考え方はいいんですよ。いいんですけど…(更に声が小さくなる)
 倉本 ふっふっふ、小さな声で言ったって、活字にはなりますから。
 一同 (爆笑)
 地田 (笑いながら) まあですから、一番いいのは、あんまり、大げさにやらないで、例えばご自宅で、ちょっとやってみるかなーと。それで、庭の(*)灯篭の灯りぐらいを、ちょっと試み的に、灯してみるかなーと。そんなところから始めたほうが、面白い。面白いっていうか、判りはいいですね。
 倉本 そうですね。
 地田 始めっから、こう…やっちゃうと。
 倉本 いきなりね。
 地田 いきなりやっちゃうと、今みたいに、5、6軒分になっちゃうんで。
 倉本 そうですね。
 地田 と、いうことがあるので(笑)
 倉本 うん、成程な。あーそうか。だから、やっぱりその、中国の農家で、自分ところの料理の火は、それでまかなってるみたいな、あのレベルってのは、非常にいいですよね。
 地田 そうですね。
 倉本 ええ。
 地田 それで、うちの研究会に、中国の寄生虫の撲滅に関与した方がいらっしゃいまして。

*風が吹けば桶屋が儲かる
 何か事が起こると、めぐりめぐって意外なところに影響が及ぶことのたとえ。
 (ロジック・論理)
 1.風が吹くと土ぼこりがたって目に入り盲人が増える。
 2.盲人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える。
 3.猫が減るとネズミが増える。
 4.ネズミが桶をかじるから桶屋が儲かる。

 倉本 ええ。
 地田 本職は、寄生虫の先生なんですけども、トイレもいろいろ見てきまして、今のお話の、細々と一軒一軒で、煮炊きするのを、見てきた 「見聞」 を僕らに話してくれたことがありまして。
 倉本 ええ。
 地田 その方なんかに言わせると、「(*)風が吹けば桶屋が儲かる」式のところまでやって、中国の農家の人たちは、これはいい!と言って、結構普及が進んでいますよ、と言ってました。
 倉本 はい。
 地田 で、どういう論法かと言いますと、今まで煮炊きするのは、山に木を切りに行って、で、それを乾かして薪にして、それで煮炊きに使っていた。それを、糞尿からメタンガスを出して煮炊きすれば、まず山に行く必要がない。
 倉本 ええ。  地田 それで、森林破壊をすることもない。
 倉本 ええ、ええ。
 地田 で、糞尿をタンクに溜めて、メタンガスを出す訳ですが、やっぱり残り物は出ますよね。
 倉本 ええ。
 地田 それはいい肥料として、畑に撒く。
 倉本 うむ。
 地田 そうすると、いい野菜が出来る。
 倉本 うむ。

*石川英輔
 昭和8年(1933年)京都生まれ。
 江戸時代のエネルギーの研究に着手し、化石燃料に依存した現代社会との対比で注目を集める。著書『大江戸えねるぎー事情』 『大江戸えころじー事情』 『大江戸リサイクル事情』他

 地田 で、いい野菜を市場に売りに行く。で、今までの野菜よりも評判が良くて、高い値段で売れた。そういうようなことを、いろいろ総合して。
 倉本 成程。
 地田 これはいい!と。始めの設備投資に、若干かかりますけど、それは2〜3年で、元が取れると。そういう風に、地元の農家の人たちは考えて、口コミ式に、普及していったと言ってました。
 倉本 成程ね。でも、今の場合に、確かにその通りだと思うんだけども、その野菜を牛車や馬車とか自転車で運んでいた時はいいけども、それを売りに行くというところに、自動車を使っちゃった時には、またそこで、マイナスエネルギーがかかりますよね。
 地田 そうですね。
 倉本 だから、そこのところなんでしょうね、結局。今、エネルギー不足という言い方も変だけど、我々が他のエネルギーに頼り過ぎているというのは。
 地田 例えば、いい野菜が売れて、農家の人も、大分、お金の実入りも良くなって、今度は自動車でも買おうかつてなると、今度はガソリンで(笑)
 倉本 そういうことなんですよねー。
 地田 はい(笑)
 倉本 だからねーそのー、僕は(*)石川英輔さんっていう、作家で江戸時代のエネルギーのことを研究してらっしゃる方と対談した時の話に出たんですけど、野菜とかそういうものは、去年の太陽エネルギーが作ったもの。
 地田 ええ。
 倉本 で、それを我々食って生活していたと。だけど、それが肉になると今度、10年とか20年とかのタームのものを、(*)太陽エネルギーを、我々食べることになる訳ですよね。

