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下水処理場の見学案内と学校教育

地田 修一 氏(本会会員)(2010/04/21)
[1.はじめに]
[2.下水道のしくみを理解する]
[3.常識をのり越える柔軟な思考力で下水道を見直す]
[4.おわりに]

[1. はじめに]

 都市生活になくてはならない施設―それは下水道。レバーを引けば、たちどころにし尿を水洗水とともに下水管に消してくれる便利な施設―それは下水道。雨が降ったとき、道路に流れる雨水を吸い込んでくれる施設―それは下水道。川や湖が汚れないようにするのに必要な施設―それは下水道。
 このように、下水道は、都市で生活している者にとって必要不可欠な施設ではあるが、すでに下水道の恩恵を受けている者にはあまりにも日常的であるが故に、ともすればそのありがたさが日々うすらいでいくものであり、まだ、その恩恵にあずかっていない者には、三種の神器の如く待ちどうしいものである。しかし、クーラーやビデオレコーダーとは異なり、下水道は単にそれぞれの家庭に設備すれば、ただちにその利便性を発揮するものではない。地下に網の目のような排水管網をはりめぐらし、要所・要所にポンプ所を設け、最終的には終末処理施設によって下水を浄化し河海に放流する、極めてシステマティクな施設であり、それ故に公共的な施設として位置づけられているのである。このため、下水道の未普及地域で使用されている浄化槽とは、性格をかなり異にしているのである。下水道施設には自ずから使用条件があり、能力の限界もあるので、下水道の機能を十分に知ったうえで下水道を使用していかなければならないし、また、逆に下水道事業に携わっている者は、これらのことを使用者にPRする責務がある。このため、下水処理場等では、部外者の施設見学には従来から門戸を開いており、積極的に対応してきている。
 以下、下水道事業の第一線の現場である下水処理場で多くの見学者に応対している立場で、「下水処理場を教材にすることよって、このようなことが学べるのではないか」ということを指摘し、下水道事業と学校教育との係わりを探っていくこととする。


 

[2. 下水道のしくみを理解する]

(1)下水道は社会的かつシステマティックな施設である

 下水道は、極めて公共性の高い社会施設であることをまず理解する必要がある。下水道施設は、地上に見えている部分が非常に少なく、ほとんどが地下に建設されており、道路や川のように、普段、目にふれる機会が少ないので実感がわかないと思われる。
 そこで、見学者には、ビデオや写真によって下水管きょの建設状況や管きょ清掃の様子を紹介している。見学者は、地下の巨大な下水管渠にびっくりするとともに、人目のつかない地下の管渠を清掃する作業員の姿に胸を打たれることであろう。日常、何気なく流している下水の地下での動きを知ることは、表面、はでに見えるものばかりでなく、人の目につかない所でコツコツと働く者に対しても、同一の価値を与える目が生まれてくるであろう。少なくとも下水道の施設の大部分が地下にあり、それが日夜活動していてこそ下水がすみやかに流れることを理解することにより、下水道がシステマティックなものであるとの認識が得られるであろう。

(2) 下水処理は自然の浄化作用を応用している

 各家庭から流された下水は、最終的には終末処理場で浄化されるが、浄化の原理は、水中に自然に生息している微生物の働きを応用した活性汚泥法である。目に見えない水中の細菌や原生動物が汚濁物を餌として食べることによって、汚水を浄化していることを知った見学者は一様に驚嘆し、さらに顕微鏡によって繊毛を動かして餌をとっている原生動物の姿を観察して、初めてこの事実を納得するのが常である。
 ポンプ、ブロワー等の機械に囲まれた近代的な下水処理場における浄化の原理が、実は河川等の自然界で行われている浄化作用を応用し、それを人工的により速く行っているのに過ぎないことを知ることは、自然の力の偉大さに改めて接するとともに、水質汚濁問題を根本から考えさせる一つのきっかけとなるであろう。自然を切り開いて構築された人工的な施設が群立する都市において、静脈的な役割を担っている下水道の基本原理が実は自然の浄化能力を応用している―この事実は、都市と自然との調和とは何か、都市はどこまで人工的であり得るのか、都市は自然をどこまで捨て去ることができるのかを考える上での先導的な例示となるであろう。
 最近、下水道サイドばかりでなく、河川サイドからも提起されている都市型洪水に対処する方策の一つとして注目されている浸透型下水道や浸透性舗装も、その根底は土壌の雨水貯留能力の復活を願うものであり、都市づくりと自然との調和に帰結するのである。

