読み物シリーズ
シリーズ ヨモヤモバナシ
第69講:知識創造理論を利用した「クリーンダッカ・プロジェクト」の計画
暗黙知を整理して形式知に変換する その1
講話者:石井明男*
コーディネーター 地田 修一
ODAで実施する技術援助は,現地組織の自助努力による自立発展の支援をすることが目的である。つまり介入が完了し,現地の自助努力による自立発展のフェーズに移り,介入が終わった後に,自立発展をしていくことがねらいである。自立発展するには,自立発展が行えるだけの独自の仕組みができている必要がある。ここがプロジェクト計画の難しいところである。
1 知識創造理論にもとづく「クリーンダッカ・プロジェクト」の基本計画
どのようにすれば自立発展していくかは,今までの経験の積み重ねから理屈は,まだ整理しているわけではないが経験的には分かってきつつある。
その自立発展のためのメカニズムを明らかにしていこうとはしているが,幾つかの考えをもとに試みている。そのひとつが,介入が終わってそれまでの介入では表れなかった新たな性質を持つ組織が生まれる,すなわち自己組織化の構造ができることである。
介入が終わった現地の活動に新たな自立発展ができるために「自己組織化」の構造が次第にできて,自己組織化の活動が起こり,活動を発展していくと考えられる。
これまで筆者は自立発展の数理工学的なモデルを作り,解明に取り組んできたが,自立発展の組織がどうしても作為的な部分ができ,明快な解答は得られていない。
2000年頃に,知識創造理論の知識は十分にはなかったが,自己組織化できる可能性のある自己学習システムの開発(*1)が行われていた。
ここで経営学の手法の知識創造理論に基づく暗黙知を利用した活動(プロジェクト)を自立発展の組織を作り上げた経験を示す。
2 知識創造理論(*2)
知識創造理論は経営学者の元一橋大学教授である野中郁次郎氏提唱の組織が活動を継続しながら自立発展できる経営学の手法である。組織が活動を継続しながら自立発展するためにはSECIモデルを構築する。SECIモデルは活動を暗黙知と形式知の変換を通して,活動を4段階に分ける。
2−1 暗黙知(*1)について
マイケルポラニイが「暗黙知の次元(*6)(Tacit demenssion)」(1966)で,暗黙知は言語にない言葉ではあるが,本書で提唱した。
マイケルポラニイは暗黙知の例として
例1 自転車に乗る技術
例2 ベテラン職人の熟練した技術
例3 ベテランセールスマンの豊富な販売経験にもとづく販売技術
を挙げているが,いずれも言語化しにくい,あるいはマニュアルにしにくい事柄である。しかし,世の中には形式知になりにくい知識はたくさんある。スポーツの経験など,暗黙知という考え方に慣れてくるとどこにでもある。しかし欠点は,暗黙知が言語化しにくいので,他人に説明できないことから,暗黙知の概念に気がついた人が他人に説明できないことで,市民権を得られる説明ができない「それは石井さんの個人的意見だろう。」と一蹴されることが多かった。
更に暗黙知の特徴として
2−2 暗黙知で意思疎通ができる共通の経験(暗黙知の共有)ので,言葉に直す必要はない
2−3 暗黙知に適する思考法がある
2−4 創発を生み出す源泉である
2−5 野中郁次郎研究グループは,暗黙知を活用した知識創造理論によるODAプロジェクトの研究題材として「ダッカ廃棄物改善プロジェクト」の解析を行っている。詳しくは,野中郁次郎編著「日本型開発協力とソーシャルイノベーション(*2)−知識創造が世界を変える−」の中でダッカ廃棄物改善プロジェクト」の研究内容が掲載されている。
本稿のおわりに
清掃事業のような社会活動をモデル化することはいくつかの理由があり難しい。幾つかのモデル化の研究を調べてみたが,モデル化が難しいといわれる脳神経科学のような,研究対象が素子一つひとつが分かりやすい神経のネットワークは曖昧な活動要素が排除できるが,社会活動はあらゆるところに曖昧さが紛れ込むのでモデル化が困難である。
理由はいくつか考えられるが,時間に伴う確率の概念の挿入が難しいからかもしれない。つまり活動が決定論で議論しにくい。確率のような概念が必要になってくる。これを排除するために知識創造理論が有効であると思える。
次号につづく
参考文献
1.福島真人 暗黙知の解剖 認知と社会のインターフェイス 金子書房 2001,11
2.小田理一郎「学習する組織」入門 自分,チーム,会社が変わる持続的成長の技術と実践 英治出版 2017.6
3.野中郁次郎編著 日本型開発協力とソーシャルイノベーション −知識創造が世界を変える− 2024 千倉書房
4.石井明男:技術協力プロジェクトにおける自己組織化がプロジェクトに及ぼす影響の研究 廃棄物資源循環学会研究発表会 第33回 2022
5.石井明男 眞田明子 クリーンダッカ・プロジェクト−ごみ処理理が及ぼした社会変容の記録− 佐伯印刷 2017
6.(参考資料)松永正英 知的創造理論に基いたODAプロジェクトの実施 廃棄物資源循環学会春の研究討論会 2025.5.29
7.マイケルボランニー 暗黙知の次元 ちくま学芸文庫 2003
※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括