*太陽エネルギー
 太陽が放出するエネルギー。地球上の大気や水の流れや温度に影響し、多くの生物の生命活動の源となっている。
*ミミズ
 環形動物門貧毛綱に属する動物の総称。目が無く、手足も無く、紐状の動物。ミミズは腐葉土を食べ、そこに含まれる有機物や微生物、小動物を消化吸収した上で粒状の糞として排泄する。

 地田 はい。
 倉本 で、さらに今度その、今の石炭、石油っていう化石燃料になっちゃうと、今度、億年の単位の、太陽エネルギーを食ってる話になりますよね。
 地田 そうですね。
 倉本 そこに、やっぱりこう、今のそのエネルギー問題っていうのかなー。
 地田 はい。
 倉本 地球をおかしくしちゃってるっていう部分っていうのは、どうもあるような気がするんですよ。
 地田 そうですね。

自然のものは自然に還す

 地田 農地に撒く肥料の話で言いますと。昔の堆肥だとか、あるいは糞尿だとかを撒いていた時代から、今の合成した化学肥料の時代になって、何が変わったかと言いますと、大学の農学の先生が言われるのは、地力が落ちたって言うのです。
 倉本 地力が?
 地田 (*)ミミズがわかないような土地になっちゃたって言うんです。
 倉本 ええ。
 地田 ミミズってのは、判りやすい例えで、おっしゃってくれたんですけども。

*土壌菌
 土の中に生息する菌。
*モグラ
 体長約15センチほどの哺乳類。地中に住み、目は退化している。前足は大きくシャベル状で、地表近くをトンネルを掘って進み、ミミズなどを食べる。
*農林省
 「農林水産省」日本の中央省庁の一つ。農業・林業・畜産業・水産業に関する事務を担当する。農林省を昭和53年(1978年)に改称。

 倉本 (*)土壌菌ですね。
 地田 ええ、土の中に、ちゃんと微生物は生きているんだと。
 倉本 はい。
 地田 それが、野菜を育てるために、非常に有効なんだと、こうおっしゃってました。
 倉本 ええええ。
 地田 一番いいのは、(*)モグラぐらいまでいたほうがいいと。モグラはミミズを食べるんですよね。
 倉本 成程ね。
 地田 ミミズってのは土を食べて、ほとんどまあ、未消化のまんま、また出しちゃうんですけど。
 倉本 ふーむ。
 地田 土をこう、ツブツブ状態にしてくれて、ほんわかとした土にしてくれるっていうんですよ。
 倉本 そうですね。
 地田 で、化学肥料ばっかり撒いてると、カチンカチンの土になって。
 倉本 ええ。
 地田 それで慌てて、昔の(*)農林省も地力回復っていうことで、堆肥だとか、下水汚泥コンポストだとかを、適当に土に漉き込まなくちゃいけないとか、そういう風に変わっていったんです。
 林原 昔は、肥料を下肥として撒いてましたが、今は、汚泥コンポストを肥料としてかなり使っているんですか?
 地田 使って(考える間)…います。いますけども、競争相手がいまして、これが農業のほうで、畜産、あの、家畜の糞尿です。
 倉本 ええ。
 地田 ニワトリの鶏糞も含めまして、大変な量が出るんです。
 倉本 はあはあはあはあ。
 地田 家畜の数からいっても当然、相当。
 倉本 人口を全く超えてる訳ですよね。
 地田 ですから、アレの処理で、農林省は、大変なんですよね。で、それに加えて下水汚泥も、農地に撒かしてくれと。こういう話になってますんで。えー、競合状態になってましてね。
 倉本 ほおー。そうなんですか。
 地田 だからそんなに、理想通りにはハケてはいませんですけど、北海道なんかは、結構、札幌市さんとか、苫小牧市さんとかがやっていて。
 倉本 ええ。
 地田 下水汚泥からのコンポストを作って、周りの農地とか、ゴルフ場とか、いろいろなところで使ってもらってるんですね。
 倉本 あー、そうですか。
 林原 今、人糞を、自分のうちの、例えば畑に撒いても、それは法律的に問題があったりはしないんですか?
 地田 大丈夫ですよ、はい、それは。
 林原 あー、そうですか。
 地田 今、数が少ないですけど、山奥の農家っていうと語弊がありますけども。自家菜園みたいな感じでは、やってるところはあるようです。