(3) 下水道はゴミ捨て場ではない

 下水処理場では、活性汚泥法によって下水を浄化する前に一次処理として、砂、粗大なゴミ、沈殿可能な固形物等を取り除いている。このような一次処理施設があるからといって、下水道の機能には、いわゆるゴミまでも一緒に処理することは予期されていない。やむを得ず混入する夾雑物は一次処理で取り除きましょうというのが、もともとの考え方であり、意図的に下水道に流された固形物や油分等は迷惑であり、処理機能に障害を与えるばかりでなく、場合によっては危険でさえある。最近、新聞紙上で話題になっているディスポーザーは、まさに下水道施設をゴミの搬送施設に利用しようとするものであり、現在の下水道施設の機能からは、にわかには受け入れ難いものがある。
 下水道施設ばかりでなく、どのような施設でもそれが設計されたときの設計思想があり、それ以上の役割や期待をその施設に持たせるためには、それ相応の改良や増設を行わなければならない。人間の欲求や願望に基づく利便性の追求は際限がなく、なんでもお金をかければ実現可能であるとの安易な考え方が広がっているが、物事にはけじめというものがあり、限度があり、物を使うに当たって約束事があり、したがって時にはがまんをしなければならないことを教える必要がある。
下水道施設は公共的なものであり自分一人が便利に使うだけでなく、他の多くの人が皆平等に使う権利を有しているものであることを理解させることは大切なことである。法的にも、一般の家庭から排出される下水に比べて著しく濃度の高い下水や、下水道施設に損傷を与える物質あるいは工場、事業場等には、それ相応の除害施設を自らが設けることを義務づけている。下水道はこれを使用する皆のものであり、人に迷惑をかけないように各自が注意して、使っていこうというのが下水道法の基本精神である。

(4)下水処理は、汚泥を安全に処分してはじめてその役割を全うする

 下水処理は、水から汚濁物質を分離し、さらに溶解成分の一部を活性汚泥で生物学的に浄化した後に、固液分離し上澄水を処理水として河海に放流することによって、水の部分についての処理目的を一応達するが、その一方で、汚濁物が濃縮された固形物、すなわち汚泥が処理場に残される。この汚泥の処理処分こそが本来の意味での下水処理であるといえる。
 下水に含まれている汚濁物のごく一部は、生物処理によって炭酸ガスと水とにまで分解されるが、他の多くの汚濁物は汚泥中に残存する。また、活性汚泥自体が増殖した分の汚泥もあり、汚泥を処理場から搬出しなければ、下水処理場は汚泥に埋まってしまうのである。下水処理というと、浄化されてきれいになった処理水にばかり目をうばわれがちであるが、汚泥を安全に処理処分してはじめて下水処理場の役目が全うされるのである。
 下水処理を水処理の過程と汚泥処理の過程に二分して考えるとき、極論すれば、水処理の過程は分別の過程であり、汚泥処理の過程は汚濁物質を安定化し汚泥を処分した後の環境への影響をできるだけ少なくするための調質を行う過程であるといえる。
 物事を観察したり調査したりするとき、ともすると短絡的に答えを一元的に導こうとする風潮が強い昨今、物事の二面性に気付く能力、また、学校のテストにみられる○×式の解答方法では能力を判定できない多角的な思考力あるいは複眼的な視野の広さを育成するには、下水処理の多面性、複雑さ、理科系のあらゆる分野の技術を結集している総合性を理解させることが大いに役立つであろう。
 学校教育においては、物理、化学、生物学等の学科はそれぞれ別個に教育されており、その応用面もそれぞれの学科に特有の分野が例示されることが多いかと思うが、下水処理の分野は、すべての技術分野の寄せ集めでありながら、その総合化が図られており、日常生活に密着したものでもあるので、物事を総合的に科学する目を養うには格好の教材であろう。


[3.常識をのり越える柔軟な思考力で下水道を見直す]

(1) 廃棄物の有効利用

 下水は汚れたきたないものであるから、早く人の目のつかない所に持って行ってほしい。ゴミについてもしかり。人間が生活していく上で、どうしても発生する下水を始めとする各種の廃棄物は、従来、単にやっかい物であるかの如く人目のつかない所で処分されてきたし、そのことは、現在も継続しているといえる。しかし、近年、これらのやっかい物にもようやく光が当てられつつある。省資源、省エネルギーの掛け声の中で、さまざまな分野で廃棄物の有効利用の道が模索されつつある。下水道の分野では、処理水の再利用と下水汚泥の資源化について議論され一部は実用化にこぎつけている。
 使い捨ての時代から資源の循環利用の時代への転換は、オイルショックを契機としているが、その徴候はすでに日本において公害が激化したときに出ていたのである。生産第一主義はなにも工場だけでなく、都市においても見られたのである。下水や廃棄物のことをなおざりにした都市の膨張第一主義は人口の集中を生み、河川や大気の汚染を生じ、その影響が無視できなくなったとき、始めて事の重大さに気付いたのである。
 公害激化の頃は、それは一部の地域の問題であるかの如く見られたのであったが、その後に起こったオイルショックは日本全体の将来に係わることであるとの認識に立たざるを得なかったところが最大の相違点である。ともあれ、有限な資源をどのように有効に使うかを考えるとき、今までかえりみられなかった下水に目がむけられたのである。
 もっとも下水道サイドとしても、下水道事業を今後とも安定して継続していくうえで、下水汚泥の処分問題は避けて通れない課題であったことも事実であるが。
 廃棄物としてしか見られなかった下水汚泥を、コンポストなり建設資材なりに利用することは、時代の風潮とはいえ、画一的な思考法から生まれてくるものではなく、専門の垣根を越え新しく物を開拓して行こうとするチャレンジ精神なくしては考えられなかったことである。下水道事業を担っている人びとが、たえず新しい道を切り開いていこうと努力していることを知ることは、華やかな技術分野に限らず、それを解決できる人材の登場を望んでいることを理解することであり、将来の職業の選択に当たっても広い視野に立って身を処することができるのではないかと思う。

