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バングラデシュダッカ市で開催された「バングラデシュ廃棄物セミナー」について
 第61講:バングラデッシュの制度や社会に適応しながら,プロジェクトの自助努力によって自立発展の支援の記録 その3

講話者:石井明男*

コーディネーター 地田 修一

 ダッカ廃棄物処理改善技術協力プロジェクトが完了し,その後10年間の活動として制度改革の実施やそれに伴う業務の改革,社会慣習の変化について,実際に変化を体験したダッカ市職員に感じたままをセミナーで発言してもらった。
 本稿ではダッカ市職員と共同作業で多くのプロジェクト活動を行ったが,ダッカ市職員にプロジェクト実施中,あるいは完了後に活動に対して,どのように感じたか,記憶に残る当時の印象,そして後に利用した体験も含めて話してもらった。
発言者はプロジェクトに比較的積極的に関わった清掃監督員,技術職員である。文中の( )は発言者名である。
 どのような経験が知識創造に役立ったか,知識創造の効果を知り,完了後のプロジェクト自立発展に寄与を知る貴重な発言資料である。分析や考察は次号から行う。

I 廃棄物管理事務所長になり,担当ワード清掃事業を管理する時に記憶に残ること

(1)地域ごとに所属する道路清掃職員と住民の啓発をワード廃棄物事務所長として行うように指導されたが,啓発なんてやったことがなく何のことか分からなかった。プロジェクトチームはWBAで何度も説明してくれた。ダッカ市役所上層部では清掃監督員がワード廃棄物事務所長をできるとは思っていなかった。しかし,WBAは今までと違う活動で,やってみたいという清掃監督員が多かった。希望があった。(ショフイック談)
(2)プロジェクトでは2か所の使っていない空き事務所を塗装して机,椅子を入れて廃棄物管理事務所に使った。それまで,当初,清掃監督員は何をすればよいか分からなかったが,チームでは繰り返しWBAの活動内容を具体的に説明してくれた。
 それまでは漫然と道路清掃員が清掃をできていない場所の清掃指導をしていただけの仕事だったが,WBAが分かり始めると管理ができるような気持になった。ワード廃棄物事務所長となった清掃監督員がJICAに前向きに説明してくれた。(モタレブ談)
(3)廃棄物管理事務所ができたので.住民が直接苦情を言ってきてくれるので対応がしやすくなった。それまで住民は,本局の局長に直接苦情を訴え,局長が清掃監督員を怒るという構図だったので,仕事の意欲がなえた。
 今は事務所に直接住民が苦情を言いに来るのですぐに対応もできるし,住民との信頼関係ができてきた。住民との関係が良好になっていった。(モタレブ談)
(4)当事,現場の清掃監督員が廃棄物管理事務所を持つことに本局では反対する職員も多かった。本局では現場の清掃監督員を蔑視していた。
 事務所を持つ清掃監督員と事務所を持たない普通の清掃監督員と差ができるという意見もあった。(ブイヤン談)
 清掃監督員の中には事務所を持ったところで 一生出世しないし,忙しくなるので今のままでよいのではないか。(シヤーカマル談)
 本局の技術職員は最後まで反対していたが,廃棄物管理事務所をもった清掃監督員は成果を出し,実績を作っていこうと思った。(モタレブ談)

U 廃棄物管理事務所長になって感じたこと,経験したこと

(5)廃棄物管理事務所長になって最初に感じたことは,ダッカ市の清掃事業の利害関係者(市役所職員,道路清掃員,収集車運転手,地域住民,商店主,学校関係者,ホテル職員等)が多いこと。(モタレブ談)その上,地域(ララマテキア)によっては有識者や知識層が多く住む地域があり,住民会議をしても清掃事務所長が会議内容についていけないことがあった。様々な利害関係者の対応によくプロジェクトチームは応援に来てくれた。(ビスワッス談)廃棄物管理事務所長(清掃監督員)は勉強が重要だと思った。(モタレブ談) (6)技術協力プロジェクトの指導で仕事に対する取り組む意欲が変わったし,大きく考え方が変わった。清掃事業に興味を覚えて,もっと勉強したくなったので数人の仲間は夜間大学に通った。(モタレブ談)
(7)住民説明用にプロジェクトでは,清掃事業の数年先までの取り組みを示した廃棄物管理事業指針(清掃事業の事業方針)を作成してくれた。
 マスタープランでは大部過ぎて分かりにくいので廃棄物管理事業指針を廃棄物管理事務所所長にとって分かりやすくし,住民にも説明しやすい資料だった。住民説明会にもよく利用した。(ブイヤン,ベノジール談)