 
*バイオトイレ
 バイオ(ここでは微生物)の力でし尿を発酵分解して処理するトイレ。富良野自然塾のフィールドには2機のバイオトイレが設置されている。

 倉本 あー、そうですか。
 地田 はい。
 倉本 森なんかは、そういうものは大いに使っていいんでしょうね。
 地田 そうですねえ。でもまあ、人糞の場合は何しろ、ほとんど液体ですから。アレは非常に労力がかかるんですよ。コンポストみたいな、形に変えればまた、扱いは良くなりますけども。
 倉本 成程。

大量生産・大量消費・大量廃棄のツケ

 倉本 あのー、うちの自然塾で、(*)バイオトイレを作ったんですね。
 地田 あぁ、はい。
 倉本 2箇所作って、今度3箇所目を作ろうと思ったら、行政から待った″がかかりましてね。
 地田 ああー、そうですか…浄化槽は、いろいろと基準がありまして。
 倉本 ありますね。
 地田 で、いろんな、方式がありますんで、そこの中に入ってない、新しい方式だったんじゃないでしょうか。
 倉本 そうなんだと思います。糞尿を、土の中に菌の力を借りて水と栄養分に変えてしまおうというやり方なんですよ。
 地田 そのやり方が今の基準に抵触するなんていうことになったのかもしれませんね。
 倉本 成程ね。
 地田 はい。
 倉本 僕はやっぱりその、下水道が完備したり、浄化槽のシステムが発達してきて、中央の仕切りに、例えばこの富良野みたいなちっちゃい街でいっても、市役所という中央仕切りになった時に、そこのシステムの中に、全部が入っていってしまいますよね。各家の人糞まで。
 地田 そうですね。
 倉本 でもそれは、こんな山ン中だと、人糞は森に還すとか、畑に還すっていう、小単位の中ではね、そのー、中国の自分のところの家畜の糞で、火をおこしてやってるっていう、小単位でやってる時にはそれが成立する、出来うるんだけれども、大きな行政区画の中に入ってしまうと、そっちでやらざるを得なくなって。
 地田 ええ。
 倉本 で、それに我々は税金を払っているっていう、なんか、ちょっと矛盾したモノの考え方に、なっていくんではないかなー(苦笑) っていう気がしてしょうがないんですね。
 地田 一軒一軒それなりの庭が、ある時代でしたら。
 倉本 ええ。
 地田 そこで完結してたはずなんです。
 倉本 そうなんですね。
 地田 で、マンションが出来たりして、土地も無いような空中生活のような感じになってくると、やむを得ず、どっかで専用で処理してあげましょうと。そうすると、発生する泥の量も多くなって。