(2) 下水処理場の覆蓋上部利用

 下水処理場の沈殿池や反応槽に鉄筋コンクリートの覆蓋をし、その上部を公園や運動施 設に利用するケースが近年増えてきている。これは限られた土地の有効利用の一例であるが、下水処理場サイドでは覆蓋上部の施設を利用する人びとから監視されている格好になり、臭気等の環境対策により一層の努力を払うという副次的な影響も与えている。大都市の中に建設される下水処理場は土地の関係でどうしても住宅地に近接せざるを得ず、このため、処理場周辺の環境問題について近隣住民とさまざま協議し、問題の解決に向けて施設の改善を図っている。こうした中で、下水処理場の敷地内に公園等の公共施設が併設されることは、新しい考え方が芽生えてきた一つのあらわれである。
 それは、下水処理場が単独の公共施設として建設されるのではなく、他の公共施設と併 設あるいは隣接されることにより、下水処理場のイメージを改善していこうとする考え方である。下水処理場の周辺をグリーンベルト化し、ここに森をつくり散策路を配置する手法や公園の地下部に下水処理場をつくる手法は、この考え方に基づいた具体例である。
 下水処理場を訪れた見学者は、覆蓋上部のテニスコートで白球を追っている姿を見て、下水処理場に対して親近感を抱くであろうし、緑の木立に都市の中の自然を見出すであろう。


[4.おわりに]

 下水処理場で多くの見学者を迎える立場から、こんなことを学んでほしいということについて、特に学校教育との兼ね合いで私なりの考えを述べてきた。下水道の普及率が全国平均で70%を超えた現在(平成20年度末で72.7%)、都市に生活する人びとが下水道の恩恵にあずかるのは当たり前になり、生まれたときから水洗トイレを使用できる世代がどんどん増えている。下水道施設を空気や水と同じ感覚でとらえられるときこそ、学校教育の中で、都市生活を支えている下水道、水道、清掃工場等について、殊更に教授しなければならないのではないかと考えている。そして、下水道がなかった時代の人びとがどのような生活様式であったのかを知らせる必要がある。
 それは懐古趣味でいうのではなく、快適で便利な生活を営むためには、膨大な費用を投じて施設を建設し、それを維持していくために多くの人びとが日夜働いていることを理解し納得したうえで文化生活を享受してほしいからである。先人の努力によって築かれた下水道システムを守っていくためには、その時代、時代に応じた要請を受けて必要な改良、更新を行っていかねばならず、それを実施するためには種々の分野の多くの人材を必要としていることを、これからの新しい世代に語り継いでいく必要があると考えるからである。
 そのためには、現在、下水処理場において片手間に行われている見学者への対応を改善 していく必要があろう。一つは、見学者への説明材料としてのビデオテープやパンフレット類はともすると大人向けのものが多いので学童向けのものも用意し、できれば学校教育に携わっている方にも参画してもらえば、良い教材ができるであろう。また、各現場での説明は下水処理場サイドで行うが、下水道に関する総括的な説明は、学校サイドがそれぞれの学校で上記の教材を用いて事前にすませておいていただく方が、教育効果をあげることができるのではないだろうか。下水処理場には機械類の数も多いため、学童の見学コースは危険な個所は避ける傾向にあり、細かい点については事前にスライド等によって理解させておくことも一つの方法かと思う。
 したがって、下水処理場に見学に来たときは、その施設の大きさ、複雑さ、イメージ等を実感として味わってもらうほか、顕微鏡による微生物の観察、処理水の状況を自分の目で確かめることに注意を集中してもらうのが得策かと思う。このためには、学童の見学会とは別に、学校の先生方の見学会も開き、先生方に下水道事業に対する理解をより深めていただくことが肝要となろう。