V 廃棄物管理局職員と住民が接する機会について

(8)廃棄物管理事務所建設予定地が決まったら2の周辺住民を集めて廃棄物管理事務所建設の住民説明会を行った。住民説明会の手順はプロジェクトが事務所長に指導してくれた。住民説明会では迷惑施設ということで反対も多く,建設予定地が学校の前で反対運動が起こり建設をとりやめたワード78,建設予定地が政府の重要な施設の建設予定地で建設を始めたが政府の命令で中止したワード50,ダッカ大学前に廃棄物 管理事務所を建設するにあたり,ダッカ大学は建設に了解したが,ダッカ市役所が建設を反対したワード46などがあった。市の土地を不法に占拠して花屋を営業していたので立ち退きをお願いしたが立ち退かないので建設ができなかった地域もあった。建設が決まりかけたがエステート局で登記を確認したら市の土地として登記されてなかったので中止になったこともあった。すでにコンポストプロジェクトが撤退していたので,その事務所を改修した廃棄物管理事務所もあった。
(9)区民センターの一室を廃棄物管理事務所に提供してもらったワードがいくつか出てきた(ワード44,ワード85,ワード6など)(ベノジール談)
(10)住民からの寄付で廃棄物管理事務所を建設した廃棄物管理事務所があったが,ダッカ市は正規の事務所と認めなかった(ワード77)(アブタヘル談)
(11)廃棄物管理事務所を区長の予算で建設するという計画ができたが実現しなかった。
(12)廃棄物管理事務所が建設されると,プロジェクトでは必ず廃棄物管理事務所開所式の開催を指導した。開所式には局長,ワードの区長,近隣の住民を招待した。開所式には費用が掛かるのだが,ダッカ市に負担してもらった。この開所式の開催で清掃監督員が住民との接し方を学んだ。住民会議も廃棄物管理事務所で行うようにした。(ショフイック談)
(13)近隣の清掃監督員や廃棄物管理事務所長は事務所に集まり会議を行った。(モタレブ談)

W 廃棄物管理事務所が壊されたことなど

(14)ダッカ市は,ワード76で廃棄物管理事務所の土地にショッピングモールを建設するため,廃棄物管理事務所を廃止し,解体の通告をした。
 一度は解体業者に説明して解体を止められたが,二度目には夜に解体業者が来て,事務所は壊された。(パトワリ談) (15)ホルタルでワード33の廃棄物管理事務所が市民の手で火をつけられた。しばらくは使えなくなったが,必要なので清掃監督員が集まり修理した。(ショフイック談)
(16)ワード84の廃棄物管理事務所はワードコミッショナー(区長)が使いたいということでワード区長と共同利用になった。(ビカシ談)
(17)廃棄物管理事務所の電気料金,水道料金などの維持管理費は誰が払うのか問題になったが,ダッカ市で支払うようになった。(モクレブ談)
(18)廃棄物管理事務所の漏電による電気事故の修理費も最初は廃棄物管理事務所長ダッカ市で支払ったが,最後はダッカ市が支払った。(ビスワス談)
(19)清掃員には女性が多いので専用トイレがないことが問題になり,ワード45では専用トイレを建設した。(ビスワス談)
(20)日本人学校で清掃活動の勉強を授業で取り入れたいと要望があり,ダッカ市で対応した。学校にコンパクターもってきてくれ,授業で体験乗車をさせてくれた。(ブイヤン談)

X 清掃員の就業について

(21)約8,000人の清掃員のうち5,500人の道路清掃員に清掃作業マミュアル(18ページ)を全員に配布して作業の指導を行った。研修では安全具としてのマスクと手袋を支給した。排水清掃員にはゴム長靴を配布した。安全具はなくなるとダッカ市からの支給が不定期に行われた。各事務所にはファーストエイドボックス(救急箱)を配布して使い方を指導した。健康管理の指導も行った。研修講師は清掃監督員,保険局職員,清掃組合幹部が行った。
(22)清掃員が年に一回無料で健康診断を受診できるようになった。
(23)ファーストエイドボックスの薬がなくなり,ダッカ市に頼んだが補填されなかった。保険局に頼んだら費用を請求された。(アブタヘル談)
(24)ダッカ市では清掃員用に事務所にウォーターサーバーを購入してくれた。(モタレブ談)

Y その他

(25)JICAの無償資金協力で供与されたごみ収集車両の燃料はCNG車両になった。このために運転手組合が運転をしなくなったが,マスコミが日本の援助で供与されたのに運転しないことを新聞が批判するようになったことが強く印象に残っている。(ハスナット談)  一時期は収集車両が埋立地に入れないように運転手組合が埋立地入口にバリケードを張ったこともある。
(26)プロジェクトでは定期的にニューススレターを発行し,各廃棄物管理事務所に配布してくれた。最初はプロジェクトの活動の意味が分からなかったが,活動が分かるようになっていった。(ベノジール談)
(27)プロジェクトではWBAの解説したブックレット(24ページ)を各清掃監督員に配布してくれた。また,活動をまとめたDVDを作成して各廃棄物管理事務所に配布してくれた。(活動記録,WBAの解説,埋立地の維持管理の3を作成)
(28)清掃監督員がJICA日本研修に頻繁に行けるようになっていった。多くの清掃監督員は日本研修に参加した。(モタレブ,ビスワス,ベノジール他 談)

本稿の終わりに

 本稿ではプロジェクト実施中や完了後にプロジェクトについて長年にわたって清掃監督員及び本局の技術職員に聞き取りの記録,メモをもとに談話をまとめた。カウンターパート側からみたプロジェクトについてはあまりまとめた記録がないのでこの機会にまとめた。
 どのような活動が後の知識創造に寄与するか,そして自立発展に寄与するかを今後機会を見つけて分析してみたい。

NewsLetter(Ward(廃棄物管理事務所)一覧)



NewsLetter表紙



ベンガル語で書かれた道路清掃員の作業マニュアル(作業内容例)



ベンガル語で書かれた道路清掃員の作業マニュアル(表紙)



WBA解説のBooklet(表紙)






WBA解説のBookJet(内容例)



※元東京都清掃局,元ダッカ廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元スーザン国ハルツーム州廃棄物管理能力強化プロジェクト総括,元パレスチナ廃棄物管理能力強化プロジェクトフェーズU総括,現東洋大学大学院博士後期課程,元南スーダンジュバ市廃棄物処理事業強化プロジェクト総括