*リーズナブル
 論理などが妥当なさま。

 倉本 うーむ。
 地田 なかなか大変だ、っていうような感じになっちゃうんでしょうね。
 倉本 そうでしょうね。
 地田 ですから、富良野のように、周りがこれだけの自然に囲まれているようなところというのは、なにも東京方式を…
 倉本 そう思うんですね。
 地田 真似することは無いと思うんです。
 倉本 ええ。ただ、そこが、今のやっぱり問題点で。東京方式っていうのをやっぱり…東京って一見便利だから。それを真似たがるのと。それに対する企業が結局、「さあ、こういう便利なものがありますよ!」ってこう、押し付けていった時に、ついついそっちに目先が向いちゃうっていう。
 地田 そうですね。
 倉本 そういうところでみんなやっぱり、昔の生活を捨てていくんでしょうね。
 地田 (しみじみと) そうですねー。
 倉本 そこら辺が僕はやっぱり、環境的に言っても、とっても問題があるような気がしますね。
 地田 糞尿に限って言えば、「大」と「小」の持っているエネルギーを、素朴な状態で、土地に還すのが、一番だという気がしますね。
 倉本 そうですよね。だとすればやっぱり、昔のような小さなブロックの中で、それぞれ土地に戻していくという。そっちのほうがずっと(*)リーズナブルなのになっていう。そっちのほうが、文明というか、文化というものなんじゃないかって。
 地田 はい。

*ビオトープ 【biotop(独)】
 生物群集が存在できる環境条件を備える地域で、水場を中心に形成されることが多い。富良野自然塾のフィールドにも、自然返還事業の一環としてビオトープを設けており、将来的には環境教育に活用する方向にある。

 倉本 今の、システム化されちゃったものの中では、こう、文化的なように見えるけれども、実際は文化を滅ぼしていく方向へ向かってしまっているのではないかなっていう気がするんですね。
 地田 そうですね。下水の処理する方法っていうのは、素朴なのは、溜め池的なものでも、やって出来ないことは無いんですよ。
 倉本 ほお。
 地田 土地さえあれば。
 倉本 ええええ。
 地田 ちょっとした池を掘って、20軒ぐらいの家のトイレを流し込んで、おおらかな形で自然浄化させる。下にヘドロは溜まりますけど、池の容積さえ大きければ、時間さえかければ、だんだん土に戻るような反応が、さっきの密閉タンクみたいな構造物にしなくても、下のほうで緩やかに。
 倉本 成程ね。
 地田 で、水は、そこそこ綺麗になって。
 倉本 そうか。じゃあ(*)ビオトープの池を全部、肥溜めにして。
 林原 (笑)
 倉本 (笑)考えられるよね、でも。
 地田 やっぱり、時間軸と、それから、そのー。
 倉本 そうですね。空間軸と。
 地田 空間の中で。
 倉本 ええええ。
 地田 集約的に、狭い品川の駅前の処理場で、10時間ぐらいで済ましてしまおうっていうと、機械仕掛けの。

 ●脚注の用語解講は、国語辞典などの様々な文献から、それぞれの内容に関連した説明をピックアップして編集部でまとめたものです。

 倉本 ええ。
 地田 エネルギーを沢山使うような、方法になりますんで。
 倉本 そうですそうです。だから、エネルギーってのは、時間を短縮させるために随分費やされてますね。
 地田 そうですね。
 倉本 うーむ。
 地田 それが、もっと緩やかになれば、もっともっと違う方法が出てきます。
 倉本 そうですねー。
 林原 文明が進んじゃって、急いで早く大量消費しなきやいかんっていうところで、問題が生じてるんですね。
 倉本 時間ですよね。
 地田 ええ。


   窓外に、陽射しに輝く、美しい冬の森。


 地田 すっかり、いい気分になりました。こんなに素晴らしい自然の中でお話出来て。
 倉本 自然の中でクソの話をしていただいて…・(笑)


  長い時間どうもありがとうございました。
  トイレ、お使いになりません?